第164話 プリフディナス6、3年
わたしがこの世界に来て3年が過ぎた。プリフディナスの人口は25万。1日あたりのSPポイントは3500。おかげさまで何不自由なく暮らせている。しいて言えば娯楽がないことが不自由と言えば不自由だけど、食事はおいしいし、国の発展を見ているのがシミュレーションゲームみたいですごく楽しい。むこうの世界に未練がないわけじゃないけど、この世界にこういう形で来られたことは本当にラッキーだった。そもそも向こうの世界にいたら死んでたんだものね。
宮殿塔の建設は順調に進んで現在の高さは300メートル。予定通り工事は進捗している。これから何事も起こらなければあと2年で完成する。各階に転移魔法陣を設置しているため、塔がいくら高くなろうとも建材の運搬に時間を取られることなく建設が進んでいくことが大きいようだった。
王都内のその他の塔も順調に立ち上がっている。こちらは既に数棟完成している。
研究所の所員たちの努力の結果、綿花から布を織る一連の工程を自動化する機械が完成した。現状モーターはおろか電気もないため動力はゴーレムに頼っているので完全自動化とは言えないかもしれない。
研究所ででき上った布を見せてもらったところ、目は少し荒かったし、不揃いなところもあったけど、使えないものではなかった。機械の方はさらなる改良を続ける必要があると技術者たちも認識しているし、改良の目途は立っているそうだった。
一緒に見学に来たリリームはわたしが手にした布を見て手織りの布よりよほど目が細かいし高い品質だと言っていた。
鉱山開発も進んでいて、非鉄金属鉱山を例にとるとゴーレムが採掘した鉱石は鉱山近くに作った選鉱工場に運ばれ、そこで粉になるまで砕かれて、鉱石の種類ごとに異なる特殊な液体の入ったタンクで金属化合物と不純物に分離される。分離された金属化合物は脱水した上、転移魔法陣経由で王都内に建設した精錬工場に運ばれる。精錬工場で各種の工程を経て、最終的に金属インゴットに生まれ変わる。
選鉱工場、精錬所で発生した不要物はそれぞれ、別途外周山脈のふもとに建設した廃滓ダムに運ばれ捨てられる。
現段階での精錬製品である金属インゴットは電気精錬などの方法で不純物を取り除かないといけないそうだけど、今のところそこまでの装置もなければ電気もないので、それ待ちで倉庫に積んでいる。
石炭鉱山、鉄鉱石鉱山、石灰石鉱山の場合は簡単で採掘された石炭や鉄鉱石、石灰石はそのまま転移魔法陣で王都内の製鉄所に運ばれる。こちらも工場で発生した不要物も廃滓ダムに運ばれて処分される。
廃滓ダムもそのうち一杯になるらしいけど、今のままの採掘、処理速度だと50年はもつだろうということだった。逆に言えば、2倍の速度で鉱石を採掘して処理していけばれば25年で廃滓ダムはいっぱいになる。
まだまだ廃滓ダムに適した場所は沢山あるから今後数百年はだいじょうぶという話だけど、ゴミの問題は他の形で解決したい。召喚魔法陣ではいろんなものを取り寄せてるけど、送還魔法陣とか作ってどこか他所の空間に送り込めばいいんじゃないかと思ってジゼロンに何となく話してみた。そうしたらジゼロンが頭のいい解決策を思いついてくれた。
「何十年先になるか分かりませんが、ロケットが実用化されればロケットに転移魔法陣を積み込み太陽の近くを回らせて、そこにゴミを転移してしまえばゴミ問題は一気に解決です」
将来的には原子力発電時代が来るだろうけど、核のゴミもこれで問題なく処分できる。ナイスアイディアだ。わたしが生きているうちにそういった時代を迎えたいものだ。
全体的な技術水準を一気に高めるためには電気の利用が欠かせなくなってきた。研究所には電機関連の技術者を召喚しており、発電機のひな形は完成している。動力として石炭を使うのか? というところでわたし自身が迷っている。二酸化炭素の排出はどうでもいいけど、ばい煙は出したくないんだよね。今採掘している石炭は高品質でばい煙は少ないんだけどそれでも同じ場所から延々と煙が出るのはちょっとね。それで結局山岳部に小型のダムを設けて水力発電所を設けようということになった。
発電機の製造技術はまだないので召喚魔法陣で召喚することにした。ジゼロンもわたしも発電機なんか見たことないので召喚するにしてもどんなものを召喚すればいいのか見当がつかない。そこで電気系の技術者の説明をわたしとジゼロンが生徒になって良く聞くことで具体的な発電機の仕組みをイメージすることができ、何とか発電機を召喚できた。
召喚した発電機には規格など何もないので、研究所に一度運んで寸法を計ったりテストして周辺の部品を作っていくのだそうだ。
水力発電用のダムは小型ダムとはいえ土砂を盛っただけの廃滓ダムと違ってコンクリート製の立派なダムを造らなければならないので完成には1年かかるらしい。
発電所を造るだけで電気を使えるわけではなく、電気を利用するためには送電設備、変電設備、受電設備なんかも用意しないといけないそうで、これもわたしとジゼロンが電気技術者の講義を聞いて召喚魔法陣で召喚することになるようだ。そんな面倒なことは一度で沢山だったので、電気技術者にSPポイントを渡して召喚させようとしたんだけど、SPポイントを渡せなかった。ジゼロンにもリリームにも渡せたのに残念だ。
しかし研究所の研究者や技術者たちはほんの3年弱でここまでの知識を得たということには驚かされる。その事を科学技術大臣に話したら、こういったことが可能であるという知識をわたしが召喚した時に得ているので、迷わず研究に打ち込めるからだそうだ。研究というのもそういうものなんだろう。
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