第35話 精鋭調査隊7、ナキアとキアリー


 森の中を歩きながら考えたんだけどあまりキャンプから離れてしまうと夜間移動して戻らなくちゃいけなくなるから、半日移動してそれから野営地に戻り、夜間はキャンプに戻って夕食を食べて眠るようにした方がいいような気がした。せっかくかまども作ったんだし。あのかまどがどうなったのか確かめるのを忘れてたけど雨の中じゃ崩れてるよね。直すのは簡単だけど。



 レーダーマップの端に黄色い点が2つ。キャンプの方向だから調査隊のメンバーの可能性が高い。放っておいて先を急いでもいいけれど、いちおう待ってみるか。


 数分立ち止まっていたら、ナキアちゃんとキアリーちゃんの二人だった。


「シズカ、わらわたちを置いて一人でいってしまうとは、ひどいのじゃ」


 キアリーちゃんもうなずいている。


 一緒に行こうとか約束した覚えはないのだけれどこの二人とならいいか。


「じゃあ、いっしょに行こうか。それで、二人はこれからどこに行くの?」


「わらわたちも特に行く当てはないのじゃ」


「そうなの」


「そういえばシズカはパン以外の食材はもっておるか? わらわたちは余っておるゆえ分けても良いぞ」


「早めに食べないといたんじゃうし」


「ありがとう。肉ぐらいだけどわたしもたくさん持ってるからだいじょうぶ」


「シズカは昨日やってきたのじゃろ? それでもう獲物を捕まえたのか。シズカは狩が得意なのじゃな。本番では頼りにさせてもらうのじゃ」


「任せて」


 任せて。と、言ったものの今まで弓矢以外で狩をしたことないんだよねー。確かに相手が向かってくれば剣で何とかできると思うんだけど、逃げていくようじゃ今のわたしでも追いつけないと思うもの。本番でいよいよとなったらアイテムボックスのことは打ち明けないわけにはいかないから、早いうちにこの二人には打ち明けておくか。


「雨は小降りなってきておるのでどこかで腹ごしらえをしたいのじゃが、濡れた落ち葉や枯れ枝では火を熾せぬし、パンでも食べようと思うてもアレはそのままでは硬とうて歯が立たぬし困ったものじゃな」


「乾いた場所ってどこにもないしね」


「雨が止んで少し地面が乾くまで、この際だから小川で水浴びでもしない?」


「おう、それは良いな。クリンで体はきれいなのじゃがやはり水で洗い流したいのじゃ」


「そうだよね」と、キアリーちゃん。


 そういうことでみんなで小川を目指すことになった。


 小川にたどり着いたときには空がかなり明るくなり、雨もすっかり止んだ。


 地面の草は濡れていたけどその上にリュックを降ろしてマントを上に掛け、3人揃ってその場で真っ裸になって岸まで繁った草をかき分けて水の中に入った。


「ほほう」


「なかなか」


「じろじろ見ないでよ」


 わたしのことをじろじろ見る二人だけど、二人ともなかなかいいプロポーションをしている。胸部装甲はナキアちゃんはBくらいで、キアリーちゃんはCくらい。わたしはB。18歳の体になっているから小さくなったのカモしれない。済みません見栄を張りました。高校の時から全然変わっていません。


 なんであれ、女同士なので冗談のようなもの。それからわたしたちはマッパで水を掛け合ったりしてふざけ合いながら遊んで、そのうちおとなしくなって簡単に手で体を洗った。


 わたしたちが川から上がった時には青空がのぞいていた。


 クリンを数回自分にかけて濡れた体から水をはじき落としてから服を着た。リュックにかけていたマントはほとんど乾いていたけどクリンをかけてちゃんと乾かしてからリュックの中にしまっておいた。


