第101話 5日目の夜1、5回目の襲撃1


 上陸して5日目の朝。


 目覚めると、昨日の現場に漂っていた臭いが野営地を覆っていた。わずかな臭いなら30秒もすれば順応して感じなくなると以前聞いたことがあったんだけど、わずかじゃなかったんだろう。


 みんなこの臭いを感じているんだろうけど、何も言わず朝食を食べ、移動の準備をした。


「ハーネス隊長。昨日の現場はコリンの体液で危険なので迂回しませんか?」


「そのつもりだ」


 それはそうだよね。



 わたしたちは、いつもの一列縦隊で移動を始め、昨日の現場を大きく迂回してから東に向かって進んでいった。


 2度目の休憩が終わってしばらく進んだところ、林が途切れ前方に草原が広がった。草原の先には山並みが青く見えた。山が青く見えるということはかなり遠い山だろうし、上の方がこの時期白いところを見るとかなり高い山なのだろう。


 目の前の草原で繁っている草は腰丈で、ところどころに灌木が生えている程度なので見晴らしは良い。大型のモンスターならかなり遠方から見つけることができるし、たおすこともできる。草原だからか、黄色い点も結構な数がレーダーマップに映っているので、今日の夕食前には狩をしても良さそうだ。


「われわれの目指す魔族の城跡はあの山並みの先にある。山の途中に向こうに抜けるトンネルの入り口があるはずだ。われわれはこれからそのトンネルの入り口を目指していく」


「隊長、目印はあるのかい?」と、カルヒがハーネス隊長に聞いた。


「それとわかる巨岩が山肌にあるはずだ。その巨岩を目指していけば必ず見つかる」


 移動途中の休憩でハーネス隊長が教えてくれた。


 しかし、人魔大戦時、よく人間側はこんなところまで兵隊を送り込んだものだ。と、感心する。人間死に物狂いになれば何だってできるってことかも知れない。


 草原を移動中、見た目は鹿のような動物を2匹仕留めた。鹿よりもだいぶ小さい。移動中だったので解体はせずそのままアイテムボックスの中に入れておいた。草むらの中で射殺した関係で一匹目は見つけるのが面倒だったけど、2匹目はナビちゃんの助けも借りて簡単に見つけることができた。鹿に似ていたけどナビちゃんに聞いたらガゼルとかいう動物だった。イノシシ肉とは違う味と思うけどどうなんだろう?



 移動を終えたわたしたちは野営準備を始めた。野営場所も草が全面に繁ってむき出しの地面が見えなかったのでわたしがムラサメ丸の水平真空切りで草を薙いでかなり広い空き地を作った。


 草を薙いだら、地面にそれラシイ葉っぱが生えていて、引っこ抜いたらジャガイモっぽいイモが現れた。その他にニンジンも見つかった。ラッキー。


 調子に乗ったわたしは、どんどん草を薙いでいき、かなりの量のジャガイモとそれなりの量のニンジンを手に入れた。玉ねぎも欲しかったけれど玉ねぎは見つからなかった。残念。


 木がそんなに生えていない草原で枯れ枝の入手が困難だったので、夕食の準備には最初から木炭を使うことにした。木炭へは強力ファイヤーでわたしが直接に火を点けた。この調子で木炭を使っていたら足りなくなるので、これから先、枯れ枝を見つけたら積極的に拾っていくことにした。


 今日狩ったガゼルは何も処理していないので、いつもながらのイノシシ肉の焼肉と、イノシシ肉にジャガイモとニンジンを入れたスープを作ることにした。下ごしらえが終わったところであとはキアリーちゃんに任せてわたしは野営地から少し離れたところに移動してガゼル2匹の解体に取り掛かった。


 スープができ上がるまでに2匹のガゼルの解体を終えた。もちろん不要部位は穴を掘って埋めた。


 みんなの元に帰ったところで、スープができ上がり、先に焼き上がっていたイノシシ肉と柔らかいパンがその日の夕食になった。


 みんな手袋は外していたけれど、このところ毎夜モンスターの襲撃を受けている関係でヘルメットを被って寝ていた。わたしもヘルメットを被って毛布の上に横になった。


 今夜も襲撃があると予想していたんだけど、昨夜の大攻勢を跳ね返した関係で、わたしはあまり気にかけることもなく眠りについた。



 真夜中。


 ナビちゃんの声で目が覚めた。


『……。敵が現れました。数は1体です。敵が現れました。数は1体です』


 予想通り襲撃があった。


 わたしは跳ね起きて敵が現れたことを告げ、手袋を手にはめた。レーダーマップを見ると赤い印が1つだけこっちに向かっている。今まで赤い印は点だったんだけど、丸に見える。これって?


