第120話 馬車旅1


 王都の南駅舎の先にある馬車工房の前にナキアちゃんとキアリーちゃんを連れて跳んだ。


 馬車工房の横手の道を奥に抜けたら、確かに牧場が広がっていた。牧場では何頭も馬が草を食べたり軽く駆けたりしていた。


「いるいる」


 牧場を囲む柵に沿った道を厩舎に向かって歩いていき、厩舎の出入り口から中に向かって来意を告げた。


 すぐに扉が開いて中からおじさんが現れた。


「馬車馬が2頭だな。

 好きな馬を選んでくれ。

 こっちだ」


 わたしたちはおじさんに連れられて、柵の中の牧場に入っていった。


「ちょっと値段は張るが、そこの白毛と隣の青毛がいまうちで出せる馬車馬の中じゃ最高だ。若いのに扱い易いうえ、力も強い」


 素人のわたしから見た感じ普通の馬に見えるけど、現代人のわたしの目から見て普通の馬に見えるということはある意味すごいことのような気がする。とはいえ御者ができるキアリーちゃんに聞いてみた。


「キアリーちゃんから見てどう?」


「なかなかいい馬だと思うよ」


「じゃあ、この2頭でいいかな?」


「うん」「わらわも賛成じゃ」


「おじさん、2頭合わせていくらですか?」


「金貨100枚は欲しいところだが金貨95枚に負けてやるよ」


 馬車馬2頭といっても、わたしたちの報奨金とほぼ同じ値段なんだ。


「じゃあそれで2頭とも買おうかな。

 おじさん。4、5日分のまぐさとかおまけしてくれないかな?」


「それくらいなら構わないぜ」


「あと明日の朝、9時くらいかな。それくらいの時間に連れていくから、それまで預かってくれる?」


「了解。明日の朝までに2頭をきれいにしといてやるから任せてくれ」


 わたしは今日報奨金で貰った袋から金貨5枚を抜き出して袋ごとおじさんに渡した。


 おじさんがその場で苦労して金貨を数え終わり、


「金貨95枚、確かに受け取った。

 しかし、あんたたち若いのによくこんな大金持ってたな。大店おおだなの子どもなら店の者が買い付けにくるから、そういうわけでもないんだろ?」


「いちおうそれなりに稼いでるものでね」


「結構なこった。じゃあな」


「それじゃあ明日ね」



 おじさんに別れを告げて牧場から外に出たわたしたちはすぐにカディフの公邸のナキアちゃんたちの部屋に戻った。


 部屋に戻ったわたしたちはさっそく馬に名まえを付けることにした。


「白馬と黒馬じゃから、『しろ』と『くろ』ではないか?」


「それだと犬だよ」


「馬の名まえだから、速そうな名まえがいいんじゃないかな。例えば、疾風と迅雷とかどうかな?」


「名まえがカッコよすぎて名前負けしそうなのじゃ」


 そう言えばどこかのweb小説(注1)で馬の名まえがあったな、確かあれはシルバーとウーマ。


「じゃあ、シルバーとウーマはどうかな?」


「それはどう言う意味なのじゃ?」


「シルバーはわたしの国の言葉で銀って意味で、ウーマは何だっけなー。あっ、思い出した馬って意味だった」


 馬でウーマはないけど覚えやすいと言えば覚えやすい名まえだと思う。


「それでよいのではないか。覚えやすいし。白馬がシルバーで黒馬はウーマじゃな」


「それでいいと思う」


 2頭の名まえがこれで決まった。後悔はしない。



 そんなことを話しているうちに夕食の時間になった。


 女の人に案内されて食堂に入った。6人テーブルが一つ置いてあるだけの比較的小さな食堂で、わたしたち3人だけしか人はいなかった。ナキアちゃんとキアリーちゃんが並んで座ったので、わたしは二人の向かいの席に着いた。


 テーブルの上にはもう料理が並べられていたので、すぐにわたしたちは食事を始めた。


「料理はそれなりに見えるのじゃが、飲み物が水だけとは実に味気ないのじゃ」


「だね。カディフの街ってあまりお金ないのかな?」


「あまり考えたことはなかったのじゃが、案外そうなのかもしれぬな。

 まあ、ただで供してもらっているわけじゃからあまり文句も言えぬのじゃがな」


「お酒ならたくさんあるけど、ここで勝手に飲んで平気かな?」


「もちろん平気なのじゃ」


「じゃあ、今日貰って来たお酒を飲んじゃおうか? 濃いのと薄いのどっちにする?」


「夕食じゃし、薄い方でよいのではないか?」


「うん」


 アイテムボックスの中から4斗樽を取り出して、わたしの椅子の斜め後ろにデンと置いた。


「かわった形の樽なのじゃな」


「魔族の樽はこんな形してるんだー」


 ウイスキーやビールの樽とは全然形が違うものね。


 樽の上には木の蓋がしっかりはまっていて簡単には蓋が外れそうもない。そう思って蓋の出っ張り2カ所に指を掛けて力を入れて引っ張ったら意外と簡単に蓋が外れた。自分が怪力だったから蓋が簡単に外れたわけではなく、運よく外れたのだ。と、ポジティブシンキングしておこう。


 大き目の木のコップを3つとおたまをアイテムボックスから取り出し、おたまですくってコップに注いでいき二人に渡した。


「それでは明日からの旅行に向けて乾杯!」


「かんぱーい!」「乾杯なのじゃ!」



 結局その日は夕食で出されたメニューだけでは肴が足らなくなってしまい、厨房に無理を言って干し魚を焼いてもらって肴にしてしまった。


 夕食だか飲み会だかわからない夕食を真夜中まで続けた。結局4斗樽は4分の1くらい減っていた。1斗は18リットルなので一升瓶10本分日本酒を3人で飲んだことになる。たくさん飲んだというべきか、それくらいで済んだというべきか。最後に3人でもう一杯飲んでから蓋をしてアイテムボックスにしまっておいた。


 飲み会が引けた後、わたしたちはそれぞれの部屋に戻り、おとなしくベッドに入った。



 翌朝。昨日と同じ食堂で3人で朝食をとったあと、ナキアちゃんが公邸の管理人に自前の馬車でカディフに帰ると告げた。


 その後二人の部屋にあった荷物をアイテムボックスにしまって、牧場に跳んでいった。


 先に厩舎の前に馬車を出しておき、少し時間は早かったけれど、


「おじさん、おはよう」と、厩舎の中に向かって朝のあいさつをしたら、おじさんが中から出てきた。


「おはよう。おっ、馬車がいつの間に。

 ま、いいや。準備はできてるぜ」


 おじさんと助手っぽい男の人でシルバーとウーマを一頭ずつ引いて牧場の柵から外に出してくれた。厩舎の前につながれたシルバーとウーマはブラッシングされたみたいで毛並みが昨日より輝いているように見えた。


「馬具を取り付けておくね」


「わらわも手伝うのじゃ」


 そう言ってキアリーちゃんとナキアちゃんは馬車の中から馬具を取り出して、二頭の馬に取り付け始めた。おじさんと助手は飼葉を持ってくると言っていったん厩舎の中に入って干し草の塊を2つずつ抱えて持ってきてくれた。


「おじさんありがと」


「干し草だけでもいいが、たまに果物とか野菜をやると喜ぶからな。

 それじゃあ、大事に使ってやってくれよ」


「任せて」


 おじさんたちが厩舎の中に帰っていったところで干し草の塊をアイテムボックスにしまっておいた。





注1:どこかのweb小説

『真・巻き込まれ召喚。~』https://kakuyomu.jp/works/1177354054894619240 未読の方はぜひ。

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