第24話 王都行き2、出発


 翌朝。朝食を食べて支度を終えたわたしは、迎えの馬車に乗って市庁舎に向かった。


 市庁舎に着き馬車から降りると、市庁舎の前には別に馬車が1台停まっており、その隣にゲランさんが立っていた。馬車の屋根の上には箱が何個か括りつけられていた。馬車の扉にはターナー家の紋章によく似た紋章が描かれていた。後で聞いたところブレスカ市の紋章だった。


「シズカさん、おはようございます」


「おはようございます」


「さっそくですが、馬車にお乗りください。

 荷物は?」


「アイテムボックというスキルを持っているので、その中に荷物を入れています」


「なんと。そういったスキルまでお持ちとは。ただ、そのことは秘密にされていた方がよろしいでしょう。精鋭パーティーに入った後荷物持ちなどさせられる可能性もありますから」


 確かに。貴重品程度は預かってもいいけど、他人の大きな荷物まで持つ気はないな。王都に着いたら、手荷物を入れるリュックのようなものがないか探して見よう。


「ありがとうございます。

 ところで、王都にいった後わたしはどういうふうにすればいいんでしょうか?」


「シズカさんが無事選抜パーティーに採用されるまでわたしがシズカさんに同行しますのでご安心ください」


 マネージャー付きなら安心だ。


「よろしくお願いします」


「それでは馬車に乗りましょう」


 御者台から降りていた御者のおじさんが御者台に戻り、わたしとゲランさんは椅子に向かい合って座った。


 中から扉をきっちり閉めたところで馬車が動き出した。そしたら、市庁舎の向かいのターナー邸の玄関からエレナちゃんとマリアが走り出てきて手を振ってくれた。


「シズカさん、頑張ってね!」


 わたしは、窓から顔を出して手を振った。「うん」



 しばらく後ろに向かって手を振ってから、席にちゃんと座った。


「シズカさん。ご存じでしょうが王都までは15日かかります」


 知ってました。


「これから2時間ほど進んだ先の街道の休憩所で、昼食を兼ねた昼休憩を1時間半ほど取り、それから3時間ほど移動して最初の宿場町にある駅馬車の駅舎の宿に泊まります。宿で弁当を用意してもらい2日目以降は9時に出発して、3時間進み、1時間半休憩して、3時間進み次の宿場町で泊まる。を繰り返します」



 市庁舎前から大通りを進んだ馬車は20分ほどで北門に到着し、わたしはそこで最初にブレスカに入った時南門でもらった木札を返しておいた。馬車はそこから速度を上げて街道を北上していった。


 馬車って時速どれくらいで進むのか分からないけど、窓から見てる感じだと時速10キロくらいかな? 1日6時間で60キロ。それが15日間だと王都まで900キロか。この国って結構大きな国なんだ。


「ところで王都の名まえは何て言うんですか?」


 王都の名まえも知らない田舎者です。すみません。


「正式名はディナス・イ・ブロデウですが縮めてディナスと言っています」


「国名は?」


 これじゃあ無知だよ。蒙昧だよ。


 それでもゲランさんは嫌な顔もせずわたしの蒙を啓いてくれたよ。


「正式な国名はザッド・ドライグですが、普通はドライグ王国と呼んでいます。

 失礼ですが、シズカさんはどちらのお生まれですか?」


 この歳(18歳)で国の名まえも知らないようでは、普通じゃないもの。


「サイタマという国の出身です」


「聞いたことがない名です」


 そりゃそうだよね。


「かなり遠方の国ですから無理もありません」


 サイタマには小学校5年の途中で転入したからサイタマの歴史も地理もほとんど知らないし、あまり詮索されても困ると思ったけれど、それ以上のことを聞かれることはなかった。


 それから先は田園地帯を眺めながら馬車に揺られていたんだけど、口さみしくなってきたので、木の実でも食べようと思い、ゲランさんにも勧めてみた。


「木の実を持ってるんですけど、一緒に食べませんか?」


「いえ。私は、結構ですのでどうぞ気になさらず」


 気になさらず。と、言われて、はいそうですか。と、自分一人でポリポリ木の実を食べられるほど太い神経を持ってはいないわたしは食べるのを断念した。


 ちょうど昼休憩近かったようで、すぐに馬車は街道脇に用意された広場に止まった。広場には何台かの馬車が止まっていて、その近くで食事している人が何人もいた。広場の端には、出店仕様の馬車も止まっていた。キッチンカーと言ってもいいかもしれない。


