第38話 精鋭調査隊10、ナキアとキアリー4


 食後に乾燥フルーツと木の実を食べたらお腹いっぱいからお腹パンパンになってしまった。3人ともあまり動きたくなかったので、かまどの近くで毛布を敷いて寝ることにした。明日の朝の点呼に間に合うためには、明日の4時には起きなくちゃいけないけれど、まだ午後8時過ぎなので余裕で起きられると思う。



 星明りの下で目覚めたわたしは体全体にクリンをかけてスッキリした。


『ナビちゃん、今何時かな?』


『午前3時50分です』


 わたしが起きたところで、ナキアちゃんとキアリーちゃんも目が覚めたようだ。


「おはよう」


「おはようなのじゃ」


「おはよう」


 二人も簡単に支度を終え、リュックを背負って天幕のあるキャンプに向けて歩き出した。


 星が明るいので歩くのにそんなに苦労することもなくわたしたちはキャンプに向けて歩いていた。30分ほど歩いたところでレーダーマップ右手に赤い点が現れ、こっちに向かって近づいてきていた。


「何だかわからないけど、右手からわたしたちを襲おうと何かがやってくる」


 3人ともその場でリュックを下ろした。キアリーちゃんは大盾をリュックから外して右を向いて腰を下げしっかり盾を構えてから剣を抜いた。


 ナキアちゃんはキアリーちゃんのすぐ後ろに立って、口の中で何かつぶやいていた。ナキアちゃんはキアリーちゃんに対してなにか祈っているのだろう。


 二人の動きは流れるようで淀みがなかった。


 わたしはキアリーちゃんの斜め後ろに立ち、烏殺とボーナス矢を1本アイテムボックスから取り出して前方を見つめた。


 すぐに前方から草をかき分け地面を踏みしめる音が聞こえてきた。そして暗がりの中赤い二つの目が揺れながらこちらに向かってくるのが見えた。


「オーガだ」


「なんと。王都近くに大型モンスターとは。一体どうなっておるのじゃ?」


「わたしでも防げないかもしれない」


 キアリーちゃんでは盾を構えていたとしてもあの拳をもろに受けてしまえば吹き飛ばされてしまうのは目に見えている。


 とにかくオーガに対して先手を取るしかない。


 わたしは烏殺にボーナス矢をつがえ、オーガの二つの赤い目の少し上、眉間に向けて狙いを付けた。二つの赤い目はオーガの移動に合わせて上下に揺れているけれど、眉間に命中しなくとも頭には命中するだろう。そう思って狙いを付けボーナス矢を放った。距離は20メートル。わずかに放物線を描いたボーナス矢はオーガの額に深々と突き刺さり、オーガは声も上げることなくそのまま前のめりにたおれてしまった。


 えっ! 今のヘッドショット?


 レーダーマップを見ると赤い点はなくなっていた。遅れて頭の中にシステム音が響いた。


『経験値が規定値に達しました。レベル10になりました。SSポイントを1獲得しました。力が+1されました。知力が+1されました。体力が+1されました』


『経験値が規定値に達しました。レベル11になりました。SSポイントを1獲得しました。力が+1されました。巧みさが+1されました。体力が+1されました』


『経験値が規定値に達しました。レベル12になりました。SSポイントを1獲得しました。スピードが+1されました。巧みさが+1されました。体力が+1されました』


『弓術2の熟練度が規定値に達し、弓術2は弓術3にレベルアップしています』



「なんだか、今のでたおしちゃったみたい」


「オーガを弓の一射でほふるとは。シズカはただものではないのじゃ」


「良かったー。わたし、今までで一番まずいと思ってたの。助かったー。

 シズカちゃん、ありがとう」


 わたしたちは地面に置いたリュックはそのままに、オーガのもとに走っていった。烏殺はアイテムボックスにしまっている。


「赤い目しか見えなかったせいか、これほど大きいとは思わなかったのじゃ」


「ほんとによかったー」


 目の前でうつ伏せになったオーガの死体はブレスカでたおしたオーガよりも大きかった。こんなのがこの森の中に潜んでいたのか? ちょっと不思議だけども実物が目の前に横たわっている以上そうだったのだろう。


