第33話 精鋭調査隊5、訓練という名の弥生人生活。
訓練という名の弥生人生活を送ることになったわたしは、せっかく作ったかまどで肉を焼くことにした。アイテムボックスの中に入っているフライパンは反則なので装備品としてもらった鍋で肉を焼くことになる。かまどの底に枯れ葉を敷き、その上に細目の枯れ枝、その上に太めの枯れ枝を組んで、枯れ葉に火をつけた。簡単に上の方まで火が回ったので鍋を置いてその上に今日仕留めた鹿の肉を適当な大きさに切って並べておいた。
油紙に包まれた岩塩をナイフで削って肉の上に振りかけた。岩塩なんて初めて使ったんだけど、元日本人としては普通のサラサラの塩の方が使いやすいと感じた。
火の勢いが強くなって肉がジュージューいい始めたところで、硬いパンのことを思い出した。
これ、スープにした方がいいよね。
わたしは生活魔法で鍋の中に水を入れた。先ほど採集したキノコを適当にちぎって鍋の中に放り込み、根菜はナイフで皮を剥いで適当にざっくり切って鍋の中に入れた。青物は最後に投入だな。
お椀もないので鍋から直接食べなくちゃいけない。そうだ、金属製のコップが装備に入っていたはず。あれにとって食べればいい。でもお玉がないじゃない。太めの枝を削ってお玉を作っちゃお。スプーンより大きければいいだけだからそんなに難しくないはず。
わたしは、薪の中から適当な枝を選び出してナイフで削っていった。それなりの形ができ上ったんだけど、お玉のくぼみをナイフじゃ削り取れないことに気づいてしまった。
うーん。世の中うまくいかないものだなー。今あるスプーンですくうしかないか。金物だから熱いよね。
ガスじゃないし、露天だから炎も揺れるのでなかなか鍋の中は沸騰しない。肉もそうだけど、適当な大きさに切って放り込んだ根菜が煮えないとおいしくないものね。わたしはさっき作ったお玉崩れで鍋をかき混ぜながら出来上がるのを待った。
結局鍋を火にかけて40分ほどで野菜にも火が通ったようだ。いい匂いのようなそうでもないような。鍋ができ上がる間に、用意した薪は全部なくなってた。燃費が悪いのは仕方がない。食べ終わったら薪を多めに用意しておこう。
スプーンを使ってコップの中にスープを入れて、ナイフでパンを食べごろに小さく切ってそれをスープに入れて食べた。味が薄かったけどそこは仕方がない。キューブ式のスープの素があれば美味しいスープができたのに残念。
それでも、そうやってパンを食べ、ときおりコップの中の
クリンで食器類をきれいに後かたづけして、熾火の上に水をかけて火を確実に消したわたしはリュックを背負って林の方に向かっていった。もう5日分以上の肉は確保しているので、あとは野菜類と薪だ。できればまな板が欲しいんだよね。だけど、ナイフじゃまな板作れそうもないか。
さあ、行くぞー!
レーダーマップを注意しながら林の中を進んでいったら、小川に出くわした。がぜん水浴びがしたくなったけどそこは我慢した。その代り、小川の中に魚がいるかも知れないと思って上から水の中をのぞき込んだ。レーダーマップに何も映っていないから魚はいないと思うけど、やっぱり自分の目で確かめないと。
で、確かめた結果、水の中に魚はいたけど、どう見てもメダカだった。日本では絶滅危惧種のメダカがこの世界にいたことでホッコリしたけれど、ホッコリしただけだった。
この世界に来てもう何度も魚は食べてるけど、刺身は食べてない。刺身はこの世界にはなくて、両世界を通じて日本独自の料理なのか?
メダカがいたんだから刺身があってもいいじゃない! と、理不尽なことを考えてしまった。考えるだけならタダなので、ついでに握りずしが食べたいとまで考えてしまった。そしたらうな重も食べたくなってきた。もうわたしは日本食の餓鬼だな。
早いうちに本物のお金持ちになってこの業界を
今自分が何をしているのか現実逃避的なことばかり考えてしまった。これはまずい。
それでも、手は動いて、薪は十分な量集まったし、野菜類もだいぶ採集できた。
こうなってくると、こんどは弥生生活も悪くないような気がしてくる。わたしって、よく言えば環境に適応するのは早いけど、悪く言えば環境にすぐ流されちゃうのよね。わたしのこの性格も、元はと言えば明日香に悪い意味で影響されたと思うのよ。本来のわたしって、もっとお上品で楚々としたお嬢さまだったと思うんだー。それが、こうだものねー。いまさらだけど。
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