第42話 自由時間2、酒盛り
ナキアちゃんとキアリーちゃんのエールが運ばれてきた。空になったジョッキを持って女の子は奥に戻っていった。
すぐにナキアちゃんがエールを冷やして二人でごくごく飲み始めた。わたしのジョッキの中のエールはシャーベットがとけたところでちょうどいい感じになった。
わたしもごくごく飲んでいたら、最初の料理が運ばれてきた。
「そら豆の塩ゆでと干し小魚です」
そら豆の塩ゆでは小皿に入っていてわたしたち3人の前にそれぞれ置かれた。お通しだな。干し小魚はめざしのような魚が皿の上に5本乗っていてテーブルの真ん中に置かれた。
そら豆をつまんで皮からつまみ出して口に入れたところ、そら豆の塩ゆでだった。これはおいしいぞ! そして、ゴクゴク。フー。
めざしはどうだ? 頭から齧ってみた。よく干したカタクチイワシの目刺しそのものだった。ワタの苦さがくせになるー。ゴクゴク。フー。
次に運ばれてきたのは、チーズの盛り合わせとソーセージの盛り合わせ。ふかしイモにバターを乗せたものが運ばれてきた。
そこで早くもナキアちゃんとキアリーちゃんが2度目のエールのお替わり。
「冷たくするといくらでも飲めるのじゃ」
「そうだね。今まで気づかないまま飲んでたけど、その分取り返さないとね」
「今まで損した分を今日一日で取り返すのじゃ」
「おうー!」
なんだか、ナキアちゃんとキアリーちゃん二人で盛り上がってしまった。
それからかれこれ5時間。
店の中にいる客はわたしたちの他ほんの数人になっていた。
「お客さん。閉店の時間です」
「もう閉店なのか。ぐずぐず言っても仕方がないから河岸を変えて飲み直すのじゃ」
「ナキアちゃん、夜遅くまでやってる店って知ってるの?」
「いや。
そこらを歩いておればじきに見つかるじゃろ」
その言葉を信じて通りに出たんだけれど、通りに明かりが漏れてくる建物はどこにも見当たらず、街灯があるわけでもない通りは真っ暗だった。
「どうも当てが外れたのじゃ。王都というのに妙に夜が早いのじゃ」
「これじゃあ、店なんて見つかりそうにないから、兵舎に戻ろうか」
「それしかないのじゃ」
そういうことでわたしたちは近衛兵団の訓練場の兵舎に戻ることにした。あれだけ飲んだ二人が全然酔っぱらっていなかったのが不思議だ。わたしはジョッキで4杯くらいしか飲んでいないのでほとんど酔っていない。それもたいがいだけどね。ということはブレスカで大立ち回りを演じて飲んだ時、意識をなくすまで飲んでしまったんだけど、あの時はどれほど飲んだんだろう? ブレスカに帰っても誰にも聞かないし聞けないけどね。
道に迷うことなく訓練場まで戻ったわたしたちは、門衛に戻ったことを告げて兵舎内で割り当てられていた部屋に戻った。
それぞれベッドの上に横になり、
「明日はどうする?」
「明日は店が開く時間あたりまで寝て、それから買い物じゃない?」
「そうじゃな」
「なんだかベッドの中で寝られるってちょっと新鮮だよね」
「じゃな」
わたしは野営訓練期間が短かったせいかそれほどでもないけれど、ベッドの上で眠れるのは幸せなことだよね。
翌朝。予定通りわたしたちはだいぶ遅く目覚めた。朝の支度が終わったころには陽はだいぶ上っていた。ナビちゃんに時刻を聞いたら10時過ぎていた。昨日あれだけ飲んで食べたせいか食欲はなかったので朝食は抜きだ。
「それでは買い物に出発なのじゃ」
門衛に外出することを告げて街に繰り出した。
「商店街はどのあたりか知ってる?」
「昨日の食堂の先に商店街があるとわらわの勘が言っておるのじゃ」
「ナキアちゃんの勘は当たるからなー」
確かにわたしもそんな気がする。
ナキアちゃんの言葉通り、昨日の食堂を通り過ぎて10分ほど歩いていたら商店街にたどり着いた。
「わたしは雑貨屋でまな板とか買いたいんだけど」
「ならば、まずは雑貨屋じゃな」
「あそこに見えるのが雑貨屋じゃないかな?」
キアリーちゃんが指さしたお店は雑貨屋だった。中に入ってまな板を買った。こういったものは大きい方が使いでがあるので買ったのはかなり大きなまな板だ。これで肉切りがはかどるはずだ。ほかには木製の平皿とスープ用の深皿を何枚か買っておいた。
「何か他に持っていった方がいい物ってあるかな?」
「そうじゃなー。ヤカンはどうじゃろ? 鍋で湯を沸かせるとはいえ、ヤカンが欲しくはないか?」
確かに。
出番があるかどうかは別として、ヤカンも買っておいた。そうなるとお茶っ葉も欲しくなるよね。ティーバッグがあればいいんだけど、そんなもの売ってるわけないし。
「雑貨屋さんではこんなものかな?」
「シズカちゃん、金網があった方がいいんじゃないかな? 肉を焼く時便利だよ」
すっかり忘れていたけど、金網は料理セットの中に持ってた。あれはちょっと小さかったから大型の金網ならみんなでどんどん焼き肉が食べられるものね。
店の人に大きな金網がないか聞いてみたら店の奥からかなり大きな金網を持ってきてくれたのでそれも購入しておいた。これならかなりの量の肉を一度に焼ける。
調査は危険な任務ということは分かってはいるけど、なんだかアウトドアキャンプに行く前みたいで楽しい。
心に余裕があるっていいことだよね。
雑貨屋で買い物を終えたわたしたちは乾物屋に回り、干し肉や干し魚、それに干し果物を購入した。木の実は乾物屋には売ってなかったけれど隣りが八百屋でそこで木の実は売っていた。ちゃんと煎った木の実を購入した。干し肉や干し魚は鍋に入れて煮ればいい出汁が出るはずなのでスープの味がぐっと良くなるはずだ。玉ねぎやジャガイモといった野菜を持っていければ食生活は格段に豊かになると思うけど、重さ当りのカロリーを考えると干し肉や干し魚を追加で買ったほうがいいからね。そういったものの他コショウを何とか見つけることができた。
買い物が思った以上に早く終わってしまった。それでも時刻は昼を回っていた。
「そろそろ昼にしようではないか?
昨日は思いのほか早く店が閉まってしまったので、今日はこれから飲むのじゃ。さすれば昨日の元が取れるのじゃ」
今から飲めば昨日の元が取れるという発想はさすがはナキアちゃんだ。わたしにはそんな発想全然なかった。
「昨日の店に行ってみる?」
「店を追い出されて通りに出た時周りの店は全部締まっておったわけじゃから、あの界隈ではあの店が一番遅くまでやってる店ということじゃろう。あの店に舞い戻るのじゃ」
「そうしよ。料理のことは全然覚えていないけど、おいしかったんじゃないかな?」
「わたしはおいしかったと思ってるよ」
わたしたちはあの店に舞い戻り、空いた席に陣取って酒盛りを始めた。料理は昨日と同じだ。
そしてお開きも昨日と同じ。兵舎に戻ってから次の朝まで全く一緒だった。
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