第20話 オーガ撃破。


 迫るオーガの拳に向かって剣を振り抜いたと思ったのだが、空を切っただけだった。


 マズい!


 オーガの拳はわたしの顔に向かって迫ってきている。スローモーションの中でわたしは頭を下げることでオーガの拳を何とかかわそうとしたけれどほとんど頭の位置が変わらぬままかわし切れず、オーガの拳は革製のヘルメットをかぶった側頭部に直撃した。


 ギャオーーン!


 オーガの咆哮が聞こえた。ということがわたしの脳はまだ機能している?


 先ほどのオーガの一撃でわたしはこの世界からも退場したと思ったのだが、痛みもなければそもそも衝撃もなかった。


 咆哮を上げたオーガを見れば、片方の拳から骨がのぞいてそこから赤黒い血が床にぼたぼた滴り落ちていた。


 あれ?


 わたしの体がいくらじょうぶでも、3メートルもある巨人の拳の一撃を衝撃も受けずに耐えることなどできないはずだけど。なんで?


 だがいまはそんな考察をしている場合じゃない。オーガがひるんでいる隙に攻撃だ!


 わたしは剣を両手で握り直してオーガに向かって踏み込み、思いっきり剣を突き出した。


 兵士たちの槍の穂先をほとんど受け付けなかったオーガの体なので、わたしの剣も効かないと半分は思っていたのだけれど、抵抗といった抵抗もなく剣の切っ先がオーガの胸元に吸い込まれていった。


 あれ?


 考えるのは後だ。


 そこからわたしはオーガに向かって剣をめった刺しにしてやった。一度オーガが残った拳を放ってきたところを、手首から両断して攻撃を退けることができた。


 オーガは突っ立ったまま動きを止め、とうとう床に両膝をついた。そのオーガの首を切り落としてやろうと剣を振り上げたけど、首が筋肉に埋まった首筋が見えない。仕方ないのでオーガの頭に向かって全力で剣を振り下してやった。オーガの大きな頭の頭蓋が割れてピンク色の何かが飛び散り、血と脳漿が床に垂れた。


 フー、フー。


 久しぶりに息が切れたけど何とか勝った!


 そこで頭の中にシステム音が響いた。


『経験値が規定値に達しました。レベル5になりました。SSポイントを1獲得しました。力が+1されました。巧みさが+1されました。体力が+1されました』


『経験値が規定値に達しました。レベル6になりました。SSポイントを1獲得しました。力が+1されました。スピードが+1されました。巧みさが+1されました』


『経験値が規定値に達しました。レベル7になりました。SSポイントを1獲得しました。知力が+1されました。精神力が+1されました。体力が+1されました』


『経験値が規定値に達しました。レベル8になりました。SSポイントを1獲得しました。力が+1されました。巧みさが+1されました。体力が+1されました』


『経験値が規定値に達しました。レベル9になりました。SSポイントを1獲得しました。力が+1されました。知力が+1されました。精神力が+1されました』


『弓術1の熟練度が規定値に達し、弓術1は弓術2にレベルアップしています』


『剣術1の熟練度が規定値に達し、剣術1は剣術2にレベルアップしています』


 システム音が流れているあいだに床にたおれ伏したオーガの体から流れ出た血や脳漿が床の上に溜まりを作っていた。



『ステータス』と念じて今のステータスを確かめたところ、こんな感じになっていた。


<ステータス>

レベル9

SS=8

力:17

知力:13

精神力:12

スピード:12

巧みさ:15

体力:23


HP=230

MP=130

スタミナ=230


ナビゲーター

取得経験値2倍

レベルアップ必要経験値2分の1


<パッシブスキル>

マッピング1(44パーセント)

識別2(18パーセント)

言語理解1(51パーセント)

気配察知1(36パーセント)

スニーク1(31パーセント)

弓術2(18パーセント)

剣術2(64パーセント)


<アクティブスキル>

生活魔法1(8パーセント)


