第166話 プリフディナス8、拠点1
今日のジゼロンとリリームとの朝会でわが国でもイッチョ前に諜報機関を作ることにした。
諜報機関の名まえは安直に情報局。プリフディナス軍の下の組織ということにした。
わが国に浸透するような国はないはずなので、いまのところカウンターインテリジェンス部門のことは考えていない。将来、交易が始まれば人族も王都内に住むことになるだろうけど、その時になって考えても遅くないでしょ。
ジゼロンが金色のドラゴンの姿になって宮殿の前庭から人族の大陸が広がるという南西方向に飛び立っていった。朝日の中できらめきながら小さくなっていくジゼロンの後ろ姿を執務室の窓から眺めたんだけど、鳥じゃないから飛び方が優雅じゃないんだよねー。本人の感覚がどうなってるのか知らないけれど、なんだか無理やり空に浮かんでるようで。
陸地を見つけさえすれば、そこへは転移で行き来できるようになるので、明日の朝会には出席して向こうの様子を報告するとジゼロンは飛んでいく前に言っていた。いろいろな意味でプリフディナスは安定しているので別に毎日報告しなくてもいいんだけど、ジゼロンは真面目だから。
ジゼロンが飛び立った翌朝。
ジゼロンはいつもの朝会に言葉通りちゃんと出席した。
「ジゼロン。どうだった?」
「夜半過ぎに大陸上空に到達し、高空から人族の都市を見つけ、人化した上でその都市の中心にあった建物。おそらく宮殿だと思います。そこに転移で下りました。
上空3里で都市上空に侵入していますから、天気は良かったですがドラゴン姿の私のことは誰にも見られていなかったと思います」
「やるわね」
「そこから都市内の各所に移動して転移先を何個所か覚えました。
さきほどリリームさんから軍資金として金の延べ棒を頂いていますから、今日はそれを換金して拠点になりそうな物件を探してみます」
「いい出物があればいいわね。どこに行けば不動産が手に入るのかあてはあるの?」
「今のところ金の延べ棒の換金先を含めて全くあてはありませんが、何とかなるでしょう」
「そうね。それはそうと人化した時あの格好してたの?」
「さすがに目立ちますので、あの衣装をいただく前に着ていた衣装を身に着けていました」
「それはそうよね」
「これからまた向こうに行きますが、何かありますでしょうか?」
「今のところは何もないわ。
リリームはなにかある?」
「特にはありません。
あっ、そうだ。ジゼロンさんは助手を連れていかなくてだいじょうぶですか?」
「拠点を用意してからでいいでしょう」
「わかりました」
「それではそろそろ失礼します。今日の首尾は明日の朝会で報告します」
「いってらっしゃい」
「いってらっしゃい」
ジゼロンが目の前から転移でいなくなった。
「そうだ。陛下、うちでは転移が使えるのはジゼロンさんだけですが、よそ者が転移でこの宮殿内に侵入してくると厄介ですからもしそういったことが発見できるようなら、警報なりだせるようにしませんか?」
「目の前に転移で現れたり、目の前から転移でいなくなったりすればもちろん転移だってわかるけど、そのほかに転移が起こったって分かるの?」
「はい。転移で現れる時、転移でどこかに移動する時、どちらの場合も転移者固有の電波が発生するらしいです」
「ふーん。そうなんだ」
「研究所で以前から電波の研究をしているんですが、たまに妙な信号をアンテナが拾うのでとある研究者が不審に思って原因を見つけようとしたところ、どうもジゼロンさんが研究所に現れる時といなくなる時にその信号をアンテナが拾っていたということが分かったそうなんです」
「よくそんなこと気付いたわね」
「そうですね。さすがは専門家というところでしょうか。
それで転移魔法陣でも同じように信号が発生するか調べたところ、ジゼロンさんの転移の時と比べて微弱なもののはっきり異なる信号が出ていたそうです。
その研究者は転移魔法陣を使って特性を調べたところ、転移魔法陣も行き先ややってきた元の魔法陣ごとに信号が少しずつ違うことを発見したそうです。そこは今の話には直接関係ありませんが、いずれにせよ転移の際特有の電波信号が発生することは確実のようです」
「ふーん。わたしじゃ方法は分からないけれど電波ならアンテナで簡単に拾えるんでしょ?」
「そのようです。
ですので、この宮殿内に何個所かアンテナを取り付けて転移信号を検知したら警備室から警報を鳴らし、その場に警備兵が急行するようにするのはどうでしょう?」
「それじゃあ、ジゼロンが転移するたびに警報が出て警備兵が駆けまわることになるじゃない?」
「ジゼロンさんの信号はジゼロンさんということがはっきり分かりますから、その時は警報を出しませんし警備兵も駆け付けません」
「なるほど。
外部からの侵入があるとも思えないけど備えておいて悪いものじゃないから進めてちょうだい」
「かしこまりました」
そして翌日の朝会。ジゼロンはちゃんと出席した。
「ジゼロン。ご苦労さま。
それでどうだった?」
「
「道行く人って一般人なんでしょ? よく金の延べ棒を換金できそうな場所なんか知ってたわね?」
「そう言われてみれば確かに。いずれにせよ何事もなく商業ギルドにたどり着き、そこで換金できました。20本ほど持参した金の延べ棒のうち4本だけ売ったところ金貨2000枚になりました」
「それが多いのか少ないのか分からないけれどね。それで拠点の方はどうなった?」
「換金する時の話のついでで商業ギルドの担当者に土地や建物はどこに行けば手に入るのか聞いたところ、商業ギルドでも扱ってるということでしたので、そのまま物件を紹介してもらいました」
「面倒じゃなくて良かったじゃない」
「はい。それで拠点は商売を装っていた方がいいと思い、商業ギルドに比較的近い商店街の一画で売りに出ていた店舗を金貨1000枚で購入しました」
「ほう。そうすると店番が必要なわけよね」
「はい。内部に転移魔法陣を設置しますから、プリフディナスから通うこともできますが、向うで生活させた方がいいでしょう」
「そうよね。
それでその商店は何屋さん?」
「元は八百屋だったようですが、商品が傷みにくい雑貨屋を考えています。商品は転移魔方陣を使ってプリフディナスから運べばいいでしょう」
「儲かれば面白いわよね」
「魔族の店員ですからあまり期待されない方がいいかもしれません」
「いくら何でも仕入れがタダなんだから儲かるでしょ?」
「売れれば儲かりますが果たして売れるのか」
「ジゼロン。いやに消極的じゃない」
「少なく見積もって出来上がりが大成功だったらそれはそれで嬉しいものですが、その逆だと寂しいものです」
「別に怒るわけじゃないんだから。
でも、たった一軒だけじゃつまらないから、調子がいいようならもう数軒店を増やしたいわね」
「陛下。それもそうですが、あくまで情報収集ですから」
「リリームの言う通りだったわ。すっかり忘れてた。
ジゼロン。無理しないで適当に格好だけ商売してればいいからって派遣する連中に伝えておいてね」
「かしこまりました。もう少し先になるでしょうが、拠点が落ち着いたらこちらの者を何とか宮殿に送り込みます」
「それができれば十分よね」
「資金は潤沢ですから何とかなるでしょう」
「役人を買収するのよね?」
「できれば」
「ほどほどにね」
「はい」
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