第14話 伯爵家に招待。冒険者ギルド


 中央広場でエレナを助けた翌日。


 朝食を食べてしばらく部屋に戻って休んでいたら、ニーナが部屋にやってきて、ターナー家の侍女と名乗る女性がわたしを訪ねてきたと知らせてくれた。1階のホールで待っているそうなので、わたしは急いで1階へ下りていった。


 そこにいたのは昨日のマリアという侍女だった。


「シズカさま、おはようございます。昨日はエレナお嬢さまを助けていただきありがとうございました」


「大したことじゃありませんから」


「いえ。

 それで、エレナお嬢さまの父上、ターナー伯爵がシズカさまに屋敷までお越しいただき、直接お礼をしたいと申しております。

 シズカさまのご都合のよろしい日をお教え願えませんでしょうか?」


「えっ? あの程度のことでわざわざお礼していただかなくても結構です。お気持ちだけ頂いておきます」


「そうおっしゃられますと私が困ってしまいます。なにとぞよろしくお願いします」と、頭を下げられてしまった。こうなるとさすがに断りづらい。


「分かりました。わたしの方はいつでもよいので、逆にそちらの都合の良い日時をお教えください」


「それでしたら、明日の午前中ではいかがでしょうか?」


「構いません」


「それでは明日の昼前にお迎えに参りますので、それまでに昼食はおとりにならないようお願いします」


 昼食?


「分かりました」


「では失礼します」


 そう言って、マリアさんは帰っていった。


 宿のカウンターの裏側でわたしたちの会話を聞いていたニーナが、


「シズカさん、ターナー伯爵の屋敷に呼ばれちゃったの?」


「うん」


「どうして、どうして? あっ! 言いたくなければ別にいいんだけど」


「昨日、チンピラに絡まれて困っていたエレナって女の子を助けたんだよ。その子はターナー伯爵の娘さんだったからそのお礼みたい」


「そうなんだ。シズカさんて最初変な服を着てたから変な人だなーって思ってたけど、強いんだ」


 わたしは変な人だったようだ。自覚があるので仕方ない。


「強くはないよ。相手が弱かっただけだから」


「でも、普通の人はチンピラなんか怖くて相手できないよ」


「そう言われれば。

 とはいえ、小さな女の子を放っても置けないし」


「もしわたしがチンピラに絡まれてたら、シズカさん助けてくれる?」


「相手がよほど強そうじゃなければね」


「なによ、もうー、シズカさんてー」


「アハハハ」


「そういえば、ターナー伯爵って偉い人なの?」


「シズカさんって遠い国から来たって言ってたものね。

 この街は外壁で囲まれているでしょ?」


「そうだね」


「昔、この街は開拓の最前線だったの。その開拓を指揮したのが今のターナー伯爵のご先祖さま。ターナー家はその功で伯爵に叙爵されて、以来ずーとこの街の代官を務めてるの。今は市長って言ってるけどね」


「そうなんだ」


 市長といっても日本の市長とちがって、警察権や裁判権を持っているのだろうから相当偉い人物なのだろう。少し気後れしてきた。




 いったん部屋に戻ったわたしは、今日は何をしようかと考えた。街に出てきたものの、狩ができるわけでもないし、何もすることがない。こういう時に明日香がいてくれたらよかったのに。なんで死んじゃうかな。かく言うわたしも、向うでは死んでることになってるんだろうけど。


 仕方ないので、当てもなく街の中を見て回ることにした。



 昨日の中央広場を過ぎてその先まで歩いていったところ、通りに面して大きな建物が2つ向かい合って建っていた。


 片側の建物に出入りするのはいかつい男女で、ほとんどの者が何らかの武器を持ち革鎧のような防具を着込んでいる。


 反対側の建物に出入りするのは、身なりの良い男女だ。


 これって、アレじゃないの?