「水遊びは面白かったのじゃが、腹が空いてきたのじゃ」


「そうだね」


「火を焚きたいよね。乾いた薪はあるんだけど、枯れ葉とかそういったものがないのよね」


「3人そろってファイヤーで薪をあぶれば火が付くかもしれんのじゃ」


「それいいかも」


「じゃあかまどを作ってみようか」



 そういうことで、わたしたちは小川の脇で草の繁っていないところを見つけて簡単に地面を掘り下げ、周りに石を並べてかまどを作った。


 リュックから薪の入った袋を取り出し、地面に空けた。


「細い枝を下に敷いてだんだん太い枝を上に置いていこうね。

 いったん火がついてしまえば、その辺に転がっている濡れた枯れ枝でも火が着くでしょう」


「そうじゃな」


「火が着いたら、枯れ枝を拾ってくるね」



 かまどの下に薪を組み上げたところで、


「じゃあ、3人で火を点けてみよう」


「「ファイア」」


 3人が手を出して指先からライターの炎のような火を同じ枝に向かって出した。そうしたら、簡単に枝に火が着き、上の方に向かって燃え広がっていった。


「ほー、簡単に火が着いたのじゃ」


「これなら枯れ葉を集めなくてもいいね」


「そうだね」


「火が着いたから、鍋の用意じゃな」


「うん」


「ちょっと待ってね」


 裸の付き合いのナキアちゃんとキアリーちゃんだからと思ってわたしは、アイテムボックスのことを打ち明けることにした。


「ほかの人には内緒にしてもらいたいんだけど、わたしアイテムボックスのスキルを持ってるの」


「なんと。アイテムボックスとはまた希少なスキルじゃな。

 たしかに秘密にしておかねば、荷物持ちにされかねんスキルじゃものな。わらわは口が堅いの取り柄じゃから安心してよいのじゃ」


「すごい。誰にも言わないから安心して」


「うん。

 そんなに大量のものが入るわけじゃないんだけどね。それでもいろいろ入っているの」


 そう言ってわたしは、鍋をかまどの上に置く2本の鉄の棒と鍋をアイテムボックスから取り出した。


「この棒をかまどの上において、鍋を置けばいいでしょ?」


「わらわたちは鍋の柄に棒を括り付けて交代で火の上にかざしておったのじゃ。まさに文明の利器なのじゃ」


「鍋も大きいから一度にたくさん料理できるね」


「うん」


「じゃあ、鍋の中に食材を入れていきましょう。スープでいいよね?」


「あのパンにはスープなのじゃ」


「だよね」


 わたしは昨日仕留めた鹿の肉をリュックから取り出してナイフで切りながら鍋の中に入れていった。


「この肉は?」


「昨日仕留めた鹿の肉」


「シズカ、鹿を仕留めたのか!?」


「うん」


「わらわたちは何度も鹿を仕留めようとしてそのたびに逃げられておったのに」


「逃げられたよねー」


「実はわたし、弓矢も持ってるの」


「何と! それもアイテムボックスの中に?」


「弓矢が使えるってすごくない?」


「なんとか使えるんだよ」


「羨ましいのじゃ」


「ほんとだねー」


「わらわたちの持っておる食材が笑われそうじゃな」


「そうかも」


「なに持ってるの?」


「大カエルとヘビじゃ」


「カエルとヘビがにらみ合ってて二人で後ろから忍び寄って仕留めたの」


「そうなんだ。とりあえず鹿肉はいっぱいあるから今日は鹿肉だけにしよ」


「わらわもそれに大賛成なのじゃ」


「わたしも大賛成」



 火も大きくなって鍋の中で肉がジュージュー言い始めた。


「あと、何か野菜を入れたいけど、野菜持ってない?」


「野菜は沢山あるから、あとはわらわたちで料理を作るのじゃ」


「うん」



 ナキアちゃんがウォーターの生活魔法で鍋の中に水を入れ、肉がすっかり隠れた。そこでキアリーちゃんがリュックから岩塩を取り出してナイフで削って鍋の中に入れた。


 その後、ナキアちゃんがリュックからどう見てもお手製のヘラを取り出して鍋をかき混ぜ始めた。


「だいぶ煮えてきたのじゃが、せっかくの鹿肉。アクを取りたいのじゃがレードルがないのじゃ」


「お玉、じゃなくって、レードルならあるよ」


 そう言って、わたしはアイテムボックスからお玉を取り出してナキアちゃんに渡した。


「シズカは、なんでも持っておるのじゃな」


「すごいよね!」


「何でもじゃないけどね」



 しばらくアクをすくっていたナキアちゃんが、


「キアリー、そろそろキノコを入れてくれるかの?」


「うん」


 キアリーちゃんがリュックから布袋を出してその中からキノコを3つ取り出した。見た目は毒々しい赤い傘に白い斑点があってまるっきりベニテングタケなんだけどまさかそんなことないよね? ナビちゃんどうなの?


『ベニテングタケの一種ですが毒性はそれほどでもありません。大量に摂取しなければ問題ない程度です』


 そ、そうなのね。3人で3つなら大量ってことはないものね。


 キアリーちゃんがベニテングタケもどきを指でちぎって鍋の中に投入した。


 ナキアちゃんが鍋をかき混ぜ、


「そろそろじゃの」


 こんどはナキアちゃんが自分のリュックから布袋を取り出して、中から緑色の野菜の束を取り出した。その野菜の束をナイフでざっくり切って、鍋の中に投入した。ナイフで切った時の臭いがなんだかパクチーのような臭いだった。あれ苦手なんだよねー。もうお鍋に投入されちゃったから仕方ないけど。この世界のパクチーは食べてみれば案外おいしいかもしれないけど、やっぱりあの臭いからして、パクチーそのものだものね。



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