第165話 プリフディナス7、4年、5年


 そしてまた1年が過ぎ、わたしがこの世界にやってきて丸4年経った。人口35万。SPポイントは4500を超えた。いまでは、盆地内に住んでいた魔族たちも全員王都内で生活し、働けるものはそれぞれの職に就いている。子どもたちもいるので学校を開設した。カップルなどもでき今後魔族の自然増も期待できる。幼稚園に相当する初等学校を視察に行って子どもが増えればそれだけ活気が出るって知ったわ。


 水力発電所は6カ所、それに関連する設備も完成し、王都に電気の火が灯った。電球や蛍光灯でもよかったんだけど、LED電灯を召喚している。


 わたしがこの世界に来た頃の燃料は召喚した薪と木炭だったんだけど、石炭が採掘され始めてからは、石炭が主な燃料になっている。採掘された石炭の品質が高いようで見た目は漆黒、ぬめっとしてテカテカ。木炭並みに煙が出ない。これなら石炭による火力発電もいけそうだけど、今のところ水力発電で間に合っているし。水力発電所の候補地はまだまだあるそうだ。



 今年度はウニス・ウニグ島全島の測量と資源探査を進めていくことにしている。これは技術者に護衛の兵士を付けての作業になる。測量は1年で終わるそうだけど、資源探査には時間がかかるということだった。


 民生品についても工場が建てられ、厨房用品を始めとした物品の製造が始まった。わたしの歴史知識は当てにはならないけど、気持ちの上では19世紀中ごろから20世紀初頭の地球の技術レベルまでプリフディナスわたしの国の技術レベルは上がってきたと思う。さらにこちらには転移魔法陣といった魔法がらみのチートもある。ここは地球ではまねのできないわたしの国のアドバンテージだ。


 フフフ。ハハハハ。


「陛下。何か楽しいことでもございましたか?」


「いや、何でもない」


 この世界に来てもう4年。そういえば、静香今頃何してるんだろ? しがない事務職で頑張ってるんだろうか? それとも結婚でもして子どもでもできたかな? 思い出したくなかったんだけどわたしももうすぐ30か。永遠の処女女王になるんだろうな。




 また1年が過ぎた。プリフディナスの人口は45万。SPポイントは5500越え。


 この一年でウニス・ウニグ島の測量が一応終わり正確な地図が完成した。島の大きさは南北1200キロ、東西1000キロ。最高峰は外周山脈北側に位置する山で標高4793歩=2876メーターだった。せっかくだからその山に名まえを付けようと考えたところ、思いついたのが『北の富士』。富士山に全く似ていなかったのでボツにした。そしたらリリームがその山の名まえは既にあり、モニス・イー・エルだと教えてくれた。すぐに忘れそうだったのでメモしておいた。


 1000キロを超える2点間の位置が測定できた結果、この星が球体だとして測定した2点を通る大円の円周は41215キロということが分かった。直径にして13126キロ。地球の円周はほぼ4万キロだったはずなので地球より若干大きい。


 外周山脈の外側は林や草原、湿地などが広がった平地だった。プリフディナスのある盆地が魔族でいっぱいになることはかなり遠い将来だろうから、あせらず少しずつ開発を進めていけば十分だろう。


 と、思っていたんだけど、地図を眺めていたジゼロンが、わたしに向かって提案した。


「陛下。将来的には人族との交易も考えていかなくてはならないと思います」


「そうかもね」


「転移魔法陣で物品も人もある程度運べますが、いわゆる大量輸送には適していません」


「そうね」


「大量輸送と言えば輸送船です」


「うん」


「船を運用するにあたり港は欠かせません」


「うん」


「王都の近くから、船の接近が容易な東の海岸に向かって運河を作り、運河の出口に港町を作ってはどうでしょう? 運河は大型船がすれ違える程度の大型のものにしておけば、王都にも港を作れますし、造船所も建設できます」


「なかなかいい考えと思うけれど、そんな大掛かりなものが簡単にできるの? ちょっと見、ここから東海岸まで80里はあるみたいよ。それに山で塞がれてるじゃない」


「山脈にはトンネルを掘ればいいだけです。大型ゴーレムを多数召喚すれば、数の力で何とでもなるでしょう」


 確かに。


「わかった。やってみましょう。研究所の技術者たちとよくすり合わせをして立派なものを作ってちょうだい」


「かしこまりました」


 ということで大運河の建設を決めてしまった。




 今年の建国記念日は建国5周年ということと、宮殿も先日完成したので竣工式、大運河の着工式も兼ねており、建国記念日は盛大に執り行われた。


 宮殿前の王宮広場にステージが設けられ、それ用に正装したわたしが集まった国民を前にして演説した。演台にはマイクが用意されて、大型スピーカーがステージの左右に置かれている。わたしのうしろにはジゼロンを始め各大臣たちが控えている。


