第7話 2日目2


 草の葉っぱを屋根代わり、壁代わり、天井代わりにした小屋とも呼べないようなわが家マイホームだが、ベターザンナッシング。


 林の中から見上げる空は雲一つない青空で、雨が降るような気配は今のところ何もないが備えあれば患いなし。雨に濡れて風邪でもひけばこの世界では命にかかわるわけだから、準備しておいて悪いことはない。



 マイホームを後にしたわたしは、レーダーマップを見ながら周囲を警戒して林の中を歩いていった。


 日本にいたころはタダの事務職だったし、学生時代も運動なんかしたこともなかったわたしだけど、この世界にきてからは体だけを使っているような。なんだか自分自身が野生化しているような。


 体を動かすことは決して悪いことじゃないと思うけど、体だけだとこれからの余命100年、後半ボケてしまいそうなきがしないでもない。



 あっ! 何かいる。レーダーマップに黄色い点が4つ映った。その点が少しずつ近づいてきている。ゴブリンなら赤い点だけど黄色い点か。警戒しながら近づいていって、たおせそうな獲物なら仕留めてやろう。


 腰を落として片膝をつきアイテムボックスから弓矢を取り出し、黄色い点の方向に向かって注意を向ける。まだ弓に矢をつがえていない。


 しばらくそうやって気配を消すようにしゃがんでいたら、黄色い点は反対方向に動いていきそのうち見えなくなった。


 黄色い点が何だったのかは分からないが、獲物だったとして取り逃がしたようだ。仕方がない。昨日仕留めたイノシシの肉がまだ大量にある。



 それからナビちゃんに食べられそうな草をたずねながら歩きまわっていたら、こんもり繁った木に赤い実がたくさん生っていた。


「あの実は食べられるのかな?」


『はい。ヤマモモです。そのまま食べられます』


 手の届くところにあった実をつまんで口に入れたら甘酸っぱい味が口の中いっぱいに広がった。種が入っていたので吐き出し、2つめ3つめとどんどん食べた。30粒ほど摘んでアイテムボックスの中にしまっておいた。冷やして食べればなおおいしそうだが冷蔵庫はないのでそこは諦めるしかない。冷蔵魔法とかないのかな?


『魔法のスキルレベルが上がればそういった魔法が使えるようになるかもしれませんが、現在ガーディアではそのような魔法は存在していないようです』


 そういえばステ振りの時、魔法スキルを取らなかったから、今使えるのはスターターパックの生活魔法だけだ。生活魔法を使って行けばそれが進化していろんな魔法が使えるようになるのかしら?


『SSポイントを使って直接魔法スキルを取得できますが、生活魔法もその他のスキル同様進化します』


 いま2ポイントだけSSポイントがあるけれど、やっぱ大事にとっておいた方がいいよね。サバイバルモードのゲームだとすぐに使った方がいいんでしょうけど、いまのところそこまでシビアな状況じゃないみたいだし。



 そろそろマイホームに帰った方がいいかな。


『現在時刻は新暦1255年4月19日午後4時5分です』


 そろそろマイホームに戻って夕食にしよう。ここは今までとは違う世界なんだし一日2食でもいいような気もするけれど、しみついた生活習慣は変えられないよね。ちゃんと一日3度お腹が空くもの。


 マップを頼りに40分ほどかけて拠点に戻った。今日も歩き詰めだったけど、どうってことない自分がこわありがたい。



 さーて、今日の夕食は何にしよう? と言ってもイノシシ肉とウサギの肉と野菜?それに携帯食料しかない。携帯食料はとっておくとして、今回はウサギ肉にしてみよう。塩コショウで軽く味付けして火であぶって食べれば鶏の骨付きもも肉みたいなものじゃないかしら?



 料理セットの中から鉄の棒を2本と金網を取り出し、かまどの上に鉄の棒を平行に並べて、その上に金網を乗せた。ウサギの前足と後ろ足2本ずつ網の上に並べて軽く塩コショウをしてから、かまどに枯れ葉を敷き、その上に枯れ枝を置いて下の枯れ葉に生活魔法で火を点けた。


 ウサギの肉はイノシシ肉と違ってあぶらは少なそう。ヘルシーなんだろうけど、そういった意味のヘルシーってこの世界で手足だけを使った生活をしている今のわたしには全然意味ないよね。この世界だと高カロリーこそ至高のはず。


 様子を見ながらアイテムボックスの中に入っていたトングでウサギ肉をひっくり返してじっくり焼いていく。しっかり火を通さないと寄生虫の心配があるからね。


『魔素の影響を受けた生物に寄生虫はいません。もちろん大ウサギにも寄生虫はいませんので生食も可能です』


 と、ナビちゃんは言ってるけどやっぱりね。


 肉汁が垂れ、いいぐあいに焼き目も付いてきましたよ。もう少しかな。


 かまどに枯れ枝をつぎ足しながらウサギ肉の焼けるのをじっと待つ。


 ワーイ! これがキャンプ生活の醍醐味だ。毎日がキャンプ生活だー!


 なんとなくウキウキしてしまう。ってわけないか。


 後ろ向きのことを考えても仕方がない。肉汁のしたたりもなくなり、じっくりこんがりウサギ肉が焼けたぞ。


 アイテムボックスの中に入っていた錫?製のマグカップに生活魔法で水を入れ、トングで大きめの皿の上にウサギ肉を移し新しい小皿にウサギのもも肉を一つトングで移して、残りのウサギ肉は皿ごとアイテムボックスの中に収納しておいた。


 熱々なのでとりあえずフォークを突き刺してフーフーしながらひとかじり。


 おいしいよ。鶏の骨付きもも肉だよ。鶏のもも肉には皮が付いてローストするとパリパリになってそれもおいしいところだけど、ウサギ肉にはそれはない。そこだけ違うけどそれだけだ。


 誰もいないけど、ニンマリ笑ってしまった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る