第60話 ゴブリン討伐1


 火の粉が降りかかってこなかったので、少し早かったけれど昼食を食べようと屋台が出てる中央広場に向かった。


 人出でにぎわう中央広場の中を、屋台を物色しながら歩いていたらパンにソーセージを挟んだホットドッグそっくりの調理パンを売っていたので買ってみた。


 パンが柔らかいことを期待して、かぶりついたところ、パンは十二分に硬い上、ソーセージがなんだか柔らかくてとても食べられたものではなかった。それでも捨てるわけにもいかなかったので我慢して完食した。


 エレナちゃんイベントは3日後のはずで時間がある。ホットドッグ風の調理パンを食べ終えたわたしは事前に不届きものを成敗してやるつもりで広場の中をパトロールすることにした。


 広場周辺の人はレーダーマップ上ではみんな黄色い点として映っている。わたしにあからさまな敵意を向けている者はいないようだし、当たり前だけどモンスターが潜んでいるわけでもない。


 不審者を見る目でそこら辺の連中を睨んでいたら、何だかわたしの周りに真空地帯エアポケットができてしまった。他人ひとから見て今現在この広場の中で一番怪しいというか危ない人物はわたしかもしれない。


 なんだかおかしなことになってきたんだけど、気にしても仕方ないのでそのままパトロールを続けた。


 するとどこかで見たことのあるようなないような若い男が辺りをキョロキョロ見回していた。懐かしのチンピラさんかと思い識別してみたところ人間だった。だからと言っていつチンピラにレベルアップしないとも限らないので要注意人物としてマークすることにした。具体的には男の後をつかず離れず追うことだ。


 わたしの周りに真空地帯エアポケットができる関係でかなり目立ってしまう以上、わたしの尾行が男に気づかれたのは偶然ではなく必然なのだ。


「お前、さっきから俺の後をついてくるようだが、何か俺に用でも、……、用があるんですか?」


 男の口調が威圧的なものからだんだん尻すぼみになってきた。これもわたしの外見からくる威圧効果の賜物なんだよね。


 なぜかここでシステム音。


『パッシブスキル、「威風」を取得しました』


『アクティブスキル、「威圧」を取得しました』


 ついでにステータスを確かめたらこうなってた。


レベル25

SS=22

力:28

知力:18

精神力:17

スピード:30

巧みさ:34

体力:33


HP=330

MP=180

スタミナ=330


<パッシブスキル>

ナビゲーター

取得経験値2倍

レベルアップ必要経験値2分の1


マッピング2(67パーセント)

識別2(53パーセント)

言語理解2(82パーセント)

気配察知1(80パーセント)

スニーク1(44パーセント)

弓術3(41パーセント)

剣術6(88パーセント)

威風(1パーセント)


<アクティブスキル>

生活魔法1(24パーセント)

剣技『真空切り』

アドレナリン・ラッシュ

威圧


 わたしって、このままいくとヤのつく自由業の方にスカウトされるかも?


「用はないけど、一言だけ言わせてくれるかな?」


「何ですか?」


「小さな子どもを相手にすごんだりしないように。

 もしそんなことをしているのを見つけたら、ただじゃ済まさないから。分かった?」


「もちろんです。子どもなんかをいじめることなんかありません」


 いやに素直。人違いだったのかなあ? まあ、人違いでも構わないけどね。


 わたしがそれっぽい男に対して大きな声を出していたものだから、わたしたちを中心に半径5メートルの人の輪ができてしまった。いいけどね。


 男をその場に置いて輪の外に向かって歩いていったら人の輪が開けて道ができていく。これじゃまるでモーゼだよ。


 あんまり目立ってしまったので、中央広場からそろそろ退散することにした。行く当てなんかなかったので、冒険者ギルドに戻って何か適当な仕事を見つけることにした。


 わたしがホールに入っていくとそれまでざわついていたホールの中が静かになった。わたしをみんな見ている。あれ?


 気にしても仕方ないので、壁に貼ってある紙を見てみることにした。


 壁に貼ってある紙は予想通り依頼票だった。わたしのweb小説知識からすると、この時間まで残っている依頼は冒険者にとって割の良くない依頼ということだろう。壁の依頼票を見ている人の数も数人しかいない。その数人もわたしが近づくと場所を空けてくれる。


「なになに?

 アカタケ採集」


 アカタケってキアリーちゃんが持っていたベニテングダケもどき?


『はい。その通りです』。ナビちゃんが答えてくれた。


 南の森の中であのキノコは見なかったけど、どこか別のところがあるんだろうな。


「こっちの依頼票は?

 なになに。運河の浚渫」


 こういった仕事も冒険者ギルドで斡旋しているわけか。わたしの脳内で冒険者と訳しているけど、労働者って訳した方が適切かもね。


「こっちはゴブリンを最低10匹の討伐か。

 マリム村って書いてあるけどわたしじゃどこだか分からないなー。

 明日、明後日暇だから日帰りできる場所ならこの仕事をとりあえず受けてみるか」


 わたしはゴブリン討伐の依頼票を持って窓口に向かった。冒険者証もあった方がいいと思いアイテムボックスから取り出しておいた。


 冒険者証と依頼票を窓口嬢に見せて依頼のことを詳しく聞くことにした。


「この依頼なんですが、このマリム村ってここから遠いんですか? 地理に不慣れなもので」


「マリム村は歩きですと4時間ほどかかります。ブレスカの北駅舎から出ている馬車に乗れば2時間ほどです」


「道は簡単なんですか?」


「北の街道を2時間ほど歩いていくとマリム村へ続く分かれ道があります。道標が出ているので道標通り左に折れてまっすぐ2時間ほど進めばマリム村です」


 歩きで4時間ということは走れば2時間か。手ごろだな。


「ゴブリンの居場所は分かっているんですか?」


「詳しいことは依頼者のマリム村の村長にお聞きください」


「了解しました。

 この仕事を受けます」


「えーと、お仲間が見えませんが、もしかしてお一人でこの仕事を受注するおつもりですか?」


「はい」


「ゴブリン単体ですとそれほど脅威ではありませんが、20匹以上のゴブリンがいるそうです。20匹以上のゴブリンがいる場合、上位種の存在も疑われます。お一人では無謀です」


 某アニメではゴブリンは狡猾でそんなに甘いモンスターではないらしいけど、これまで戦った感じではそこまでじゃないんだよね。上位種と言ってもホブゴブリンなんでしょ? それが理由でまだ依頼票が残ってたんだろうけど。


「オーガ1匹とホブゴブリン2、3匹が率いたゴブリン20匹を比べればオーガの方がたおしにくいですよね?」


「もしかしてあなたは今朝オーガの魔石を売った方?」


「はい」


「それでしたら何も申しません。

 ゴブリンの左耳1つにつき銀貨1枚の報酬ですが、ゴブリンの左耳が10個以上ですと別途金貨1枚が支払われます。

 こちらが受注票になりますのでゴブリンを10匹以上たおしその左耳をマリム村の村長に見せて、受注票のここにサインをもらってきてください」


「了解しました」


 明日の朝、朝一で朝食をとってから走っていけば遅くても9時前には村に着く。


 今日はこれから下準備として矢を買っておくことにしよう。ゴブリン討伐に使うかは分からないけれどオーガ襲撃イベントにも使えるしね。



 

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