 いかつい男女が出入りする方が冒険者ギルドで、身なりの良い男女が出入りするのが商業ギルド。ラノベの定番なんだけど、この世界でもそれに近いものがあるに違いない。いや、あって欲しい。


 ということで、さっそくわたしは冒険者ギルド?に入ってみることにした。今までのわたしならおっかない男女の巣窟に入ってく勇気はなかったはずだけど、ずいぶん大胆になったものだ。女神さまから、生きているだけで何もしなくていいからと言われているので危険な仕事はもってのほかかもしれないが、そうはいっても血が騒ぐのよね。


 開きっぱなしの扉から冒険者ギルド?に入るとそこはラノベやアニメで見たことのある冒険者ギルドそのものだった。まさか異世界経験者が日本にいたってことはないよね?


 しまったー! 今日のわたしの服装は普段着だ。冒険者になるなら鎧姿だろう。


 フラフラと素人丸出しのわたしがキョロキョロしながらホールの中に入ってきたものだからホールにいた10名ほどの男女がわたしを見た。すぐに興味が失せたか目をそらして自分たちの会話などに戻っていった。わたしのラノベ知識から言って、連中はわたしのことを仕事の依頼者、発注者と勘違いしたのだろう。


 ラノベ知識通り、広い玄関ホールの先にはホールの広さに相応のカウンターがあり後ろには受付の女性が並んでいた。でもたった二人しか並んでいなかった。あまり流行っていないのか、時間帯が悪かったか。受付の女性の前にも誰も並んでいない。


 ホールの壁のあちこちに張り紙が貼ってあったけど、あいにくわたしにはその字が読めない。とりあえずカウンターの後ろの受付嬢は暇そうにしているので、少しばかりおかしな質問をしても問題ないだろう。


 二人並んだ受付嬢のうち年かさに見える女性に向かって最初の質問をしてみた。


「すみません」


「はい?」


「えーと、ここってなんなんですか?」


「はい?」


「この建物はいったいなんでしょうか? わたしは遠い国からこの街にやって来たもので、よく分からないものですから」


 確かに自分でもよく分からないだと思う。


「ここは冒険者ギルド、ブレスカ支部になります」


「やっぱり冒険者ギルドってこの国にもあったんですね。良かったー」


「は、はい」


「よそ者のわたしでもギルドの会員?、冒険者?に成れるんですか?」


「もちろんです。

 冒険者登録をご希望ですか?」


「はい。お願いします」


「この紙にお名前とお歳、それに得意なことをお書きください」


「すみません。わたしこの国の言葉を書けないんですが」


「それでしたら、口頭でおっしゃってください。私が書きます」


「名まえはシズカ」


 名字を言うとややこしくなりそうなので言わないでおくことにした。


「年齢は18歳。

 得意なことというと?」


「例えば剣が得意とか、そういったことです。パーティーメンバーを探しているパーティーなどに紹介する目安になります」


「なるほど。なら弓、かな」


「それでは弓術ですね。

 書類はできました。

 冒険者証を発行しますので、しばらくお待ちください」


 受付の女性はそう言って席を立ち、今書いたばかりの紙切れを持って後ろのほうに歩いていった。


 冒険者証を専門の人に作ってもらうのだろう。


 受付の女性はすぐ戻ってきて、


「冒険者証ができ上るまで、冒険者の規約等についてご説明します」


 そういうことで、そこから5分ほどわたしは冒険者規約とやらの説明を受けた。基本的には常識の範囲だったので何も考えずうなずきながら受付の女性の説明を聞いていた。


 よくある冒険者のクラスとかランクのようなものはないらしい。自分で初心者と思えば初心者だし、ベテランと思えばベテランということだ。通信手段も事務機器も揃っていないこの世界で、よほど名の通った冒険者ならともかく、そこらの冒険者のランクなんかを一々管理できるわけはないので当然と言えば当然だ。


 受付嬢からの説明が終わったところで、奥の方から木の板が届けられた。


「これが冒険者証になります。おおやけな身分証ですので国内の各都市への入城税が免除されます」


 手渡された木の板は確かにこの街に入った時にもらった木の板とよく似ていた。木の板の上に文字が彫られていたがわたしの名まえとかそういったものが書かれているのだろう。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る