第11話 最初の街ブレスカ


 街を囲む外壁の高さは4メートルほど。門のある部分は6メートルほどで、その部分は外側に張り出している。門扉は、分厚い木製で、要所要所に鉄板が貼り付けられ補強されている。その扉は内側に向けて左右に開け放たれていた。


 門を出入りする人は、門番の兵士に木札のようなものを軽く見せてすんなり通過している。


ブレスカに入るには、門番に住民票である木札を見せる必要があります。それがない場合は、このあたり一帯の居住者ではないということで、入城税が徴収されます』


 と、ナビちゃんが説明してくれた。


 街の名まえはブレスカというのか。


 門の前までやってきたところで、門番の兵士がわたしに向かって、


「見ない顔だが、住民票を見せてくれるか? なければ入城税20シーだ」


 その兵士が手を差し出してくる。


 ナビちゃんによると、


 通貨の単位はシーであらわされる。銅貨1枚が1Cで、20Cは銅貨20枚、大銅貨2枚になる。ちなみに、


 銅貨=1C

 大銅貨=10C

 銀貨=100C

 大銀貨=1000C

 金貨=5000C

 大金貨=10000C


 となるようだ。


 1Cが日本円でいくらに相当するのかは今のところ分からない。


 アイテムボックスをわたしが使っていることを悟らせない方がいいんじゃないかと思い、革鎧のベルトについた物入れから取り出すそぶりをしながらアイテムボックスから硬貨の入った巾着を取り出した。巾着から銀貨1枚を兵士に手渡し、お釣りに大銅貨8枚貰った。巾着は物入れに戻すふりをしてアイテムボックスにしまった。


「この木札をなくさないように。住民票代わりになる。街を出る時にはこれも門衛に返してくれ」


 そう言って木札を渡された。


 木札をベルトの物入れにしまうふりをしてアイテムボックスにしまったわたしは、その兵士に向って、


「どこか手頃な宿があれば教えていただきたいんですが」と、たずねた。


「この南門を入ると広場になっている。そのまま真っすぐ北に進んで大通りを歩いていくと通りの両脇に宿屋が何軒か並んでいるから、そこで選べばいいよ」と、親切に教えてくれた。


「ありがとうございます」


 門を通り街の中に入ると、先ほど言われた通り、壁に囲まれた100メートル四方はある広場に出た。広場では何本か大きな木が茂って、木陰を作っていた。


 脇の方にはベンチも置いてあり、座っている人も数人いる。広場から北に向かう通りは大通りというだけあり、石畳の立派なものだ。広場の北側の出口は、吊り上げ式の格子門となっている。今は当然引き上げられているが、有事にはいつでも下ろされるのだろう。何を想定したものかはわからないがかなり実戦を意識した街の設備と思う。格子門の先も50メートルほど道の両側は壁で囲われていた。その先は石造りの家が建ち並んでいる。


 さらに進んでいくと、ベッドの絵の描かれた看板が吊り下げられた建物が何軒か並んでいた。わたしは適当にそのうちの一軒に入ってみることにした。


「いらっしゃい。小鹿亭にようこそ」


 扉を開けると明るい栗色のショートヘアの14、5歳の女の子がカウンター越しに元気の良い声で迎えてくれた。


 こげ茶のチュニックに同色の長ズボンといったでいでたちで、正直地味すぎる。かわいい子なのにもったいない。


「お泊りですか? それともお食事ですか?」


「泊りはいくらになりますか?」


「朝夕付いて1泊100Cになります。素泊まりですと65Cになります」


「それじゃあ、朝夕付けて5日間お願いします」


「5日分の宿泊で500Cになります」


 銀貨できっちり支払った。いまとなってはあまり意味ないけど、1Cは日本円にして50円くらいと思っていればいいのかな? 金貨1枚が25万円、今金貨が5枚あるから125万円か。無駄使いしたらすぐなくなっちゃう金額だね。


「宿帳になります。お名前だけでけっこうですのでお願いします」


 名前を書こうとペンを受け取ったが、この国の文字を知らないことに気付いた。


「すみません。えーと、……」


「わたしの名前はニーナといいます。えへ」


 なぜだか少女は少しはにかんでいる。


「ニーナさん、わたしは字が書けないんですが」


「代筆しますからだいじょうぶですよ」と、にっこりほほ笑んでくれた。


「シズカ・タチカゼといいます」


「えっ! 苗字持ちの方だったんですね」


「苗字持ちというのは? 遠方の国からやってきたものでこの国の常識に疎いもので」


「貴族や、なにがしかの功績のあった方だけが姓を名乗ることができるんです」


「そうなんですか。わたしの国では、どんな人でも苗字を持っています。ですから、わたしもただの平民ですが苗字を持っています」


 やや苦しい説明と思うが、納得してくれたようだ。


『文字を読むには、言語理解2。書くには言語理解3が必要です』


 今のままでは多少不便だが、言葉を聞いていれば自然と言語理解もレベルもあがるだろう。


「先にお部屋にご案内します。こちらです」


 先をゆく彼女の腰の動きに見とれながら階段を上る。18歳になったことで少女好きになったのか? この世界でロリユリは犯罪なのかどうかはわからないが、おそらく問題ないのではなかろうか。


 わたしは最上階といっても3階の一番奥の部屋に案内された。


「昼食ってあるのかな?」


「はい。定食になります。値段は15Cです」


「じゃあ昼食を頼もうかな」


「荷物をお置きになったら、1階の食堂においでください。食堂は階段を下りてまっすぐ突き当りです。お出かけになる際には、部屋の鍵はカウンターにお預けください。昼食の代金は先払いになります」と、いって鍵を渡された。


 案内された部屋は、8畳くらいの大きさで、ベッドと小さいタンスがあるきりだった。窓は木製の鎧戸で今は開いている。


 しまった。武器と鎧はアイテムボックスに収納するとして、上に着るものが今着ている鎧下しかない。


 あとで衣料品屋の場所を聞いておこう。


 ステータスを確認すると、言語理解1が18%まで上がっていた。これなら2、3日もあればレベルアップしそうだ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る