第39話 精鋭調査隊11、オーガの魔石
夜が明けてきた。キャンプにはカルヒが戻ってきていて天幕前で所在なげにしていた。遅れているようでジゼロンおじさんはいなかった。
天幕からハーネス隊長が出てきたのでわたしたちも天幕前に集まった。
「ジゼロンがまだみたいだな。
困ったな。これまで遅れたことなど一度もなかったのだが。
オーガが出現した今少し心配だ。
シズカたちはもう少し待っていてくれ。
カルヒ、天幕でパンを取ったら話がある」
「はいよ」
カルヒは天幕の中に入っていきしばらくして出てきた
「ジゼロンがいないがいちおうカルヒに状況を説明しておく。
オーガがこの近辺に現れた。
幸いシズカがたおしたそうだが、オーガの数がその一匹である保証はない」
「それで?」
「わたしはシズカがたおしたというオーガをこれから検分してくるから、戻ってくるまでここで待っていてくれ。訓練を続行するかその時判断する。
わたしが留守の間にジゼロンが戻ってきたらここに残っておくよう言ってくれ」
「はいよ」
カルヒをキャンプに残したわたしたちはハーネス隊長を伴ってオーガをたおした場所に引き返していった。ナキアちゃんとキアリーちゃんはキャンプに残っていても良かったのだがついてきてくれた。みんなリュックは天幕の隅に置いておいたが、キアリーちゃんは大盾をナキアちゃんに手伝ってもらって革鎧の背中に括り付けてもらってた。わたしはハーネス隊長のハンマーを隊長の革鎧の背に括り付けた。
1時間ほどかけてわたしたちは現場に戻った。そこには背中を抉られ大穴を空けたオーガが横たわっていた。
「大きいな。よくこんなのを矢の一撃でたおせたな」
「運よくオーガの眉間に矢が刺さったものですから」
「とても矢など刺さりそうではないが、そこはシズカの腕前なんだろう。
オーガの背中を抉ったのは矢で仕留めた後なのか?」
「いえ、だれもオーガの背中を抉ってはいません」
ナキアちゃんとキアリーちゃんも首を振った。
「こういった大型モンスターの胸の中には魔石があるからきみたちが魔石を取ろうと穴を空けたのかと思ったが違ったか」
ハーネス隊長は手袋をした手でその抉られた穴の中に肘まで手を突っ込んでオーガの胸の中をまさぐった。
「案の定魔石は見つからなかった。何者かがオーガの背中を抉って魔石を抜き出したということだ」
槍の穂先をほとんど受け付けなかったオーガだけど、アレは生きていたからで、死んでしまったら刃物が通るようになるかもしれない。いずれにせよ、簡単ではないだろう。
「死体だからと言ってオーガの背中に大穴を開けて肋骨まで切り取るとなると大仕事だ。
こういったことが可能なのは魔法か何か特殊なスキルしかない。となると魔族の仕業の可能性も出てくる。
王都近くにこれほどのモンスターが現れたことは大問題だが、魔族が現れたとなるとさらに大問題だ。
ここでの訓練は中止だ。
今日の昼過ぎにやってくる馬車に乗って撤収する」
わたしたちは現場周辺にオーガから魔石を持ちだした犯人の手掛かりが何かないか見て回ったけれど、手掛かりは何もなかった。
これ以上現場にいても仕方ないのでキャンプに向けて撤収した。
キャンプへの帰りを急ぐ中で、ハーネス隊長に魔族のことを聞いてみた。
「隊長、魔族ってどんな外見をしてるんですか?」
「わたしも実物は見たことはないが、絵とかを見る限り人と大差ない。見分ける方法は、連中には頭に角が生えているそうでそれで人と見分けがつくと言われている。あとは耳が横に長いらしい。人でも耳が横に張った人間がいないわけではないので、耳だけでは決め手にはならないそうだ」
耳が横に長いだけなら物語に出てくるエルフっぽいけど角があるとなるとやはり悪魔的な何かなのか。頭に角が生えていると、髪を洗う時苦労するだろうなー。
わたしたちがキャンプに戻って来た時にキャンプにいたのは警備の兵士と毛布を敷いて横になっていたカルヒだけで、ジゼロンおじさんは見当たらなかった。ハーネス隊長がカルヒにジゼロンおじさんのことを聞いたところ、まだキャンプに現れていないと答えが返って来たようだ。
わたしは全くと言っていいほどジゼロンおじさんのことは知らないのでモンスターに簡単に後れを取るような人物かどうかは分からないけれど、ジゼロンおじさんにモンスターがらみで変事が起こった可能性は十分ある。
ジゼロンおじさんについてはハーネス隊長にお任せして、天幕の中に置いていたリュックを回収した。朝食をまだ食べていないわたしたちは、キャンプの隅の方でかまどを作って朝昼兼用の支度を始めた。3人がかりなのですぐにかまどはでき上がり火を入れるまでに準備ができた。
「忘れてたんだけど、イノシシの肉もあるんだよ」
「おおー。楽しみなのじゃ」
「どうする? またスープにするの?」
「スープにはもったいないから、素焼きじゃな」
「じゃあ、フライパンで焼くね。コショウもアイテムボックスに入っているからおいしく焼けると思うよ」
「なんと! コショウまで持っておったのか!」
「すごい。シズカちゃん頼りになるー」
「それほどでも。
パンはどうする?」
「枝に刺して火であぶれば少しは柔らかくなるじゃろう。少々炭が着くが大したことはなかろう」
「だね」
まな板があれば楽なのだが、無い袖は振れない。天幕の中の木箱はまな板代わりになるけれどさすがに勝手にその上で肉を切れないので、イノシシの肉の塊を片手で持って、まずはナイフでイノシシ肉の白身をフライパンの上にそぎ落とした。
そのあと、ナキアちゃんとキアリーちゃんとでかまどに火を入れてくれた。フライパンが温まったところで脂がフライパンに行き渡るようキアリーちゃんが脂身をヘラで動かしてくれた。
わたしは肉塊をナイフで適当にそぎ落としていき、最後に残った肉もフライパンに入れた。
肉で汚れた手はクリンできれいしている。このクリン、料理の強い味方だ。
ナキアちゃんが岩塩を削って肉の上に降りかけてくれたあと、わたしがコショウを振りかけた。
「そのコショウは粉なのか?」
「そう。あまり近づくとくしゃみが出るよ。ハーハーハー、ハクション!」
「「ハクション!」」
やっぱりくしゃみが出た。
かまどの火はもちろんガスではないのでそんなに火力はないけれど、5分ほどで片面が焼けたようだ。フォークを使って肉をひっくり返していき、今度は3分ぐらい焼いたところでいい具合に焼き上がった。
支給品にはお皿はないので各自の鍋の上に肉を入れていった。
肉の焼けるいい匂いがそこら中に漂った関係で他の連中に悪いことをしたかもしれないが、仕方ないよね。
そして、2回目、3回目の肉が焼けた。わたしも肉を食べながら焼いている。
イノシシ肉は結構なボリュームだったけど3人で完食した。塩、コショウは最高の味付けだ。パンの方は面倒だったので誰も食べなかった。そんなもんだよね。
その代り、食後のデザートとして干しブドウとデーツを食べた。
後で枝を削って菜箸をつくろう。船に乗るまでに機会があれば、まな板も買おう。乾燥果物もいっぱい買っておこう。木の実はちゃんと煎ったものを確かめてからだよね。
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