第15話 商業ギルド。換金。
冒険者登録を済ませたわたしは、冒険者証をアイテムボックスの中に仕舞っておいた。
登録を済ませたのはいいが、次は何をしていいのか分からない。壁際に並んだ掲示板には何やら文字がたくさん書かれているのだが、いかんせん全く読めない。言語理解の熟練度が上がるのを待つよりほかはないようだ。
わたしがそんな具合に冒険者ギルドの中でフラフラしていたら、ガタイの良いおっさんがわたしの方にやって来た。
「お前さん、新人かい? どうだ、俺が冒険者としてのイロハを教えてやろうじゃないか。教授料は1日銀貨5枚でいいぜ」
この男が冒険者として十分な実力があり、新人のことを思っての申し出なら、おそらく銀貨5枚では安いのだろう。
しかし、男の風体を見ると、剣の鞘は汚れたままだし、ケンカで潰したのか鼻も潰れている。第一目つきが悪い。とてもまともな冒険者には見えない。
「わたしは新人ですけど、結構です」
断ったところで、難癖をつけてくるだろうと思っていたら案の定。
「この俺さまがわざわざお前のようなド素人に優しく声をかけてやったのに、断るとはどういう了見だ!」と、男はわたしに近寄りながら大声で威嚇した。
男の口臭が何気にキツイ。
わたしはこれみよがしに鼻をつまんで、
「大先輩、ちょっと息が臭いんでもう少し向こうに行ってもらえませんか?」
と挑発してやった。
顔を赤らめた男は何か言い返すのかと思ったが、右手を左の腰に下げた剣の柄に手をかけた。
男がそのまま剣を抜けば、わたしの胴体は真っ二つにはならないかもしれないが完全に間合いだ。もちろんその前に剣を取り出して受けるつもりだ。その時、ホールの奥の方から野太い声で、
「おい、そこまでにしておけ」と、男を止める声が響いた。
男を止めたのは黒光りする革鎧を着たいかついおっさんで、目の前の男など話にならない貫禄があった。
わたしに絡んできた男はバツが悪そうに元いたあたりに戻っていった。
「そこのお前も、あんまり挑発しないほうがいいぞ。血の気の多いやつが多いからな」
わたしは、そのおっさんに軽く頭を下げておいた。
ラッキーだった。あそこで、剣を取り出して男と一騒動起こしていたらおそらくあの男は大怪我くらいしていたろう。
かなり注目を集めてしまったわたしは、なんだか冒険者ギルドに居づらくなったので、向かいの商業ギルド(仮)をのぞいてみることにした。
商業ギルドに入ると、そこはきれいに磨き上げられた大理石でできたホールになっていて、その先に受付嬢が2人並んでいた。受付嬢の様子から、ここの受付嬢は冒険者ギルドの受付嬢と違って取次だけが仕事のようだ。
商業ギルドの建物の中に入ってみたのはいいけど、用事など何もなかった。受付嬢たちに向かって軽く頭を下げたわたしはそのまま回れ右して商業ギルドから退散した。仕方ないよね。
それはそうと、今手持ちのお金が尽きるまでに何かして現金収入を得ないとマズい。そうじゃないとまた林の中の縄文人生活に戻ってしまう。縄文人生活の前には例のゴブリンたちを片付けなくちゃいけないから、言うほど簡単でもないのよね。
もう一度商業ギルドに行って、何か仕事がないか聞いてみるのもいいかも。とはいうものの、読み書きできない現状じゃ事務仕事なんて無理よね。生きていくだけって結構大変だよ。しかもわたしの余命は100年もあるんだけど。将来のことを考えればそれなりの資産は必須じゃない。こうして生きているだけでもありがたいことなんだけどね。
そうだ! ウサギの毛皮が何枚かあったからあれを換金しよう。
ちょっと嫌だったけどもう一度冒険者ギルドの中に入っていったわたしは、空いていた窓口の女性に、ウサギの皮を引き取ってくれるかたずねてみた。
「左手の買い取り窓口にお持ちください。買い取り窓口で査定していただき既定の品質以上でしたら買い取らせていただきます」
「ありがとうございます」
ちゃんと解体したはずだから品質には自信が、……。今のところはあまりないんだけど見てもらうだけは見てもらおう。
買い取り窓口らしきところに行ったのだが、ウサギの毛皮はアイテムボックスの中にあることを思い出した。なんとなくアイテムボックスは人前では使わない方がいいような気がしたので、なにがしかの袋を用意してからその中に毛皮を入れて買い取り窓口に行こうと、これまた方向転換して冒険者ギルドを出ていった。
昨日の古着屋のあった中央広場の近くまでいけばそういった雑貨を扱っている店が見つかるだろうと思ってそっちに向かって歩いていった。本来なら誰かに聞いてから行動する方がいいのだろうけど、自分の勘を信じたまでさ。
思った通り、昨日の古着屋の近くに雑貨屋があった。そこでズタ袋を2枚ほど買っておいた。ズタ袋と言っても思った以上に高かった。布製品は総じて高い。工業化されていない以上布は手織りなのだろうから仕方ない。
歩きながらズタ袋のうち一枚をアイテムボックスの中にしまった。裏通りに入って人通りのないことを確かめたわたしは、残ったズタ袋の中にウサギの皮を2枚入れておいた。
ズタ袋の中身が中身なので、担ぐと言うほどでもなく手に持ってまたまた冒険者ギルドに舞い戻ったわたしは買い取り窓口にいき、そこでズタ袋の中からウサギの皮を取り出して窓口のおじさんに見せた。
「お前さん見ない顔だな」
「今日から冒険者になりました」
「そうかい。まっ、ケガをしないように頑張りな。
ウサギの皮だな。なかなかいい塩梅にはぎ取られている。弓で一撃か。おまえさん、なかなかやるな。
上物だから2枚合わせてこれくらいだな」
おじさんが板の上に数字のような物を書いたのだが、残念ながら読めない。仕方ないので分からないままうなずいたら、おじさんが机の引き出しから大銅貨を2枚取り出して渡してくれた。
「ありがとうございます」
大銅貨2枚で20Cか。今の宿代が一泊100C。これを1万円と考えると、20Cだと2千円。ウサギの皮1枚で1千円ということだ。そんなものというか、結構高く売れたってことなのかも。でも2千円だと貯金なんてできないよ。これからわたし、どうすればいいんだろ?
[あとがき]
イモの子さんからシズカのイラストをいただきました。ありがとうございます。
近況ノートに張り付けています。
https://kakuyomu.jp/users/wahaha7/news/16817330658240565737
イモの子さんのTwitter
https://twitter.com/imonoco_imoimo
イモの子さんのPixiv
https://www.pixiv.net/users/94860326
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