第36話 精鋭調査隊8、ナキアとキアリー2


 かまどにかけた鍋からいい匂いと言いたいが微妙な臭いが漂い始めた。


「でき上ったようじゃから、カップを出してくれるかの」


 わたしとキアリーちゃんのカップにナキアちゃんが肉と野菜と微妙なキノコ入りのスープをよそった後、自分のカップにもスープをよそった。


 わたしたちは銘々リュックから堅パンを取り出してナイフでちぎってはカップの中のスープに浸けて柔らかくして食べた。スープの味がしみ込んだパンはおいしかった。パクチーさえなければすごくおいしかったかもしれない。


 カップの中の具、主に鹿肉をフォークで突き刺して口に運ぶ。


 鹿肉はあっさりしていいんだけど、脂身がもう少しあった方がおいしかったかもしれない。


「白身のカエルとヘビでは味わえない、本物の肉の味なのじゃ」


「ホントだね。赤い肉の方が肉っぽいものね」


 ナキアちゃんもキアリーちゃんも喜んでくれているのでこれはこれでよかったけどね。


 スープがなくなったので、鍋からコップに継ぎ足した。やはり一人で食べるより一緒に食べる方がおいしいような気がする。パクチーさえなければもっとおいしかったのに。


 そうやって朝食を腹いっぱいになるまで食べたんだけど、物の輪郭が七色に滲み始めたんですけど?


「なんだか、いろんな色が見えるんだけど」


「あのキノコを食べたら、よくあることじゃし、これがアノ赤いキノコの面白いところなのじゃ。ヒャッヒャッヒャ」と、ナキアちゃん。


「きれいだよねー、へへ、へへへへ」と、言いながらキアリーちゃんが妙なエヘラ笑いを始めた。


 やっぱりベニテングダケの毒が回ったんだ! なんだか気持ちはいいし、周りの色が極彩色に見えてこれはこれでアリかも? それ以外におかしなところはないし、これならなにも問題ないような気がしてきた。エヘヘヘ。パクチーも食べてみたらおいしく感じて来ちゃった! エヘヘヘ。


 なんだか、疲れがどっと出てきて眠たくなっちゃった。ちょっと横になって休んじゃお。




 あー、よく寝た。昨日はあまり寝ていなかったものね。ナキアちゃんもキアリーちゃんも寝息を立てて眠っていた。いま何時ごろだろ?


『午後1時を回ったところです』


 そんなに時間は経っていなかった。


 鍋の中身は空になってたから使った食器なんかは簡単に洗ってクリンをかけて、わたしのものはアイテムボックスにしまっておいた。


 そうこうしていたら、ナキアちゃんとキアリーちゃんも目が覚めたようだ。


「わらわの食器も洗ってくれたのか。ありがとうなのじゃ」


「シズカちゃんありがとう」


「どういたしまして。

 それで、これからどうする?」


「そうじゃなー。

 わらわたちがせっかく3人いるのじゃから、何か大きなことをしたいのー」


「例えば?」


「うーん。明日の朝にはまたキャンプに戻るわけじゃからあまり遠くに行くわけにもいかんし。

 薪を集めながら、何か面白いことがないかブラブラ歩いてみるか」


「薪を集めてたらまたあのキノコが見つかるかもしれないものね」


「薪だけは必要だものね。落っこちてる枯れ枝もある程度渇いてるはずだからそうしましょう」



 わたしたちは小川の近くから林の方に移動して、地面に落っこちている枯れ枝を布袋に詰めていった。たきぎ集めをしながら、3人で調査のことを話し始めた。


「今回の調査が無事終わって王都に戻ってくれば、金貨100枚が褒章でもらえるそうじゃが、訓練も含めて50日近く。わらわの街までの往復を考えれば80日近く拘束されるわけじゃから、ちょっと安くないじゃろか?」


 やっぱりお金が出るんだ。そりゃそうだよね。


「ナキアちゃんはお金持ちだしいくらでも稼げるけど、

 わたしは普通だと1カ月稼いで金貨10枚、3カ月なら金貨30枚くらいしか稼げないから、そんなに割が悪いわけじゃないよ」と、キアリーちゃん。


「何もなければそうかもしれぬが、わらわたちの行き先にもし本当に魔族がおれば、ただでは済まぬわけじゃろ?」


「魔族と戦いになるかな?」


「わらわたちはたったの6人。相手はいくらいるかもわからぬ。戦わぬことに越したことはないのじゃが、戦いが起こった場合は覚悟せねばならんじゃろう。

 それに、隊長は信頼できそうじゃが、あの男のことはどうも信頼できぬのじゃ」


「カルヒのことだよね。なんだかいつもエラそうにしてるよね」


 あの男の名まえはカルヒといったのか。やっぱり、この二人とは気が合うみたい。


「ねえ、もう一人の男の人ってどんな人?」


「ジゼロンおじさんは外面はいいのは確かじゃが、実際のところは分からん」


「あの人ってどこを見ているのか分からないし、何考えてるか分からないからちょっと怖いんだよね」


 なるほど。そこまでは気付かなかった。


「とはいえ、人としては珍しく魔法が得意ということじゃ。わらわもキアリーもまだジゼロンおじさんの魔法を見たことはないのじゃが、ハーネス隊長の試験を乗り越えてやってきたわけじゃし、調査の本番ではそこそこ期待できるかもしれぬのじゃ。

 カルヒはダメじゃがな。

 シズカは、剣と弓矢という話じゃったから、わらわのことも話しておいた方が良いじゃろう」


「ナキアちゃんはメイスじゃなかったの?」


「このメイスは軽い木の上にそれらしく色を塗っているだけの飾りじゃ。大ガエルを叩き殺すときには活躍したのじゃがな。これまで活躍したのはあの時だけじゃ。

 わらわが何をするかというと、わらわは祈るのじゃ」


「そう、ナキアちゃんは祈るんだよ」


「どういうこと?」


「例えば、わらわの背負っておるこのリュックじゃが、みんなと同じリュックで重さも中に入っているものもだいたい同じはずじゃ。わらわのこの体で楽々担いでおるのはおかしいであろ?」


「そうだよね。どうなってるの?」


「軽くなれとわらわが祈れば軽くなるのじゃ」


「えっ!?」


「自分自身の力が強くなるように祈ることも、速くなるように祈ることもできるのじゃが、自分以外のことを祈る方が簡単じゃし効果も高いのじゃ。理由はわらわでも分からんのじゃがな」


「そうなんだ」


「病気やケガも治せるのじゃが、治りきるまで少し時間がかかる。もちろん軽い傷くらいならたちまち治る」


「それって、相当すごいことじゃない」


 ケガや病気を治せて、物にまで干渉できるってことはゲームで言うところの僧侶とか治癒師の上位互換ってことじゃない。


「そういうことなのじゃ」


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