第13話 エレナ・ターナー


 文字通りチンピラに絡まれていた少女を助けてやった。そのチンピラは自爆して広場の舗装の上で伸びている。


「お嬢さん、だいじょうぶ?」


 少女に優しく声をかけてあげた。


「私はだいじょうぶです。ありがとうございます」


 少女が頭を下げながら礼を言った。


 これは放ってはいけないな。


「お嬢さん、おうちの人はいないの?」


 少女の目線の高さまでしゃがんで、安心させるようにたずねたところ、


「家の者と一緒だったのですが、はぐれてしまったようです」


 声は大きくないが、はっきりと受け答えしてくれた。


「それじゃあ、一緒におうちの人を探そうか? わたしの名前は、シズカ。よろしくね。お嬢さんの名前は?」


「私はエレナ・ターナーと言います。よろしくお願いします」


 あれ? この子、名字があるってことは、いいとこのお嬢さまだ。服装もシルクっぽいつやのあるエンジ色のワンピースに黒のベルベットの上着、真っ白いタイツに黒のエナメル靴。プラチナブロンドの髪は、背中までのストレート。絵にかいたようなお嬢さま。受け答えもしっかりしている。


「さっそくだけど、どのあたりではぐれたかわかるかな?」


「あちらの方で」右の方をエレナは指さした。


「家の者に飲み物のお替わりを買ってくるよう言いつけて1人になっていたところ、人ごみに押され、気が付いたらそこで寝ている男の人に大きな声で叱られていました」


 まだ、そのチンピラさんは石畳の上で伸びたままだ。


「じゃあ、そっちに行ってみようか?」


 わたしは手をつなごうとエレナに手を差し出したら、恐る恐るといった感じで、エレナはわたしの手をとった。エレナの横顔を見ると頬が少し赤らんでいる。このお嬢さんはおませさんなのかな? いや、鎧下姿のわたしと手をつなぐのが恥ずかしかった可能性の方が高いかも。


 女の子の手のひらって小さくて柔らかいんだなあ。それにあったかい。などと一歩間違えれば危ないことを考えながら、飲み物を扱っている屋台の方に歩いていたら、人ごみの中からから「エレナお嬢さま!」という声が聞こえてきた。


 すぐに人ごみの中からいわゆるメイド服姿の女性が走り寄ってきた。


 わたしはつないでいた手をそっと離し、エレナの後ろに立つ。


「お嬢さま、申し訳ございませんでした。わたくしが至らないばかりに。お許しください」


 女性がしきりに謝っている。まあ、無理もない。こんな小さな女の子を置いていくのはどうかしている。


「マリア、私はだいじょうぶです。妙な男に絡まれていたところを、こちらのシズカさんに助けていただきました。いまマリアを探していたところです」と、エレナはわたしの方を振り向いた。


「シズカさま、お嬢さまを助けていただきありがとうございます。後日お礼に伺わせていただきますので、お住まいをお教え願えますか?」


「わたしは旅行者なので今は小鹿亭という宿に泊まっています」


「小鹿亭なら存じています」


「それでは、わたしはこれで。

 お嬢さん、それじゃあ」


 エレナがわたしに手を振り、マリアという名の侍女がわたしに深々と頭を下げた。



 エレナたちと別れたわたしは、何軒かあった衣装屋を回ってなるべく傷みの少ない上下を探して購入した。ヨモギ色のひざ丈までのワンピースのような上と黄土色のスラックスだ。上のワンピースはブカブカなのでベルト代わりに腰のあたりで結ぼうと飾り紐も買っておいた。


 古着といっても結構な値段だったのには驚いた。まだ現金はだいぶあるが、街で生活するのなら近いうちになにか仕事を見つける必要がある。


 店を出て広場に戻ったら、石畳の上で伸びていたはずのチンピラはどこかに運ばれたか自力で移動したか見えなくなっていた。


 買い物の終わったわたしは小鹿亭に帰り、店番をしていたニーナから鍵を受け取って部屋に戻った。



 部屋に戻ったわたしは生活魔法のクリンで衣服ともどもリフレッシュした。その後この日買った衣装を取り出して鎧下から着替えておいた。今から考えると、冬用下着で出歩いていたようなものなので、今さらではあるが赤面してしまった。


 その日はそれ以上何もすることがなかったので、夕食時間になるまで部屋で過ごし、時間になったら1階の食堂に下りて食事をした。


「あら、シズカさん、おかしな服から普通の服に着替えたんですね」と、夕食時の給仕の手伝いに食堂に入っていたニーナに言われてしまった。やはり鎧下はおかしな格好だったみたい。自分でもそう思ってたくらいだから当たり前か。


「事情があってあれしか服がなかったの。ニーナに店を教えてもらって今日服を買ってきたから着替えたんだ」


「やっぱり。今の服のほうが似合ってるものね」と、笑いながらニーナ。


 鎧下で出歩いていたことは赤面ものだが、それでも今の格好が似合っていると言ってもらえたので一安心だ。




 食事が終わったわたしは部屋に帰って再度クリンをかけ、下着姿になって早々にベッドに入った。寝る前にスキルの成長具合を確認したところ、前回の数字をはっきり覚えているわけではないが順調に伸びているようだ。


<パッシブスキル>

マッピング1(36パーセント)

識別2(7パーセント)

言語理解1(28パーセント)

気配察知1(27パーセント)

スニーク1(29パーセント)

弓術1(42パーセント)

剣術1(30パーセント)


<アクティブスキル>

生活魔法1(7パーセント)





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る