第59話 冒険者登録と魔石売却
夕食を食べ終えたわたしは早々に部屋に戻って寝間着代わりにしている服に着替えてベッドにもぐりこんだ。
その日の夜、窓の外から聞こえる雨音で一度目が覚めた。雨漏りのしない屋根の下で浸水しないベッドの上で寝られることの幸せをかみしめながら、わたしは目を閉じあっという間に眠りに落ちた。
翌日。
朝食を食べ終えたら、冒険者登録をするため冒険者ギルドに向かうつもりだ。
部屋に帰ったわたしは今回はソレらしく完全武装した。普段アイテムボックスの中に入れっぱなしのムラサメ丸も腰に吊るしている。
宿を出る時、鍵を預けたわたしに向かってニーナちゃんが、
「シズカさん、今日は剣まで腰に下げてどうしたんですか?」
「冒険者登録をするつもりなんだよ」
「見た感じシズカさんそこらの冒険者なんかよりよほど迫力があって強そうなのに冒険者じゃなかったんですか?」
えっ!? わたしってそんなにごつく見えるのかな? まあ死線を乗り越えられずに一度死んでしまったので妙な迫力が備わった可能性があるか。
「うん。登録しておいて損はないと思うしね」
「何にせよ気を付けていってらっしゃい」
「ありがと。じゃあ行ってくる」
雨上がりの道を冒険者ギルドまで迷うことなく歩いていったわたしは、開きっぱなしの扉から中に入った。
ホールにはざっと見40名ほどの男女がいた。朝方だからか結構な人数だ。20人ほどはカウンターの前に並び残りの20人ほどはグループごとに丸テーブルを囲んで椅子に座ったり、立ったまま話をしていた。
それなりの格好をした見ず知らずの女がホールに入ってきたものだから、受付の前に並んでいない連中から注目を集めた。わたしをじろじろ見ていた連中に目を向けたら、連中は目をそらした。
今のわたしってそうとう迫力あるんだろうな。
カウンターには受付嬢が4人ほど並び、その前に列を作った冒険者の相手をしている。
わたしは一番短いと言っても長さはそんなに変わらない列の一番後ろに並んだ。
なかなか列ははけなかったけれどやっとわたしの番になった。なぜかわたしの後ろには誰も並んでいなかった。いいけどね。
目の前の比較的ベテランに見える受付嬢がわたしに向かって「冒険者証をお願いします」と、言った。
冒険者に見えるんだ。そりゃそうか。
「わたしまだ冒険者じゃないんで、登録お願いします」
「そ、そうだったんですか。ベテラン冒険者の方に見えたものですから。
こちら紙にお名前とお歳、それに得意なことをお書きください」
ただの冒険者じゃなくってベテラン冒険者か。そこまでとは思わなかった。鏡を見ていないので、はっきり分からないんだけどわたしの目つきってそこまでなのかな。目力で勝ったとか喜んでる場合じゃなかったのかも。
「わたしはこの国の言葉を書けないので代筆お願いします」
「かしこまりました。どうぞ」
「名まえはシズカ。
年齢は18歳。
得意なことは剣術と弓術」
「……。書類ができましたので冒険者証を発行します。しばらくお待ちください」
受付嬢は書類を持って席を立ち、後ろのほうに速足で歩いていきすぐに戻ってきた。
「冒険者証ができ上るまで、冒険者の規約等についてご説明します」
前回同様受付嬢からの説明を流し聞いたら、
「冒険者証は
手渡された
これでよーし。
冒険者証は人目を気にせずアイテムボックスにしまっておいた。
南の森からこのブレスカに戻ってくる間に仕留めた大ウサギの皮が3枚ほどある。確かウサギの皮は1枚大銅貨1枚だったのでわざわざ売るほどでもないけれど、持っていてもあまり意味はなさそうなのでこの際だから売ってしまおう。本命は魔石なんだよね。飛竜の魔石が1個にオーガの魔石が6個ある。どれもかなり立派な魔石なのでそうとう高く売れる気がする。
買い取り窓口に回ったわたしはそこの窓口のおじさんに、
「買い取りお願いします」と、声をかけた。
「お前さん見ない顔だが、その面構えからして相当できそうだな」
ここでも言われてしまった。気にしても始まらない。
「昨日この街に来たばかりで、さっき冒険者登録したばかりなんですけどね」
「冒険者であろうとなかろうと強いヤツは強いしできるヤツはできる」
このおじさんなかなか分かっていらっしゃる。
まずはウサギの皮を3枚アイテムボックスの中から取り出した。
「おっ! アイテムボックスを持ってるのか。おまえさん見た目もそうだが、本当にただものじゃないな」
おじさんはウサギの皮を持って裏返したりして確認したあと、
「どれも弓で一撃か。3枚で大銅貨3枚というところだな」
おじさんが机の引き出しから大銅貨を3枚取り出して渡してくれた。
「あと、魔石を持っているんですけど引き取ってもらえますか」
「ああ、もちろん引き取らせてもらう。
どれ、見せてみろ」
わたしはオーガの魔石をアイテムボックスから一個取り出しておじさんに手渡した。
「まさか。これはオーガの魔石じゃないか?」
「はい」
「お前さんがオーガを仕留めたのか?」
「はい。仕留めたのはここからずっと東なんですけどね」
「オーガが南の森に現れたって噂もあるからてっきり南の森でオーガを仕留めちまったのかと思ったぜ。それにしてもこいつは立派な魔石だ。
よそに持っていかれちゃ困るから、そうだなー。金貨70枚で買い取ろう。いいだろ? オーガの魔石としちゃ高値だと思うぜ」
「それでいいです」
おじさんはカウンターの上に金貨を10枚ずつ7つ積み上げて、その金貨を布袋に入れて渡してくれた。ずっしりと重い袋を受け取ったわたしはそのままアイテムボックスにしまった。
「それじゃあ」
「盗まれないように気を付けなよ。ってオーガをたおせるお前さんには必要なかったな。
これからもよろしく頼むぜ」
これでだいぶ懐は温かくなった。魔石が思った以上に高価だった。全部は換金してはいないもののお金持ちになった気がしてきた。まだオーガだけでも5つ魔石は残っている。金貨70枚で全部売れたら、金貨350枚だ。これだけあれば蔵が建つ。ほどではないか。
わたしが金貨を受け取ったところを多くの冒険者たちが見ていた。前回みたいにわたしを襲ってくる者が現れるかちょっと興味があるけれど、買い取り窓口のおじさんの言葉から考えてわたしに向かってくるような蛮勇を持ち合わせた痴れ者は現れないだろう。
昼にはまだ時間がある。冒険者ギルドを後にしたわたしは期待を込めて裏道を歩いたりしたけれど、わたしの後を付けてくるような者はいなかった。なんとなく損した気がした。
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