第85話 王都冒険者ギルド1


「ここでしばらく休憩したらキャンプに撤収しよう」


 先ほど思い出した疑問をその場で腰を下ろして休んでいたハーネス隊長にぶつけてみた。


「ハーネス隊長」


「なんだ?」


「さっきの魔法陣のことなんですが、魔族が何らかの手段で召喚魔法陣を使ってモンスターを召喚したのなら、その魔族ってどこかにいるんですよね?」


「確かに。言われてみればかなり危険な状態だな。

 しかしわれわれには魔族を見つけ出す手段がない以上今のところどうしようもないぞ。

 少なくともこのことは王宮に知らせなければならない。

 となると、キャンプまで撤収したらそのまま王都に戻るしかないな」



 休憩を終えたわたしたちは1時間の移動のあと10分ほどの休憩をして再度1時間移動してオーガの死骸までたどり着いた。そこで10分休憩してまた歩き出し、30分でキャンプキャンプに到着した。ジゼロンおじさんは行方不明のままみたいだ。


 5分ほど休憩した間にハーネス隊長が警備の兵士たちに状況を説明した。


 わたしたちは短い休憩のあと王都を目指して歩き出した。陽もだいぶ傾いているので王都到着は夜になりそうだ。


 王都の近衛兵団の訓練場に着いたのは午後8時過ぎだった。ハーネス隊長だけは兵舎で従兵に指示を出した後その足で王宮に向かった。


 兵舎で前回同様ナキアちゃんとキアリーちゃんと一緒の部屋を割り振られたわたしたちは、部屋の中で鎧を脱いでさっそく兵舎の食堂に行き夕食を食べた。食堂にはカルヒ一人だけで、カルヒは黙々と食事していた。配膳台の上に料理の乗ったプレートが3つ置いたあったのでわたしたちはそのプレートを持って席に着いた。カルヒ一人で食べているところを囲むのもおかしいのでわたしたち3人はカルヒとは離れて食事した。



 食事を終え部屋に戻ったわたしたちはベッドの上に横になり、これからどうなるか雑談した。


「撤収してここまで戻ってきたものの、その後はどうなるんじゃろか? まさかまたリュックを背負って朝から晩まで走れとは言われんよな?」


「自由時間になると思うよ。

 そしたら冒険者ギルドを見つけてオーガの魔石を売って3人で飲みに行こうよ」


「そうじゃった、そうじゃった」


「自由時間になってくれないと困るね」


「いまさら訓練もないから、きっとそうなるよ」


「わらわもそう思うのじゃ」


「わたしが祈ってもあんまり意味ないけどそう祈っておくね」


「そういえば魔族はどこに隠れておるんじゃろ?」


「隊長が王宮に行ってその話をするはずだから、きっと王都の陸軍総出で山狩りでもするんじゃないかな」


 キアリーちゃんの言うとおり、陸軍総出で山狩りすれば魔族を捕まえることもできそうな気がする。


「そうなってくるとわたしたちも山狩りに駆り出されるかも?」


「それは困るのじゃ。断れんものかのう」


「隊長次第だよ」


「そうじゃな」


 結局自分たちではどうしようもないという結論で、わたしたちは会話を終えて眠りについた。




 翌朝。


 朝食前に従兵がやってきてハーネス隊長に呼び出された。カルヒともども連れていかれたのはハーネス隊長の執務室だった。ハーネス隊長は陸軍の大隊長だもんね。偉いんだよね。


「昨日、宮殿にある陸軍本部で状況を説明してきた。

 結論として、王都の陸軍総出で付近の山狩りを行なうこととなった」


 キアリーちゃんの予想通りになった。さてそれから先はどうなるかな?


「きみたちに手伝ってもらいたいところではあるが、魔族の調査も必要だということで山狩りへの参加はなくなった」


 わたしはニンマリしないよう顔を引き締めた。横のナキアちゃんとキアリーちゃんを見たら二人ともわたしと同じように顔を引き締めていた。


「海軍のフリゲートへの乗船は予定通り明後日になる。今日、明日は自由時間とする。

 兵舎の食堂の利用は自由だ。

 街に出て重くならない範囲で自分が必要とする物を購入するもいいだろう。訓練場を出るときは門衛に一言声をかけてくれればそれでいい。

 本番で持参するリュックは、堅パンを1カ月分各自が持参する関係で、今までのものと比べ一回り大きくなっている。

 外出した場合、明日の日没までにこの兵舎に戻ってきてくれ。そのときもちゃんと門衛に一言言ってくれよ。

 では各自に軍資金を渡しておく」


 小袋をハーネス隊長が4人に渡してくれた。


「羽目を外さぬように。

 以上」


 執務室を出で小袋の中を確かめたら前回同様金貨が10枚入っていた。


 いったん部屋に戻ったわたしたちは、今日、明日の作戦を考えることにした。羽目を外さないようにと言われたけど、ナキアちゃんとキアリーちゃんは目を輝かせてる。羽目は外さないけど羽は伸ばすぞという感じだ。


