第18話 モンスター来襲


 ターナー伯爵が席を外しているあいだ、エレナちゃんからボディーガードの話を聞いた。


 わたしがいろいろ頭の中で考えて黙っていたので、エレナちゃんが心配そうに、


「ダメですか?」と、聞いてきた。


「イヤとかダメじゃないんだけど、わたしに務まるかなって」


「それならだいじょぶです。この街は安全ですし、悪い人といったらあの変な人くらいですから」


 子どもの言葉を信じても仕方がないと思うけど、ここまで言ってくれるのならそれはそれでありがたい。


「じゃあ、できるだけのことはするよ」


 就業形態は分からないけどまさかブラックってことはないよね。


「よかったー」


 エレナちゃんがにっこり笑った。この笑顔を見ただけでも了承した意味があったような。


 そこから二人で話をしながら食事を楽しんでいたら、席を外していたターナー伯爵が戻ってきた。


「大変なことになった。

 オーガと思われる大型のモンスター1匹に率いられたゴブリンの一団が南門の前に現れた。そのオーガが外壁を越えて壁の内側に侵入して門を破ったそうだ。オーガは単独で警備隊を薙ぎ払って大通りを北上しているらしい。後に続くゴブリンたちは門から街の中にいったん侵入したが門前の広場で警備隊が食い止めている。

 シズカ殿、申し訳ないがわたしは指揮をとるため市庁舎に行かなくてはならない。

 食事の途中だが、エレナと一緒にエレナの部屋で待機していただきたい」


「わたしも成りたてですが冒険者です。何かお手伝いできることはありませんか?」


「まさかこの屋敷まで侵入したオーガがやってくるようなことはないだろうが、エレナと一緒にいてくれればありがたい」


「分かりました」


「それではよろしく頼む」


『……、都から調査隊の話が来て警備隊の強化に取り掛かったばかりだというのに。しかしモンスターが群れを成して街を襲うなど、ここ数十年間なかったのではないだろうか。……』


 部屋を出ていきながらの伯爵の独り言が聞こえた。


「シズカさん、さっそくのボディーガード、よろしくお願いします」


「全力でエレナちゃんを守るから」


 モンスターが南門に現れたということは、わたしがいた南の林からやってきたっていうことだろうか? ちょっと嫌な感じがする。


 わたしがあのまま林の中にとどまっていたら、この街を現在進行形で襲っているモンスターの一群に遭っていたかもしれない。運が良かったのだろう。


 食べかけの食事はそのままに食堂を出てエレナちゃんの部屋に向かおうとしたところで、それまで給仕をしていたマリアさんが、


「シズカさま。その格好だと動きづらいし、武器もあった方がいいでしょうから、お屋敷の武器庫から防具と武器を見繕ってはいかがでしょう」


「そうね。シズカさん、武器庫に行きましょう」


「わたしはアイテムボックスってスキルを持ってて、自分の防具や武器をいつでも用意できるの。だから着替える場所さえあれば。この部屋でもいいけど」


「すごい! シズカさんてやっぱり普通の人じゃなかったんですね」


 普通の人じゃないって危ない人みたい。わたしは普通の人で十分なんだけど。


 着替えるにはここの食堂は少し狭かったので、3人で食堂を出たあと、着替えのための小部屋に案内された。そこで鎧下に着替え革鎧を着けた。屋敷の中だったしいつでも被れるのでヘルメットは被らなかった。


 建物内での取り回しを考えて、弓は用意せず剣だけ腰に下げておいた。


 用意ができたところで部屋を出たら、部屋の外でわたしが着替え終わるのを待っていた二人に、


「シズカさん、すごくカッコいい」


「シズカさま。すごいです」


 恰好通りだといいんだけど。


「それでは私の部屋に行きましょう」



 この街の領主相当の伯爵の屋敷にまでモンスターがやってくることはさすがに無いだろうけど、レーダーマップに注意して周囲の警戒だけは怠らないようにしよう。


 エレナちゃんの部屋へ移動中、街の鐘が鳴り始めた。いままで時間を知らせる鐘の音を聞いていたが、そういった鳴らし方ではなく急を告げる鳴らし方だ。


「鐘が鳴ってる。だいじょうぶかな?」


「警備隊もいるし、冒険者ギルドにも依頼を出しているはずですからだいじょうぶでしょう」と、マリアさん。


 そうだといいけど、子どものころDVDで見たゴ〇ラが街にやってきて火の見やぐらに上ったおじさんが半鐘を鳴らして避難を呼びかけているシーンを思い出した。あの映画って、何年前の映画だったんだろう? まさかこの世界で実物を見ることになりはしないよね?


 生きていくだけで特に何もしないでいいって神さまに言われてたけど、何もしなければ生きていけないんじゃないかしら。何もできないに比べれば、何かしないといけない方がいいのかもしれないけれど。


 などと考えながらエレナちゃんの後について一度2階に上がって廊下を歩きエレナちゃんの部屋に到着した。


 エレナちゃんの部屋は女の子の部屋らしく、部屋全体がピンク基調だった。大人の汚れた目で見てしまうと、特定目的のホテルっぽい感じがあるかも? 言っておきますが華も恥じらう乙女のわたしはそういった特定目的のホテルは使ったことはありません! 残念だけど。


 そういった感じのエレナちゃんの部屋の中に入ったのだが、鎧姿なので場違い感が半端ない。


 それでも勧められるままに丸テーブルの前の椅子にエレナちゃんと向かい合って座った。


 マリアさんはお茶を用意してくると言って部屋を出ていった。街の中に侵入したというオーガが心配だ。伯爵はこの屋敷に来ることはないと言ってたけど、まさかここにやってこないよね?


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