第17話 ターナー伯爵邸


 口臭男を撃退した翌日。


 昼前に宿に迎えが来るというので、わたしはどこにも出かけず部屋の中で待機していた。


 約束の時間の少し前に部屋から出て一階に下り、カウンターにいたニーナに部屋の鍵を渡しておいた。それからすぐに2頭立てで黒塗りの箱馬車が小鹿亭の玄関前に止り、中からマリアさんが降りてきて馬車に案内された。馬車の扉にはカッコいい紋章が描かれていた。おそらくターナー家の紋章なのだろう。


 これが馬車か。生まれて初めて箱馬車に乗った。馬車の内側は座席を含め臙脂色の布が張られて高級感が漂っていた。生まれ変わったわたしが生れて初めてって言うのはちょっとおかしかったので、笑ってしまった。



 わたしの向かいの座席に座ったマリアさんが、


「お忙しいところありがとうございます」と、わたしに頭を下げた。もちろん忙しいはずないことくらいわかっているだろうにとは思うが、あいさつだものね。


「いえいえ」と、答えておいた。


 今日のわたしの格好は、昨日と同じ。衣装屋で買ったヨモギ色のひざ丈までのワンピースのような上と黄土色のスラックスだ。地味なことこの上ない。仕方ないよね。これしか余所よそ行きはないんだもの。


 馬車の中で何も話さないわけにはいかないので当り障りのない話をしようと思ったのだけれど、当たり障りのない話を思いつくことができなかったので結局会話はなかった。機嫌が悪いとか思われなかったか心配だ。


 ……。


 わたしたちの乗った馬車は大通りを進んで20分ほどで大きな建物の向かい側に建ついわゆるやかたの玄関前で止まった。


「伯爵邸です。向かいはブレスカの市庁舎になります。昔は代官所と言っていましたが、5年ほど前ブレスカの人口が20万を超えたことでブレスカが市に昇格して名称も市庁舎となりました」


 なんだか、この国は地球の世界史的に言って中世から近世にかけての過渡期にあるような気がする。世界史も得意じゃなかったわたしなのでエラそうなことは言えないけれど。



 馬車から降りて、前を歩くマリアさんについて館の玄関から中に入ると、大広間のようなホールになっていた。天井の高さは4メートルくらいある。


 そのままホールを突き切ってその先の通路を折れ、そこから少し歩いて、行き先らしい部屋に通された。


「どうぞ」


 部屋の中には人が誰もいなくて、白いクロスのかけられたテーブルがあり、テーブルの周りに椅子が6つ並べられていた。テーブルの片側に2人分、その向かい側に1人分の食器が並べられていた。ナイフ、フォーク、スプーンと並べてあったが、どれもピカピカの金属製だ。銀食器のような気がする。


 わたしは1人分の食器が並べられたテーブルの席を勧められ、そこに座った。向かいに伯爵ともう一人が座るのだろう。順当に考えれば、エレナちゃんか。


「すぐに旦那さまとエレナお嬢さまがいらっしゃいます」


 当りだった。マリアさんはそう言っていったん部屋から出ていった。


 5分ほど椅子に座ってボーとしていたら部屋の扉が開いて、ひげを生やしたおじさんとエレナちゃんが部屋の中に入ってきた。二人の後ろにはメイド服姿の女性が控えていた。


 わたしはすぐに椅子から立ち上がって、


「きょうはお招きに預かりありがとうございます」と、あいさつしてから頭を下げておいた。


「ターナーです。

 こちらこそ、さあさあ、お席に着いて」


 わたしが席に着いたところで、ターナー父子が向かいに座った。


「まずは、娘のことを助けてくれてありがとう」


 そう言ってターナー伯爵が頭を下げ、エレナちゃんも一緒に頭を下げた。何て言っていいのか分からなかったのでわたしも頭を下げてしまった。


 そのあと伯爵が部屋の入り口で控えていた女性に軽くうなずいて見せたところで、その女性が部屋の扉を閉めて部屋から出ていった。


 すぐに扉が開いて先ほどの女性とマリアさんがワゴンを押して部屋の中に入ってきた。二人で料理の皿をテーブルの上に並べていった。


 錫製のコップの中に水が注がれ、真っ白い陶器の小皿の上のサラダにとろりとしたドレッシングがかけられ、各人の前に置かれた。こちらの生活で初めて熱を通していない野菜を見た。


 サラダの後はスープと小皿に乗せたパンが出てきた。どちらも真っ白な陶器だ。どこの食堂でも木製の食器だったし、おそらくこの世界では陶器は高価なものなのだろう。


 ナイフとフォークを使いながら、ターナー伯爵が話し始めた。


「それで、お礼の意味でシズカ殿を屋敷にお呼びしたのだが、実はシズカ殿に頼みがあったんだよ」


 あらたまった伯爵さまの言葉に身構えてしまった。


「実は、……」


 ターナー伯爵がそこまで話したところで、部屋のドアがノックされた。


『旦那さま、警備隊長どのが至急ご報告があるといらっしゃってます』


「シズカ殿、少し失礼する」


 ターナー伯爵が席を立ち、部屋から出ていった。


「お父さまの頼みって、シズカさんにわたしのボディーガードになっていただけないかって話なんです。3日前の時でも、ちゃんとしたボディーガードがいればあんな変な人に絡まれることもなかったわけですから」


 ボディーガードか。可愛い女の子の後をついて周囲を警戒して、敵対者を見つけて守り抜く。3日前のチンピラとか昨日の口臭男の一味くらいならなんてことはないけど、組織的、計画的な襲撃があった時エレナちゃんを守り切れるかとなると確実に守り切れるとは言えないよね。


 レーダーマップもあるし、そこまで真剣に考える必要はないかもしれないけれど、どうしようかなー?


「おじさんのボディガードだと、場所によってはおじさんを連れてじゃ中に入っていきづらいところもありますから」


 確かに。


 だけど冒険者としての仕事をこなして、レベル上げもしたいんだよね。


 今のわたしのステータスを調べてみた。


<ステータス>

レベル4

SS=3

力:13

知力:11

精神力:10

スピード:11

巧みさ:12

体力:22

幸運度:60


HP=220

MP=110

スタミナ=220


<パッシブスキル>

ナビゲーター

取得経験値2倍

レベルアップ必要経験値2分の1


マッピング1(42パーセント)

識別2(12パーセント)

言語理解1(48パーセント)

気配察知1(33パーセント)

スニーク1(30パーセント)

弓術1(42パーセント)

剣術1(32パーセント)


<アクティブスキル>

生活魔法1(8パーセント)



 弱くはないんだろうけど、まだまだだよね。


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