金貨ぐんしきんを貰ってしまった以上わざわざ冒険者ギルドに行って魔石を売り払う必要はないのではないか?」


「金貨10枚あればかなり飲み食いできるよ」


「だけどこの時間じゃお酒を出してる店は開いてないんじゃない?」


「じゃあ、見物がてら冒険者ギルドに行ってみる?」


「わらわは冒険者ギルドには一度くらいしか顔を出したことがないので見物してもよいのじゃ」


「ところで、ナキアちゃんは冒険者証持ってなさそうだけどキアリーちゃんは持ってる?」


「わらわは持っておらんが、キアリーちゃんはれっきとした冒険者じゃ」


「うん、持ってる」



 わたしは着替えを持ってたけれど、着替えを持っていないナキアちゃんとキアリーちゃんは鎧下姿なのでわたしも鎧下姿で街に繰り出すことにした。


 もちろん王都の冒険者ギルドの場所なんて誰も知らなかったので、訓練場から出る時門衛の兵士に場所を聞いた。聞いては見たものの3人とも王都の土地勘などなにもないので何度か途中で通行人に道を尋ねて何とか冒険者ギルドにたどり着いた。



 ブレスカの冒険者ギルドなどよりよほど大きくて立派な建物だと思っていた王都の冒険者ギルドの建物は、それ相応に立派だったけれどこぢんまりした建物だった。


 開け放しの入り口からホールの中に入ると、ブレスカの冒険者ギルドと同じように奥の方に窓口が並び、脇の方に簡単な食堂と売店があって壁には依頼票が貼ってあった。


 はっきり言っておかしな鎧下姿のわたしたち3人が冒険者ギルドの開け放たれた扉からホールに入ると、中にいた冒険者たちの目を引いた。


 その中のひとりの冒険者がわたしたちを指さし「おかしな連中が入ってきたぜ!」と、大きな声を出したら、ホールからどっと嗤い声が起こった。


「ほう、生きの良い連中じゃな」


「ここはカディフじゃないから、わたしたちのこと知らないんだよ」と、キアリーちゃん。


 ホールを見渡したところそこそこデキそうな冒険者は一人も見当たらなかったので、わたしも調子に乗って「大した冒険者は一人もいないようだから無視しましょ」と、やや大きめの声で口に出した。


 そしたら最初にわたしたちのことを「おかしな連中」と言った男が、わたしたちの方に近づいてきた。


「おい、お前。見ない顔だが、エラそうな口を叩くなよ。俺が誰だか知らないわけじゃないだろ?」


「全然知らない。遊んで欲しいんなら、あとで遊んであげるからちょっと待っててくれるかな」


 わたしたちは男の目の前を横切って買い取り窓口に向かおうとした。


 男は目の前を通り過ぎたわたしの右肩に手をかけてきた。わたしは男の手首を右手で掴んでやさしく・・・・押し返した。男は真っ赤な顔をしてわたしの右手に抵抗しようとしたけど何もできず口をパクパクしていた。男の手首は太かったしわたしの手はそんなに大きくないので男の手首を握り潰すことはできないけれどその気になれば掴んだところを抉り取ることくらいできそうだった。


 ナキアちゃんが悪い顔をしてわたしに向かって「魔石を売ったら、ここの連中相手に訓練・・するのも面白そうじゃな」と言った。たしかに面白いカモ。


 なので、赤い顔をした男に向かって、


「もう少し待っててね、売る物を売ったらすぐに買ってあげるから」そう言って掴んでいた手を離してやった。



 買い取り窓口でオーガの魔石を担当のおじさんに見せたらちゃんと驚いてくれた。


「これはもしかしてオーガの魔石!」


「そ。ちょっと前に退治したの。一匹しかいなかったんだけどね」


「どこで?」


「フォルジの森? だったけ?」


「フォルジの森じゃ」


「あそこはいま冒険者は入れないんじゃ? ひょっとしてあんたたちは調査隊のメンバー?」


「公言していいんだっけ?」


「いいとも悪いとも言われてはおらんから問題ないじゃろ。わらわたちはその調査隊のメンバーじゃ。今日は休みになったので街に遊びに出てきたまで」


「なんと」


「それで、いくらで買ってくれるの?」


「済みません。金貨80枚で買い取らせていただきます」


 窓口のおじさんが10枚ずつ金貨を8個積み上げ、それを小袋に入れて渡してくれた。


 王都は物価が高いのか良い値で売れた。



 売るものを売ったから、こんどは買うものを買いましょうかね。

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