 馬車から降りたわたしは背伸びして首をコキコキいわせて簡単にストレッチしておいた。その傍らで御者のおじさんは馬車のくびきから2頭の馬を外して水場に連れていった。


「わたしたちは先に食事にしましょう」


 ゲランさんはバスケットを手にしてわたしを誘ってくれた。


「御者のおじさんは?」


「彼は自分の昼食は用意しています」


 なるほど。


 わたしとゲランさんはゲランさんが敷いた布の上に座って、食事を始めた。レーダーマップには黄色い点が10個ほど映っているけど、どれも広場で休んでいる人たちだ。


「天気が良くって気持ちいいですね」


「そうですね。この季節あまり雨は降らないんですが、先日の雨はひどかったですね」


 お尻まで濡れたものね。


 ゲランさんが用意してくれた昼食はサンドイッチだった。肉をパンにはさんだものや野菜を挟んだもの。食堂で出されるパンと違って柔らかかった。もちろんパンは食パンじゃなくて丸パンを半分に割ったものだよ。これくらい柔らかいパンならそのまま食べられる。


 飲み水はお互い生活魔法のウォーターで木製のコップに水を入れて飲んだ。当たり前かどうかわからないが水は生暖かい。角氷を作る魔法が欲しい。



 馬たちの面倒を見た御者のおじさんは、御者台の座席の下からお弁当を取り出して御者台の上で食べ始めた。それくらいなら一緒に食べればいいと思ったけれど、御者のおじさんから見るとゲランさんはかなり偉い人なのだろうから、一人で食べる方が落ち着くのだろう。


 昼食を終えて1時間ほど馬ともども休憩したわたしたちは再度馬車に乗り込んで、今日の宿泊先の宿場町を目指した。どの宿場町でも駅馬車の駅舎が整備されているそうで、これから先王都までたいていは駅馬車の駅舎に泊まるそうだ。駅舎では防犯などの警備がしっかりしているうえ、わたしたちのいわば私用馬車も預かってくれるし、馬の面倒も見てくれるというのが駅舎に停まる主な理由だそうだ。


 途中システム音がして、マッピングが2になったことを知らされた。


『マッピング1の熟練度が規定値に達し、マッピング1はマッピング2にレベルアップしました』


『マッピングスキルが2となり広域マップの参照が可能になりました』


 広域マップの参照ができるのはいいが、どうすればいいんだろう? 教えてナビちゃん。


『広域マップと心の中で念じてください』


『広域マップ』


 視界に重なって地図が現れた。わたしのいた林もあるようだ。そして、わたしのいる場所にマーカーのような物が表示されている。確かに広域マップなのだが、これでなにが分かるというものでもないようだ。


 地図が視界にダブっていると、しばらくの間ならだいじょうぶだが、このまま視界にダブって居座られるとひどく邪魔だ。


『どうにかならないかな?』


『広域マップが消えるよう念じてみてください。広域オフでも広域キャンセルでも何でもいいので名まえを付けておけば便利です』


『じゃあ、広域オフ』


 視界を邪魔していたマップが消えてくれた。広域マップは今のところ微妙だな。


 ついでだったので、ステータスを確認したところ、マッピングが2になった以外ほとんど変化はなかった。


<ステータス>

レベル9

SS=8

力:17

知力:13

精神力:12

スピード:12

巧みさ:15

体力:23


HP=230

MP=130

スタミナ=230


<パッシブスキル>

ナビゲーター

取得経験値2倍

レベルアップ必要経験値2分の1


マッピング2(1パーセント)

識別2(19パーセント)

言語理解2(8パーセント)

気配察知1(38パーセント)

スニーク1(31パーセント)

弓術2(18パーセント)

剣術2(64パーセント)


<アクティブスキル>

生活魔法1(9パーセント)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る