第34話 精鋭調査隊6、訓練という名の弥生人生活2


 林の中だから日の暮れるのも早いみたいで、辺りがだいぶ暗くなってきた。食べ物は昼の残りもあるし、アイテムボックスの中には焼いたウサギ肉やイノシシ肉も入っているからどうとでもなる。


 ということなので、今夜の野営の準備を始めることにした。


 と言っても口臭男を撃退した時壊れてしまったマイホームの残骸を今さら修理する気も起きないし、そもそも周りにカヤのような草が生えていない。適当な大木を見つけて、その幹の近くで毛布を敷いて寝るのが関の山だ。それくらいなんともない自分が怖い。



 当たり前だけど、すぐに今夜寝る場所たいぼくは見つかった。


 大木の幹の前に1枚毛布を敷いておき、その上に座って昼食の残りを食べた。焚火をしようかなと思ったんだけど、面倒だったので今夜は試しに焚火はしないでおくことにした。まさか王都に近いこんなところに猛獣やモンスターなんて出ないだろうとタカをくくったんだけどね。


 辺りがすっかり暗くなってきた。わたしの寝転がっているのは葉っぱの繁った大木の枝の下なんだけど、ここからだと空は少しだけしか見えない。星が瞬いているのか見えないな? あれ? 雲がだいぶ出ている。野宿中なんだけどまた雨が降るってことないよね?



 防具を着けたまま毛布の上で横になって目を閉じていたら知らず知らずのうちに寝てしまったのだけど、何かが顔に当たってビックリして目が覚めた。顔に当たったのは水滴だった。ナビちゃんに聞いたところ時刻は午前1時を少し回ったところ。朝までまだ長い。


 わたしはリュックの中からマントを取り出し、地面に敷いていた毛布を一度はたいてからクリンで汚れを取った上再度クリンで乾かしてリュックにしまった。そのリュックを背負ってその上からマントを着てフードを被った。


 なるべく水滴が垂れてこないよう大木の幹に寄り添うようにして立つこと2時間。時刻は午前3時。


 夜明け時の点呼にはまだ早いかもしれなかったけど、雨の中キャンプに向かって歩き始めた。それなりの本格的な雨が降っている。レーダーマップには黄色い点がたまに映っていたけどそれが獲物だとして仕留められるほど夜目が効くわけでもないし、点呼に遅れたくはないので放っておいた。


 一度歩いたことがある場所を歩いて移動している関係で、レーダーマップで周囲の状況を把握でき暗がりの中でも問題なく歩いて移動できた。


 雨の中2時間ほどでキャンプに戻ってこられた。雨は小降りになってきている。


 移動中赤い点は一度も目にしていない。まだ辺りは暗い。帰路の途中、体全体にクリンを何回か重ねてかけてみたところ、雨で湿った防具や衣類が簡単に乾いた。



 キャンプには、見回り中の兵士が2名と天幕前に4名の姿があった。4人はハーネス隊長ではないようなので、残り4名の隊員なのだろう。4名はみんなわたしと同じようにリュックの上からマントを羽織ってフードを被っていた。


 点呼は天幕の前だろうと思いわたしも天幕前まで歩いていった。


 天幕に近づいていくわたしに4人が気付いてこっちに振り向いたので、何も言わないわけにもいかず、一応名まえだけのあいさつをしておいた。


「新しいメンバーのシズカといいます」


「ああ、あんた隊長のあの試験に合格したんだ。ふーん」と、男がそう言って。わたしを舐めるように見た。生理的に無理だ。


 その男は、なんだか目つきの悪い二十歳過ぎくらいの男で、背中のリュックに大きな剣をむき出しのまま括り付けているのか、マントの下から剣の刃先がのぞいていた。



「わたしの名はジゼロン。よろしく」


「よろしくお願いします」


 背丈ほどの大型の杖を持った30過ぎに見えるおじさんがあいさつを返してくれた。このおじさんなら話ができそうだ。


 そして、残りの二人は女の子で、うちひとりは小柄で14、5歳くらい、もう一人は18歳くらいに見えた。わたしはチートだから当たり前なのかもしれないけれど、目の前の華奢に見える二人がアノ試験に合格したということは驚きだ。


「わらわはナキア」


 プラチナブロンドの小柄な女の子が名まえを教えてくれた。彼女は腰に黒光りするメイスを下げていた。


「わたしはキアリー」


 茶髪でツインテールの女の子が名まえを教えてくれた。彼女は腰に剣を下げ、リュックの後ろにかなり大きな盾を括り付けていた。盾の上部は丸くカーブして下は尖っていたのでカイトシールドと呼ばれるタイプの大盾と思う。ゲーム知識だけどね。


「ナキアさんとキアリーさん、二人ともよろしくね」


「もちろんじゃ。わらわのことはナキアと呼んでよいのじゃ」


「うん。これから一緒にがんばろうね。わたしのことはキアリーって呼んでね」


「わたしのことはシズカで」


 最初の嫌な感じの男以外とはうまくやっていけそうだ。あの男のことは向こうが何かしてこない限り無視していればいいだけだ。


 わたしたちの話声が聞こえたのか、天幕の中からハーネス隊長が出てきた。わたしたちを見回して、


「全員いるな。

 それじゃあ、新しいメンバーのシズカを紹介しておこう。

 シズカ、前に出てきてくれ」


 呼ばれてわたしは前に出た。雨はまだ小降りと言っても降っていたけれどフードを取っておいた。



「ブレスカからやってきたシズカだ。みんな仲良くしてやってくれ

 野営訓練も残すところあと4日だ。メンバーの追加はシズカで最後になる。

 それじゃあ、各自パンを取って訓練に戻ってくれ」


 何か一言言わされるのか身構えていたんだけど何もなかった。ちょっと寂しいような、ホッとしたような。


 わたしが最初に天幕の中に入ってカッパ代わりのマントを脱いでリュックを降ろし、パンの箱の蓋を開けて中からパンを3つ取り出しリュックの中に入れた。蓋はそのままにしておいた。


 後の人の邪魔にならないよう横に移動してリュックを背負いマントを羽織って天幕を出た。


 天幕を出たところで、ハーネス隊長がわたしに声をかけてきた。


「昨夜はどうだった?」


「雨で目が覚めてしまいましたが、野営はある程度慣れているので問題はありませんでした」


「そうか。訓練期間が短いから少し心配だったが安心した。

 調査では堅パンしか持っていけないから食料を途中で調達しなければならないが、その辺りはだいじょうぶか?」


「はい。昨日も獲物を仕留めましたから」


「剣だとなかなか逃げる獲物を仕留めるのは難しいが。期待できそうだな」


「は、はい」


 弓矢を使えることを隠す必要はないのだけれど、今現在アイテムボックスの中に入っているので弓矢を持っていることを話すということはアイテムボックスを持ってるということを打ち明けることになる。


 メンバーの一員としては当然打ち明けるべきなんだろうけど、やっぱり気が引けるのよねー。荷物持ちの便利屋にされそうで。



 本日のマストの業務はこれで終わったので、わたしは天幕を出て雨の中、林の方に向かっていった。雨はそのうち上がりそうだし辺りはだいぶ明るくなってきているので歩きやすくなってきた。






[あとがき]

今回あらたに登場した探査隊メンバーの名まえは察してください。

『岩永善次郎、異世界と現代日本を行き来する』https://kakuyomu.jp/works/16816452221032496115 よろしく。

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