 まだ距離は300メートル近くあるけど、地響きが聞こえてきた。何が迫ってくるんだ?



 ハーネス隊長以下3人は武器を構えナキアちゃんを囲む隊形を取っている。


 わたしはみんなより前に出て、不射の射を赤いに向かって連射した。


 距離は300メートル。遠くからドドドドドドドドドと低い爆発音が聞こえてきた。20発くらい命中させたはずだけど赤い丸は何事もないようにこちらに向かってくる。不射の射が効かないほどの敵?


 それでも、放ち続けていればいずれは『即死』が発動するハズ。そう思ったわたしは、近づく赤い丸に向かって不射の射を放ち続けた。


 距離が200メートルを切った辺りで、前方に黒い小山が動いているのが見えた。レーダーマップ上の赤い丸の位置なのでそれがモンスターだ。これは何なんだ!?


 それでもわたしは不射の射を放ち続けたけどモンスターに対して『即死』は発動しなかった。


 どうして?


『「即死」は物理攻撃・・・・を加えた場合一定の確率で発動して対象を即死させるスキルです。不射の射は物理攻撃とはみなされません』


 ナビちゃんが答えてくれた。


 こんな落とし穴があったのか。


 それなら、モンスターが近づいてきたら円盤の乱れ投げで仕留めてやる!


「シズカ、不射の射でもたおせないのか?」


「はい。相手が異常に硬いようで不射の射が通用しません」


「となると、モンスターから逃げるしかないのか?」


「いえ、円盤を多数投げつければ即死させることができるかも知れません」


「不射の射で通用しないのにあの円盤が通用するのか?」


「可能性は低いんですが、手数を出せば『即死』させるスキルを持っているんです」と、わたしは答えた。


「いつ発動するか分からないスキルですから、いよいよになったら逃げだしましょう」


「わかった」




 話しているうちに小山は揺れながら近づいてきて距離が150メートルほどになった。威力があまりないと円盤攻撃は殺意判定で弾かれるかもしれないので、50メートルくらいまでひきつけてから開始するつもりだ。その前にナキアちゃんの祈りが有効かどうか分かる。


「距離は250歩。亀?」


『おそらくクルバンと呼ばれる巨大亀です』


『弱点は?』


『分かりません』


 巨大亀クルバンの動きは鈍いので、50メートルの距離を詰められる間に円盤を100発は投げられる。ダメなら後退しながらでも攻撃は可能だ。


 距離が100メートルを切った。


 そこでわたしはいいことを思いついた。


「ナキアちゃん、相手は小山だし相当重いから、リュックを軽くする反対で重くできないかな?」


「祈りで重くすることなど今まで考えたこともなかったのじゃ。それは簡単なのじゃ。……。

 どうじゃろ?」


 しばらく巨大亀クルバンの動きを見守ったところ、あきらかに動きが鈍くなっている。


「効いてる」


 これなら近づいていきムラサメ丸で切りつけてもいいかもしれない。


「近づいてわたしの剣で切りつけてみる」


 わたしはみんなに一声かけて、抜き身のムラサメ丸を手に巨大亀クルバンに向けて走り出した。


 近づいて見た巨大亀クルバンは4本足で歩く巨大な陸ガメだった。その陸ガメがゆっくりと足を動かしてこちらに向かってきている。巨大亀クルバンはわたしを視界に捉えたようで狂暴そうな目でわたしを睨み、立ち止まってゆっくり口を開けた。巨大亀クルバンの口の奥が光ってる?


 あっ! 何かくる。マズい!



[あとがき]

2023年8月27日22時10分

近況ノート:遊子のブログNo465 2023年8月27日(日)に

イメージクリエーターで作成した『ゴールドドラゴン』を追加しました。

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『Y氏のSS置き場』

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894304315/episodes/16817330662747593327

第20話 グーグルBard(https://bard.google.com/)とのやりとり:シミュレーションゲームで敵国の国力を削ぐ方法

公開しました。よろしくお願いします。1361文字。今回もジョークじゃないんですけどね。

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