「プリフディナスが生れて5年。目覚ましい発展を遂げているのは国民の努力のたまもの。ありがとう」


 宮殿と運河のことを言い忘れたけど、わたしのあいさつはそれで終了した。エライ人のあいさつは短かければ短いほど喜ばれるから。とか、勝手に理由付けして自己正当化してやった。


 わたしが演台から下りて少し間が開いて広場に集まった魔族たちから「プリフディナス万歳!」「女王陛下万歳!」の声が上がった。


 宮殿前の王宮広場の収容人員はどれくらいか分からないけれど、もちろんプリフディナスの全人口を収容できない。王宮の向こうからも万歳が聞こえてきたような気がした。わたしは国民に向かって軽く手を振った。


 わたしの演説というか一言の後は、王都各所に設けられたテントで、用意された料理と飲み物が振舞われた。普段の食事は見た目や味ではなく栄養重視の料理を国民に支給しているんだけど、この日は味重視の料理を振舞った。寿司とか天婦羅とか鰻とか。子どもたちの人数はまだ少ないんだけど子どもたち用にアイスクリームなんかも用意している。もちろん大人には各種のお酒を用意している



 国民が建国記念日を祝って飲み食いしているあいだ、ステージにいたわたしたちは宮殿に戻って内輪のパーティーを開いた。侍女たちにも休みを与えているので、パーティーは立食。用意された料理と飲み物がなくなれば自然にお開きになるんだけど、リリームが予備の料理と飲み物をアイテムボックスの中に大量に用意していますとか言っていたので、真夜中まで続くかもしれない。わたしはそれほどお酒が強くないので、夕方くらいにはジゼロンに言って自室に転移で連れていってもらって退散するつもり。



 プリフディナスは順調に発展している。そろそろ、女神さまとの約束である人族への脅威を与えるための準備に取り掛かることにした。とは言っても人族が一体どういう状況なのか皆目見当もつかない今の状況では何もできない。


 建国記念日の翌朝。SPポイント受け渡しのための朝会に集まったジゼロンとリリームにこのことを話した。


「人族の情報をある程度は集めないといけないわよね」


「ですね」


「うちから人を送り込むしかないと思うけど、どうやって送り込もうか?」


「わたしが一度適当な場所に飛んでいき、そこを記憶してから人員を送り込む。ですか」


「少なくとも一度はジゼロンが飛ばなくちゃいけないでしょうが、ドラゴンの姿が人族の目に入ると必要以上に人族を刺激しないかしら」


「荒天時の夜陰に紛れて飛んで行けばそれほど目立たないとは思います」


「そうね。

 あなたが行くならかなりのことができるでしょうから、どこか適当な場所に拠点を設けてそこに転移魔法陣を置いておけばあなたが人員を直接転移で運ばなくて済むし行き来が楽になるんじゃない」


「そうですね」


「そうなると、向うで生活するための諸々を用意しなくてはならないということでは?」


「リリームの言う通り。となると先立つものが必要って事よね。

 何か向こうに持っていって簡単に換金できるような物ってあるかしら? 技術的なもの以外で」


「簡単なのはきんですか」


「向こうの通貨が1枚でも手に入ればこちらで簡単に作れますが」


「偽造ってこと?」


「本物と全く区別できない以上、偽造でもないかもしれません」


「そうなのかな? 変なことしないでいいから真っ当に行きましょうよ。きんならある程度備蓄してるんじゃないの?」


「はい。品位が今のところ99.9パーセントなので純金ではありませんがそれなりの量倉庫に眠っています」


「向こうだってそこまで正確に金の品位なんか調べないでしょうからそれでいいんじゃない」


「かしこまりました。

 人員が揃えばある程度の訓練を施しておきます」


「目端の利く魔族を召喚しておくわ。まずは20人くらいかな?」


「そうですね」


「わたしの方はすぐにでも人族の大陸に向かってみます。今夜半くらいには到着できると思います。転移先さえ覚えてしまえば後の行き来は自由ですから」


「分かった。それで頼むね」


「わたしは、金のインゴットを用意しておきます」


「お願いね。

 資金が十分なら、ある程度大きな屋敷を買い取ってそこに転移魔法陣を置いて拠点にすればいいと思うわ」


「そうですね」


「ある程度向こうの状況が分かってからでもいいけど、むこうにちゃんとした政府があるならその中にこっちの人を送り込みたいわね」


「資金さえあれば何とでもなるのでは?」


「それだとやりやすいわね。

 まずはそういうことでやってちょうだい。

 あとは、送り込んだ人たちのバックアップと手に入れた情報を分析する部署が必要よ」


「研究所内にその部署を置きますか?」


「一種の軍事研究のようなものだから、軍の下に置きましょう」


「了解です。

 名まえはいかがしましょうか?」


「そうねー。情報局でどう?」


「では、そのように」


「それじゃあ、そういうことで」


「「かしこまりました」」



 これで、プリフディナスに情報機関が生れるわけだけど、スパイものの映画なんかは派手なアクションが売りだけど、そんな世界なわけないと思う。地道な情報収集にドンパチなんかあったらそれこそ間尺ましゃくに合わないもの。




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