第28話 精鋭調査隊1。胡蝶の舞
馬車はベネット家を出て、10分ほどでターナー伯爵の王都邸に到着した。
ゲランさんは公用の荷物を屋敷から迎えに出てきたおじさんに手渡した。御者のおじさんは馬車の括り付けられていた荷物を玄関前に降ろし、迎えのおじさんがどんどん玄関の中に荷物を運び入れていった。荷物を降ろし終えた馬車はそのまま王宮に向かった。
馬車は王宮の門前でいったん止まった。そこで馬車を下りたゲランさんが詰所の窓口でひとことふたこと告げたら通行が許され、門衛の兵隊たちが道を空けた。
ゲランさんが馬車に戻ったところで馬車は動き始め王宮の門を抜け、砂利敷の道を進んで宮殿の車寄せで止まった。
わたしとゲランさんが馬車を下りたら、馬車は馬車溜まりに移動していった。
車寄せで馬車を降りた先の扉から宮殿の中に入ると右手に受付があった。そこでゲランさんが受付の女性に書類を手渡した。
受付の中から出てきた女性に少し先の待合室に案内された。
「こちらでしばらくお待ちください」
二人で椅子に座っていたら、鼻の下にひげを蓄えたおじさんが部屋の中に入ってきた。
「ヨーゼフ宰相の第一秘書を務めますメテルニーです」
「ブレスカ市長のターナー伯爵の秘書を務めますゲランです」
「えーと、シズカと言います」
わたしは冒険者しか肩書がないので名まえだけ言って軽く頭を下げておいた。こういうところは日本人だよね。
「王国が募集している調査団のメンバーにどうかということで、ターナー伯爵のご推薦でブレスカからお見えになられたとか」
「はい。こちらがターナー閣下からの推薦状です」
そう言って、ゲランさんが上着の内ポケットの中から封筒を取り出した。
封筒を受け取ったメテルニー氏は「こちらは預からせていただきます」と言って自分の上着の内ポケットにしまった。
「ターナー伯爵のご推薦ですので、間違いはないと思いますが、メンバーとの実力差があまりありますとご本人も大変でしょうから、明後日、その辺りを確かめさせていただきます。
明後日、10時ごろ、武器防具をご持参の上、近衛兵団の訓練場までお越しください。
近衛兵団の訓練場の場所はご存じでしょうか?」
「はい」
「門の脇に門衛の詰所がありますのでそこで声をかけてください。
当番兵がそこから先のご案内をいたします。
それでは私はこれで」
そう言ってメテルニー氏は部屋を出ていった。
勝手に宮殿内を移動できないので、部屋の中で椅子に座っていたら、最初に案内してくれた女の人がやってきて出口まで案内してくれた。出口の車寄せにはちゃんとわたしたちが乗ってきた馬車が回されていた。
わたしたちが馬車に乗り込むと、すぐに馬車は動き出し、来た道を引き返していった。
帰り道。
「案外大変そうですね」と、わたし。
「私はターナー伯爵の推薦状だけでそのままシズカさんが採用されるものと思っていました。申し訳ありません」
「いえ、わたしが他の人の足を引っ張るようでは問題なことは十分理解できますからだいじょうぶです。馬車にずーと乗ってばかりでここのところ体を動かしていないから、帰ったら少し体を動かしておきますね」
「そうですね。がんばってください。剣の素振りくらいでしたら王都邸の中庭で出来ます」
ゲランさんからすればそれくらいしか言葉のかけようはないものね。もしわたしが不採用になればターナー伯爵の顔に泥を塗ることにもなるだろうし、ターナー伯爵が中央から軽んじられるかもしれないから気を引き締めていかなくちゃ。
実力テストになるわけだろうけど、どんなテストをするんだろうか? モンスターはさすがにいないだろうし、どうやって実力を計るのか見当もつかない。
王国一くらいの実力者と模擬戦でもするのだろうか? 木刀を使ったとしてもかなり危険だよね。まかり間違えば相手を撲殺することになるし。もしわたしが模擬戦で死んじゃったら、神さま困るよねー。そう考えると、わたしは誰にも負けないような気がしてきた。気の持ちようだよね。
ターナー伯爵の王都邸に到着して馬車から降りたわたしは王都邸で働く女性に客室に案内された。最初に迎えてくれたおじさんが王都邸の管理人で、その女性はおじさんの娘さんということだった。
少なくとも今日から明後日の朝まで厄介になることになる部屋だ。わたしはさっそく部屋の中で防具一式を身につけた。わたしの部屋から直接中庭に出られたので、わたしはムラサメ丸をアイテムボックスから取り出して、素振りをすることににした。なにか剣の型でも知っていれば格好がついたのだが、知らないものは仕方がない。わたしは上段に振りかぶって振り下ろす、だけを続けた。
100回くらい真面目にムラサメ丸を振っていたら汗が少し出てきた。
わたしが素振りをしていたらゲランさんが中庭にやってきた。観客がいる以上何かカッコいいところを見せようと思ったわたしは素振りをしながら剣の型を考えてみた。
一番間合いを遠く取れるのは、片手での突きだ。ただ片手では剣の動きはぶれやすいしもちろん力も入らない。それにスキも多い。
両手でしっかり重心を乗せた突きでなければならないだろう。その突きからいかにスキを見せずに引くのかがポイントだ。いなされた後は両手ががら空きで最悪そのまま両手が叩き切られてしまう。
ああでもないこうでもないと考えながら、ムラサメ丸を振り回していたら知らぬ間に体の動きも良くなって、何だか型のような物ができ上がってきた。わたしって実は剣の素質があったのかも?
それからのわたしは、編み出した型に沿ってムラサメ丸を振り、それに合わせて体を動かしていった。何度も繰り返していたら、少しずつ調子が出てきた。そこで、システム音が頭の中に響いた。
『剣術2の熟練度が規定値に達し、剣術2は剣術3にレベルアップしました』
おお。戦闘関連スキルでも実戦以外で経験値が貯まるのか。これはありがたい。最初の組み立てはアーチャーだったけどここにきてわたしは剣士になったようだ。
わたしは一連の動きをシズカ流奥義、胡蝶の舞と名づけた。名まえを付けたことで何だか凄い技のような気がしてきた。必殺技はおろか技でも何でもないんだけれどね。
夢中になってムラサメ丸を振り回していたら、昼食の時間になったと知らされた。汗を軽く拭いてクリンをかけたわたしは部屋に戻って服を着替えたころ、ゲランさんが迎えに来てくれた。
<ステータス>
レベル9
SS=8
力:17
知力:13
精神力:12
スピード:12
巧みさ:15
体力:23
HP=230
MP=130
スタミナ=230
<パッシブスキル>
ナビゲーター
取得経験値2倍
レベルアップ必要経験値2分の1
マッピング2(49パーセント)
識別2(39パーセント)
言語理解2(35パーセント)
気配察知1(42パーセント)
スニーク1(33パーセント)
弓術2(28パーセント)
剣術3(1パーセント)
<アクティブスキル>
生活魔法1(12パーセント)
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