 待てよ。これって魔族の動きがどうのってことに関係してるんじゃないかな? うーん。


 ボーナス矢が突き刺さっている関係でオーガは顔を横に向けてうつ伏せに倒れている。わたしはボーナス矢を力ずくでオーガの頭から引っこ抜きながら、オーガの死骸をどうするか意見を聞いてみた。


「これどうする?」


「大型のモンスターじゃから大きな魔石がどこかにあると思うのじゃが。

 たいていのモンスターは心臓の辺りに魔石を持っているから、このオーガも心臓辺りに魔石があるのではないじゃろか?」


「ここで胸を開いてみる?

 うつ伏せに寝てるから胸を開くのが面倒じゃない?」


「それもそうじゃな。 

 キャンプに戻ってハーネス隊長に報告すれば検分にくるじゃろうから、その時まで放っておいた方が良いと思うのじゃが?」


「魔石はその時でもいいと思うけど、オーガのアレって高く売れるって聞いたことがあるよ」


「キアリーちゃん、アレはオーガではのうてオークじゃろ?」


「そうだったね。オーガなんて普通どこにもいないもんね」




 わたしは二人のやり取りを聞きながらやっとのことで引き抜いたボーナス矢をクリンできれいにしてアイテムボックスにしまっておいた。



 リュックを背負ったわたしたちは、オーガの死骸はそのままにキャンプを目指した。



 歩きながらステータスを確認したところ。


レベル12

SS=9

力:19

知力:14

精神力:12

スピード:23

巧みさ:27

体力:26


HP=260

MP=140

スタミナ=260


<パッシブスキル>

ナビゲーター

取得経験値2倍

レベルアップ必要経験値2分の1


マッピング2(54パーセント)

識別2(44パーセント)

言語理解2(44パーセント)

気配察知1(46パーセント)

スニーク1(36パーセント)

弓術3(12パーセント)

剣術5(53パーセント)


<アクティブスキル>

生活魔法1(14パーセント)

剣技『真空切り』



 夜が白み始めたころ、わたしたちはキャンプに戻った。リュックを背負ったハーネス隊長が天幕に入っていくところだったので、わたしたちは天幕まで急いでいった。



 ハーネス隊長はリュックを下して椅子に座っていた。天幕の中では非番なのか奥にあるベッドの上で兵士が一人眠っていた。わたしたちの物音がしてもその兵士に起きる気配はなかった。


「隊長、おはようございます」


「おはよう。

 3人揃って、どうした?」


「キャンプに戻る途中、オーガに出くわして、たおしました」


「オーガ? わたしも今まで一度も見たことはないが本当にオーガだったのか?」


「はい。ブレスカで一度オーガをたおしたことがあるので間違いありません」


「なんと。となると本物のオーガということか。

 こんなところまでオーガが現れたとなると、いよいよモンスターが活発化してきたな。

 しかしたった3人でよくオーガをたおせたな」


「3人と言っても、結局オーガをたおしたのはシズカ一人でやったことじゃ」


「シズカ、そうなのか?」


「いちおう。隊長には黙っていましたが、わたし、アイテムボックスってスキルがあってその中に弓矢も入れてるんです。その弓矢を使ってオーガの額を狙って矢を射たらうまく命中してオーガは即死しました」


「アイテムボックスか。確かに秘密にしておきたくなるな。それについては何も言うまい。

 あとでそのオーガを検分してみよう。点呼が終わったら案内してくれ」


「はい」


 報告が終わったわたしたちはパンの入った箱から今日の割り当て分のパンを取り出してリュックに入れて天幕を出た。



 隊長を案内するのでキャンプに帰ってくるまで朝食はお預けだ。



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