第32話 精鋭調査隊4、訓練2


「訓練内容はそれだけだ。

 さっそくだが訓練開始してくれ。それと時間の管理は自分でな。朝方点呼するのでその時だけはこの野営地にいてくれ」


 朝方の点呼の時間以外メンバーがそろわないのか。自己紹介は明日の朝だな。


 取りあえず荷物をリュックに詰めたわたしは、リュックを背負って見た。リュック自体にはまだ余裕があるし、重さもほとんど感じなかった。本番だとリュックの中に大量の食料を入れるのだろうから相当重くなるはずだけど、まっ、いいか。



 訓練と言えば訓練なのだろうけど、内容は野人生活をするだけだ。


 うん? いまさらだけど、まさかこのことを見越して神さま?はわたしをあんな林の中に投げ込んだのか?



 まず煮炊きするにもたきぎは必要なので近くに見える林に向かってわたしは駆けていった。薪を集めていたらそのうち獲物も見つかるかもしれないしね。


 わたしは軽い気持ちで林の中に分け入り、枯れ枝をある程度集めて束にして布袋に詰めてた。もちろん視界の隅に映っているレーダーマップに注意を向けながらだ。


 そういった作業をしながら、わたしはいろんなことを考えていた。


 メンバー紹介くらいしてほしいけど、全員出払っているようだから、紹介は夕食時になるのかしら?


 あっ! 何かいる! レーダーマップの端の方に黄色の点が見えた。


 わたしは腰を落としてゆっくりその黄色の点に近づいていった。


 灌木の枝に生った赤い実を首を伸ばした鹿が食べていた。


 弓で狙えば簡単に仕留めることができるけれど、弓はアイテムボックスの中だし、アイテムボックスが使えることを知られたくないし。


 鹿を仕留めてその場で解体してしまえばだれにも分からないんじゃないかしら。自分で時間を管理しろって言われてるから、それって24時間自由時間のようなものだよね。


 わたしはそこでチラッと真空切りのことを思い出い出したんだけど、本番でまだ使ったことはないし、そもそも射程も分からない。試し切りをして獲物を逃がしたくなかったので、手堅くアイテムボックスから烏殺うさつとボーナス矢を1本取り出して鹿の頭に狙いを付けた。


 照準の丸はキッチリ鹿のこめかみあたりをとらえているし、揺れもほとんどない。


 今だ!


 必中を期したボーナス矢は狙いたがわず鹿の側頭部に命中しその場で鹿は倒れた。


 わたしは烏殺をアイテムボックスにしまって仕留めた鹿のもとに走った。


 鹿は即死していた。鹿の頭を貫通していたボーナス矢の矢じりを外してボーナス矢を回収し、クリンできれいにしてからアイテムボックスにしまった。


 わたしはロープを取り出して鹿の四つ足を縛ったあと、そのロープを目の前の灌木の枝に掛けた。ロープをよっこらしょと引いて鹿を逆さまに吊るし上げた。ナイフを使ってナビちゃんの指示通り血抜きをしながら鹿を解体していった。


 生活魔法のウォーターで鹿を水洗いしながら解体してたんだけど、鹿に付いている血だってわたしから見れば汚れだからクリンできれいになるんじゃないかって思って試したところ、ちゃんときれいになった。これで作業がずいぶん楽になった。


 2キロくらいの腿肉を小分けしてそこら辺の大きな葉っぱで包んで布袋の中に入れた。残りはアイテムボックスの中だ。ナイフもクリンできれいにしてからアイテムボックスにしまった。ナイフだけどクリンをかけると切れ味も元に戻るみたい。


 胃から下の臓物や頭部、その他わたしにとって不要な部位はスコップで穴を掘って埋めておいた。鹿の皮は何かの役に立つかもしれないと思ってとっておいた。


 こういった解体もかなり慣れてきているうえ解体中のクリン技まで発見したので、仕留めてから40分ほどで作業を終えることができた。まだ昼前だったけど、一度あの空き地まで戻って自分のかまどを作ってしまおう。王都まで出てきてあの縄文生活が役立つなんて。これも超ラッキーガールのわたしだからこそかも?


 大回りして30分ほどかけてキャンプに戻った。その間にナビちゃんに聞きながら食べられる草や根菜、それにキノコを採集しておいた。これで食卓はかなり豊かになるはず。



 キャンプに戻ったら、警備にあたる兵士が2名いただけだった。


 軽くあいさつして、他のメンバーの邪魔にならないような場所を探してかまどを作ることにした。


 かまどの下はある程度掘り下げた方がいいのでリュックの中から薪の枯れ枝を取り出して、それである土を掘り返し、周りから見つけてきた石をその周りに並べて小さなかまどを作った。


 鍋を乗っける横棒が欲しかったけど、アイテムボックスの中にあるだけなので、一度かまどを壊して、3方向から大きな石を置きそれを五徳がわりにしてその上に鍋を置いたところ、いい具合に鍋を置くことができた。そのあと、大きな石の周りを埋めるように小さめの石を置いていき、間に土を埋めてやった。


 あの林の拠点で作ったかまどより立派なかまどができ上った。


 手をウォーターで洗ったあとクリンで水を払ったわたしは天幕にパンを貰いに行った。


 天幕の中には誰もいなかった。誰もいない天幕の中で勝手にパンを漁れないので、警備している兵士に聞いてみた。


「きょうハーネス隊長が連れてこられた方ですね」


「シズカと言います。よろしくお願いします」


「それではご案内します」


 その兵士のあとをついて天幕の中に入った。


「この箱の中にパンが入っていますので、1日あたり3つ持ち出してください。

 シズカさんの場合、今日は2つでお願いします」


 朝だと3つで、昼からだと2つなのか。


 箱の中にはメロンパンくらいの大きさの硬そうなパンがたくさん入っていた。わたしは今日の分として2つ手にした。手にしたことで硬そうなパンが本当に硬いパンになってしまった。シュレーディンガーのパンって事かしら?


 リュックの中にパンを入れながら、ここでふと思い出したのが、朝三暮四(注1)のことわざ。だから何ってわけじゃないんだけどね。


 また縄文生活だと思っていたけど、パンがあるわけだから弥生生活?





注1:朝三暮四

https://kotobank.jp/word/%E6%9C%9D%E4%B8%89%E6%9A%AE%E5%9B%9B-568433

コトバンクより。

表面的にやり方を変えただけで、実質は同じであることに気づかないこと。また詐術をもって人を欺き愚弄すること、当座しのぎに適当にあしらうこと。試験に出るかも?

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