第110話 2次会。プリフディナス見学1


 晩さん会で思いがけなく握り寿司と茶碗蒸しをいただいたうえ、アイスクリームまで食べてしまった。食生活という意味では、日本にいた時以上だ。すなおに羨ましい。



 案内を付けるので明日は街を見物してはどうかと、食事中明日香がハーネス隊長に提案した。


 魔族の城の観察が調査隊の使命だったわけで、ハーネス隊長は二つ返事で申し出を受けた。


 明日の朝、食事を終え、各自の部屋で待機していれば9時ごろ迎えが来るそうだ。



 晩さん会がお開きになった後、わたしたちは侍女に連れられて各自の部屋に戻った。


 部屋に入り寝間着代わりの部屋着に着替えていたら、扉がノックされた。扉の向こうに黄色い点が2つ、レーダーマップに映っている。


「はい」


『わらわたちじゃ』


 扉を開けたら部屋着を着たナキアちゃんとキアリーちゃんが立っていた。


「どうしたの?」


「どうも飲み足らんかったから、シズカちゃんのところに押しかけたのじゃ」


 確かにナキアちゃんたちは、さっきの晩さん会では飲む量をかなりセーブしていたようだしまだ時刻は9時前なので飲み足りなかったようだ。


「ビールはないけど、濃いお酒はまだ残っているからアレを果汁で薄めて飲もうか」


「賛成なのじゃ」


「さんせい!」


 部屋の中には小さな丸テーブルはあったけど、本当に小さかったし、椅子も二つしか付いていなかったので床の上で車座になって2次会が始まった。


 まずは瓶入りの濃いお酒を並べ、オレンジを皿の上に盛り、まな板も出してナイフでオレンジを半分に輪切りにしていった。


 各自でオレンジをコップに絞りその上からお酒を足した。でき上ったらナキアちゃんが冷たくしてくれた。


 つまみにはナッツ類と干し肉を出した。


「「かんぱーい!」」


「しっかし、魔族というから野蛮な連中かと思うておったのじゃが、わらわたちの方がよほど遅れておることが良く分かったのじゃ」


「だよねー。こんなすごい建物、ドライグはおろかどこの国にもないもんね」


「その通りじゃ。しかも移動には転移魔法陣ときた。もし人族が魔族に対して戦うというなら、大敗は必至じゃな」


「そう思う。勝てるわけないし、勝っちゃいけないような気もする」


「そうじゃな。

 先ほどわらわたちは冗談でここに残ると言ったのじゃが、さすがに戻らないわけにもいくまい。

 シズカちゃんはここの女王と知り合いじゃから帰らずとも何ともないと思うのじゃが、どうするのじゃ?」


「わたしも帰ることにする。帰ってからのことは分からないけど」


「国に帰れば今回のことをハーネス隊長が国のお偉方に報告するわけじゃが、果たしてどのような結論になるかの」


「魔族の目的は一応達成されたということでもうモンスターを人族の領域には送らないという話だったけど、人族からすれば犠牲をいとわず脅威の元を断ってしまえ。って、なるんじゃないかな」


 わたしもキアリーちゃんの予想が当たるような気がする。その時わたしはどちら側に付くのかと言えば、明日香のいる魔族側に付くと思う。ナキアちゃんとキアリーちゃんは当然人族側に立つわけだろうから、わたしたちで殺し合うことになるのだろうか?


「まだ当分先のことじゃろうから、ここで心配しても始まらぬからどんどん飲むのじゃ!」


 それからわたしたちは、飲み続けた。


 夜の3時ごろまで3人で飲んでいたんだけど、今日の・・・9時からの見学に差しさわりが出そうなのでそこでお開きになった。ナキアちゃんに祈ってもらって疲れをとってもらい、後片付けが終わったらナキアちゃんとキアリーちゃんは自分たちの部屋に帰っていった。




 部屋の電気・・を消して真っ白のシーツのかかったフカフカのベッドに入ったわたしはすぐに眠りについた。




 内側のカーテンを閉めずレースのカーテンのままにしていたのが悪かったようで、夜が明けて部屋の中が明るくなったことで目が覚めてしまった。時刻は6時。


 クリンですっきりしたわたしは、部屋着を脱いで、白のTシャツを着て昨日着たパンツスーツと色違いのベージュのパンツスーツを着た。靴は昨日と同じパンプスだ。履き心地がすごくいい。


 7時ごろ部屋の扉がノックされ、侍女がワゴンに乗せた朝食を持ってきてくれた。


 ベーコンエッグにソーセージ、皮付きのフライドポテト、クロワッサンにレーズンの入ったバターロール。トマトとブロッコリーとレタスのサラダにオレンジジュースといった洋風ブレックファストだった。しっかり残さず食べた。食べ終わった頃侍女が紅茶をいれてくれ、お皿なんかを片付けてくれた。行ったことはないから想像だけど、日本の高級ホテルなんかよりサービスが良さそう。



 食後の片付けをしてもらい、まったりとお茶を飲んでいたら、扉がノックされた。返事したらナキアちゃんとキアリーちゃんだった。見学に出かける9時まで暇なので遊びに来たそうだ。


 ナキアちゃんの今日の格好は昨日のゴスロリから一転して、水色のフレアのミニスカートに白のニーソックス。その上に白の半そでのブラウス。ブラウスは裾だししている。靴はやや厚底の茶色のパンプス。


 キアリーちゃんはわたしのパンツの色と同じようなベージュのハーフパンツにピンクのTシャツだった。足元は白いソックスに白いスニーカー。


 さすがにこれから飲み始めるわけにもいかなかったので、結局3人でベランダに出て下界を眺めながら雑談をした。


「こんな背の高い建物を造る技術がある国じゃぞ。人族には人魔大戦時に使用されたアーティファクトがあるというが、通用するのじゃろうか?」


「魔族が本気になってモンスター、例えばあの巨大蜘蛛のような大型モンスターを街に放ったらアーティファクトで討ち取れるにせよ、討ち取る前に街はメチャメチャだよ。

 人族から魔族に本気の戦争を仕掛けたら、そういうことも考えなけりゃいけないわけだし」


 魔族に対して開戦することに二人とも否定的な意見だ。それはそうだ。


 しかも、人魔大戦時の魔族はどういったリーダーに率いられていたのか分からないけれど、今のリーダーは現代人の明日香だもの、もし戦うとなれば合理的な作戦を立てるはず。


 人族側の戦争目的が脅威の排除、魔族の殲滅とすると、魔族側の戦争目的は当初は国の存続なのだろう。明日香がそこまで考えるとも思えないけど、魔族側が人族の殲滅を目指せば簡単に達成できる気がする。


 女神は明日香には人族に危機感を与えることで魔力の流れを良くしたいって言ってたそうだし、わたしにはただ生きてさえいればいいって言ってた。


 そういったことを考えると、何かがおかしい。



[あとがき]

宣伝:『裏切りの代償』(800字弱)https://kakuyomu.jp/works/16817330663242258040 2023年9月6日、公開しました。

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