第6話 2日目1、マイホーム(草がけ小屋)


 気配察知に敵性生物あかいマークが現れることもなく、その夜は何事もなく眠ることができた。


 真夜中かまどに薪をつぎ足したとき月が見えた。地球で見る月と同じくらいの大きさの満月だったけど、なんの模様も見えなかった。


 明け方、気配察知に反応があった。レーダーマップの端の方に黄色い点が見えたけど、しばらくしたらマップの範囲から外れて見えなくなった。


 それですっかり目が覚めたので、顔を洗い、歯を磨いた。洗面器と歯ブラシはアイテムボックスの日用品一式の中に入っていた。補足すると、トイレットペーパーも入っていた。こういった消耗品がなくなってしまった先のことは今のところ考えないようにしよう。


 朝食は、昨日の残り物のイノシシスープ。アイテムボックスの中では時間が経過しないようで、昨日入れた時のままの温かさで食べることができた。食べ終えて片づけながら今日なにをするか考えた。


 昨日は何も考えず林の中を行き来してレベルアップを目指したが、今日は生活の基盤を築くことにした。要は家づくりだ。雨でも降りだしたら大変だしね。


 一番簡単なのはどこかの大木のうろか、洞窟のようなところを見つけることだと思う。大木のうろはともかく、木立で視界が遮られているせいで洞窟がありそうな山などはどっちに歩いていけばいいのかすら分からない。


 行き当たりばったりではマズいので、小屋を作ってそこを拠点として、レベルアップを目指しながら周囲の探索をしていくことにした。探索範囲をすこしずつ広げていけば、そのうち何か見つかるだろう。



 小屋といってもちゃんとした小屋などわたし一人の力ではとても無理なので、草がけ小屋だ。


 草がけ小屋を作る場所は、枝葉で少しでも雨が和らぐはずの大木の木陰。


 材料はまっすぐな枝と、草の束、ロープや紐はアイテムボックスの中に入っていたがそれを使うのはもったいないので代わりにツタだ。


 かまどに砂をかけてちゃんと火が消えているのを確かめて、それから鎧などの防具を着込んで林の中を移動していたら大木はすぐ見つかった。大木だけあって枝も結構広く張り出している。この大木を当面の拠点にすることを決め、大木の周辺から、アイテムボックスの中に入っていた斧で枝やかやのような丈の長い草、それにツタを集めていった。



 ある程度材料が集まったところで作業に取り掛かった。


 真っすぐな枝から小枝を払っていき一本一本仕上げていく。その枝を並べて、要所に横木を置いてツタで結んで格子を作っていく。格子ができ上ったところで草の葉っぱをツタで束ねたものを、片側から順に横木に結んでいき、一段上がって上から半分被せるような形でまた草の束を横木に結んでいく。


 それを何度か繰り返して屋根兼壁が一つでき上った。同じようにして屋根兼壁をもう一つ作ってそれを人の字型に組み合わせて出来上がりだ。出入り口は2カ所できたが、片側を大木の幹にくっ付けたのでそちらからは出入りできない。


 2時間ほどででき上った草がけ小屋わがやだが、われながら出来が悪かった。それでも雨を多少でも防げればいいわけなので十分といえないまでも、それなりだろう。


 中の広さは畳1畳より少し広い程度。四つん這いになって中に入るしかない。中に入れば寝るか座るかしかできない。


 試しに四つん這いになって中に入って落ち葉の上に寝っ転がったら、まあまあの寝心地だった。


 しばらく仰向けになって寝ていたら、髪の毛が何やらもぞもぞする。触ったら虫がいた。


 ウェー。


 気になって天上に目をやると、天井にも虫がいた。


 ウェー!


 これはたまらない。虫はそれほど苦手ではないが、寝床に虫は不要だ。


 せっかく苦労して作った草がけ小屋なので何とかしたい。異物排除なわけだから、もしかしてクリンが効きそうな気もしたのだが、わが家の出来栄えを見てそこは思いとどまった。なぜかって? それは草の葉っぱが全部異物に見えないこともないからさ。クリンをかけたとたん骨組みから草の束がバラバラに落っこちてしまえば元も子もないもの。


 じゃあ、どうすればいい? 一々中を点検していくしかないか?


 そうだ! 燻蒸くんじょうだ。


 生の葉っぱや枝に何とかして火を点けていぶしてやればいいはずだ。


 燻蒸がうまくいくようなら、肉を焼いたり煮たりするだけでは味気ないので、そのうち燻製も試してみてもいいかもしれない。



 さっそく草がけ小屋の中に枯れ葉や枯れた小枝を入れて火をつけて、屋根用に集めて余った草をその上に乗っけたらいい塩梅に草がくすぶって煙が出てきた。モクモク煙が小屋の出入り口から出てくる。こうなってくると煙がもったいないような気がしたので、出入り口を塞ぎたいのだが塞げるようなものが何もない。


 いやいや、マントがあった。マントをアイテムボックスから取り出して出入り口にかけておいた。マントが煙臭くなったところでどうってことないだろう。マントを着てクリンの魔法をかければ臭いも取れそうだし。


 20分ほど煙をモクモクさせてから中の燃料をスコップで掻き出した。



 しばらく草がけ小屋の中が冷えるのを待ってから中に入って内部を点検したところ、天井の草はある程度乾燥していたが焦げてはいなかった。煙臭さもそれほどではないし、これが虫よけになると思えばなかなかいい匂いのような気もしてきた。


 ナビちゃんに時間を聞いたら、


『午前11時25分です』と、答えが返ってきた。


 ここで疑問に思っていたことをナビちゃんに聞いてみた。


「ところで、このガーディアの世界での時間だけど、地球と同じなの?」


『よく似ていますが、少し異なります。

 1日は24時間。1時間は60分でおなじですが、正確な時計がないため秒という単位はありません。

 ガーディアにおける1分と地球の1分は厳密にいえばわずかな差がありますが、実生活での支障は全くありません。

 1カ月は30日、1年は12カ月、360日です』


 大の月とか小の月とかない方が覚えなくていい分便利だからね。



 昼前になったので昼食の準備を始めることにした。


 昨日と同じように土を掘ってその周りに石を並べてかまどを作った。まだ昨日の鍋の残りがあったのでかまどは使わずそれで昼食を済ませた。


 昼食を簡単に終えて、空になった鍋と使った食器を水洗いしてアイテムボックスにしまっておいた。


 さーて、午後からはこの草がけ小屋の周辺探検だ。


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