第19話 オーガ襲来
「シズカさんの髪って素敵」
いきなり向かいに座るエレナちゃんにそんなことを言われてしまった。今までそんなことを言われたことなど一度もなかったので驚いてしまった。それを言うならエレナちゃんのプラチナブロンドのサラサラの髪のほうが羨ましい。
「わたしに言わせれば、エレナちゃんの髪の方が素敵だと思うよ」
「そうですか? 嬉しい」
そんな感じのたわいのない会話をしていたら、マリアさんがワゴンを押して部屋に入ってきて、エレナちゃんとわたしの前にお茶の用意をしてくれた。
そんな感じで雑談しながらもわたしはレーダーマップに注意を向けている。レーダーマップの範囲はだいたい半径100メートル。見知った地形だと地形も分かる優れモノだ。今のところ、ターナー邸でわたしが目にしたところは玄関ホールに廊下、それに階段と部屋が3つしかないのでそれしか屋敷の中のことは分からないけれど、屋敷の中の人らしい黄色い点は把握できている。当然だけどあまり動きはない。
屋敷の前を移動している多数の黄色い点は北の方に避難している街の人たちだろう。
レーダーマップに注意していたら、いきなり赤い点が1つレーダーマップの端に現れた。その点があっという間に移動して、ターナー邸の玄関に侵入してきた。
何でそうなるのよ?
赤い点に続いて黄色の点も玄関に入ってきた。黄色の点は警備隊員たちか冒険者たちだろう。エレナちゃんの部屋にいても玄関ホールの方から何かが壊れる音が聞こえてきた。
赤い点に近づいた黄色い点が何個か灰色に変わった。マズい!
「エレナちゃん、街に侵入したというオーガが玄関から屋敷の中に入ってきた。
人が襲われている。二人はこの部屋の中にいて鍵をかけて。わたしはいってくる」
ボディーガードとすればエレナちゃんを放っておいてモンスターに立ち向かうべきではないのは頭の中では理解できるが、同じ屋根の下で人が襲われているとなると助けないわけにはいかない。助けられないにしてもこれ以上被害が大きくならないようにしなくては。
部屋を飛び出したわたしは途中でアイテムボックスからヘルメットを取り出して頭にかぶり、モンスターが暴れている玄関ホールに向かって走った。
玄関ホールに近づくにつれて、モンスターの暴れる音と、モンスターを囲んでいる黄色い点との戦いの音も大きくなってきた。
ようやくたどり着いた玄関ホールには人型のモンスターがいた。モンスターの後ろの玄関の扉は壊れて開いたままになっていた。
モンスターの背丈は3メートルほど。鬼の形相で、辺りを睨みつけている。モンスターの体のところどころから血が出ているようだが、大した量ではない、モンスターから見ればかすり傷といったところだろう。
『オーガです』と、ナビちゃん。これがオーガか。すごい迫力だ。そして御多分にもれず臭い。
オーガの周りに3人の兵士が槍を構えて立っており、オーガの足元には鎧を着た死体が4、5体転がっていた。
オーガが兵士から突き出される槍を振り払って正面に立った兵士を上から殴りつけた。グシャリという音と一緒にその兵士はその場に崩れ落ちた。残った兵士二人はそれでもひるまずオーガに向かって槍を突き出す。しかしオーガの皮膚はよほど厚くてじょうぶなようで、わずかばかり槍の穂先がオーガの体に突き刺さるだけだ。
わたしは少し怖くなってしまい、数歩下がってアイテムボックスから弓を取り出し、オーガの顔面に向けて狙いを付けた。その間に兵士が一人たおされた。残った兵士はただ一人。
狙うはピンポイントでオーガの目玉だ。いくら皮膚が硬いといっても目玉なら射貫けるだろう。当たったとしてだが。
最後の兵士が、オーガの拳の一振りで壁に叩きつけられて動かなくなった。
オーガはぎょろ目をむき、牙の生えた口からよだれを垂らしながら玄関ホールの隅に立つわたしに向かって近づいてきていた。
わたしは背中に冷や汗を感じた。弓の照準の丸い輪はオーガの顔くらいの大きさだったのでオーガの目にピンポイントで命中する可能性はかなり低いが焦ったわたしはそこで矢を放った。
当たらないだろうと思った矢だったが、なんとオーガの右目に深々と突き刺さった。狙いはオーガの左目だったけど結果オーライ。
やったー! と、思ったのも束の間、オーガは咆哮を上げて片目に突き刺さった矢を目玉ごと引き抜いて投げ捨て、わたしの方に迫ってきた。
わたしは弓をアイテムボックスに急いでしまって腰から剣を抜いて構えた。その時のわたしの剣先は震えていたと思う。すぐにでも逃げ出したかったけど振り向いて玄関ホールから出て廊下を走って逃げたところで追いつかれてしまう気がした。
わたしが手を伸ばして剣を突き出すよりオーガのリーチの方が長い。ということはオーガの体を狙うのではなく、オーガの腕なり手を狙うしかない。運が良ければオーガの手首を切り飛ばせるかもしれない。でもゴブリンの体ですら袈裟懸けに両断できなかったのだから無理のような気がする。
わたしの背後には玄関ホールの壁。いよいよ追い詰められた。何かいい手はないか?
今回は都合よくいい手が思い浮かばなかった。オーガの拳がうなりを上げてわたしに向かってくる。わたしは半分諦めながら、オーガの拳に向かって剣を振り抜いた。
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