 数字を頭の中で確認していたら、視界の端のレーダーマップにこちらに近づいてくる黄色い点が十数個映った。ターナー邸の急を知った警備隊の兵士たちだろう。


 わたしは手にしたボーナス剣を一度血振りをしてクリンをかけて鞘に戻した。ボーナス剣は刃こぼれ一つしていなかった。



 間をおかずドタドタと槍を持った兵士たちが玄関ホールの中になだれ込んできた。


 兵士たちの先頭に立っていたおそらくは隊長さんから、


「あなたがオーガを?」と、聞かれたた。


「なんとか。残念ですが兵隊さんたちはオーガにやられてしまいました」


「それは仕方のないことです。われわれで兵士たちの遺体を屋敷の外に運び出します」


 その後、隊長は兵士たちに指示して遺体を運び出させ、わたしに向かって、


「わたしたちはこれから南門に加勢に参ります」


 そう言って玄関ホールから出ていった。オーガの死骸は大きすぎるので後回しにされたようだ。


 南門ではまだ戦いが続いているのか。オーガの数は1匹という話だったから、いま目の前で転がっているオーガでオーガはいなくなったはず。あとはゴブリンだけだ。ゴブリンの上位種も混じっているそうだから苦戦中なのかもしれない。


 わたしはオーガの目玉を串刺しにしたまま転がっていた矢を拾い上げ、いやいやながら目玉から矢を引き抜いた。矢じりを外し忘れていたので、オーガの目玉から矢を引っこ抜いた拍子に目玉からドロリと透明な汁が出てきて、ついでに矢の先に透明のレンズがくっついてきた。これってどうすんの? いやだよこんなの。


 矢じりもレンズに半分埋まってしまったので、アイテムボックスからナイフを取り出してレンズを削ってレンズを矢から引きはがした。レンズ自体は透明だったけどコリコリしたところは軟骨っぽい感じがした。矢はクリンをかけて矢筒に戻してアイテムボックスにしまっておいた。



 ホールの床に転がったオーガはSSポイントを1ポイント使ってアイテムボックスを拡張すれば収納できそうだったけど勝手にわたしのものにしてはマズそうな気がする。


 ということで、オーガは放っておいてエレナちゃんの部屋にいったん戻ることにした。



 エレナちゃんの部屋のドアをノックして中に入っていった。部屋の中には部屋を出ていった時と変わらずエレナちゃんとマリアさんがいた。


「シズカさん、急に物音がしなくなったけどどうでした?」


「オーガが玄関ホールで暴れてた。兵隊さんたちがそこでオーガを押しとどめてくれていたんだけど、みんなオーガにやられてしまったわ」


「そんな。でも、シズカさんが帰ってきたということは?」


「オーガは仕留めたよ。伯爵の話だとオーガは1匹だけだったようだからアレでお終いのハズ」


「すごい。兵隊たちが何人もかかってたおせなかったオーガを一人で?」


「うん。わたしの剣ってすごくよく切れるみたい。まだ南門あたりで戦いが続いているようなのでわたしはそろそろ失礼して、南門に行ってきます」


「うーん。残念だけど気を付けていってきてください」


「お気をつけて」


 わたしは二人に見送られて部屋を出て、速足で玄関ホールまで戻りそこから南門を目指して駆けだした。


 レーダーマップに注意を向けつつ、大通りを駆けているのだが、通りに人影はなかった。


 そしてわたしは駆けながら先ほどのオーガとの戦いのことを思い出していた。


 剣術スキル取得時のボーナス剣って安直な名まえの剣だし飾り気なんて全然ないすごくシンプルな剣なんだけど、実際のところ神さまからもらった剣なんだから、そこらの名刀なんか目じゃないくらいすごい剣のような気がしてきた。そのうちカッコいい名まえをつけてあげなくちゃね。


 そういえば、兵士を一撃でたおしたオーガのパンチを受けたけど何ともなかった。逆にオーガはわたしの頭というかヘルメットを殴りつけた反動で拳をひどく傷めてた。もしかして防具もとんでもない代物カモ? というかきっとそうに違いない。チンピラの両手の突きを受けて、逆にチンピラが後ろにひっくり返った時は、さすがは体力20越えだと思ってたけど、わたしの防具の何かの効果だったんじゃないかな?


『ナビちゃん、どうなの?』


『スターターパックの防具はどれも物理攻撃反転効果が付随しています』


 なんと。アーティファクト級の防具ってことじゃない。名まえはアレだけど。そのうち防具にもちゃんとした名まえを付けてあげないと。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る