第122話 馬車旅3


 昼食を食べ終わったわたしたちは後片付けをしてしばらく休憩した。それからシルバーとウーマを馬車に繋いで移動を再開した。広場から道に馬車を出すのはキアリーちゃんが手綱をとって、馬車が道に出て方向が定まったところで御者を交代した。


 今は真夏なんだけど湿気はあまりないしそよ風が吹いているおかげで暑いと言うほどじゃない。幌も御者台の上まで張り出しているので今のところ直射日光にも当たっていない。景色と言えば、道の左右は変り映えのしない田園風景、右手の先には王都の街並み、そして遠くの方に山が見えるだけ。なのでパカパカ馬車に揺られていたら眠くなってきた。居眠り運転はマズいのでキアリーちゃんに交代してもらった。


 馬車は午後に入ってあまり進まないうちに西街道へ合流できた。さすがに街道は馬車の行き来も多く、キアリーちゃんがそのまま手綱を取った。街道に入ってしばらくしたところで、ナキアちゃんも荷台から御者台にやってきてキアリーちゃんを真ん中にして3人で御者台に並んだ。


「このまま、まっすぐ進めば10日ほどでカディフだから」


「途中に大きな街はないのかな?」


「そんなに大きな街はないけど、そこそこ大きな街はあるよ」


「どの街も代わり映えはせんのじゃがな。

 あの島ではモンスターが毎日のように出てきてそれはそれでスリルがあったのじゃが、この街道ではなんのスリルもないのが少し残念なのじゃ。程よいモンスターが現れんものかのー?」


 ナキアちゃんがまた危ないことを言い始めた。


「プリフディナスはもうモンスターを召喚しないって言ってるんだし、出てきたとしてもゴブリンくらいの雑魚ざこなんじゃないかな」


「雑魚では面白くないのじゃ。

 追い剥ぎはどうじゃろか?」


「街道に追い剥ぎなんてあんまり出ないんじゃないかな」


「そう言えばわたしブレスカから王都に出てくる途中追い剥ぎに遭ったよ」


「シズカちゃんが追い剥ぎに遭ったということは、その追い剥ぎはもう死んでおるのじゃろ?」


「うん。その時追い剥ぎは3人いたんだけど首をちょん切って近くの宿場町の役場に持っていったら賞金首だったから賞金貰った」


「シズカちゃんに遭ってしもうた追い剥ぎが少しだけかわいそうなのじゃ」


「ちょっとだけだけどね」


「追い剥ぎとか山賊とか出てくるとおいしいよね」


「わらわたちもたいがいじゃが、シズカちゃんもたいがいなのじゃ、ヒャッヒャッヒャ」


「ホントだね。ハハハハ」


「アハハハ」


 3人で危ない話で盛り上がり馬車に揺られていたら宿場町に通りかかった。街の中は人の往来も馬車の往来もかなり多くなってきたのでキアリーちゃんは馬車の速さを普通の大人が歩くくらいの速さまで落とした。


 その宿場町はブレスカから王都への街道にあった宿場町と区別はつかなかった。


 宿場町では、美少女3人が御者台に乗っていたのが目立ったようで、道行く男女に注目された。ナキアちゃんはサービス精神を発揮して適当に手を振っていた。わたしも何となくマネして手を振ってみた。


 そしたら、調子に乗った数人の若い男が馬車の横を歩いて御者台の右に座るわたし・・・に向かって卑猥な言葉ではやし立ててきた。


 かなり鬱陶しかったのでわたしは鞘に入ったムラサメ丸をアイテムボックスから取り出し、一番うるさくはやし立てていた男の首筋に鞘から抜き放ったムラサメ丸の切っ先を当ててやった。男も歩いているし、馬車も動いているからまかり間違えれば男の首は飛ばないまでも頸動脈くらいは切れていたかもしれない。とは言っても、わたしの今の剣術の腕前でまかり間違うことなどない。


 剣先を首筋に突き付けられた男はその場で尻もちをついた。男と一緒になってはやし立てていた男たちもその場で黙って立ち尽くした。馬車は男たちを置いて宿場町の中を進んでいった。


「シズカちゃん。お見事だったのじゃ。ヒャッヒャッヒャ」


「さっきの男の顔が面白くて手綱を変に動かすところだった。ハハハハ」


「シズカちゃんにちょっかい出して生きているわけじゃから、あの男実は相当運が良い男だったのかも知れぬな。ヒャッヒャッヒャ」


「確かに。普通なら首チョッパだもんね。ハハハハ」


 ナキアちゃんとキアリーちゃん、二人で盛り上がってしまった。



 そうこうしているうちに馬車は宿場町を抜けた。陽が西に傾いて日差しが眩しい。


 キアリーちゃんが、


「陽も傾いて来たしこの先で馬車を止めるのに都合の良さそうなところで野営しようか」


「うん」「そうじゃな」



 宿場町を出て1時間ほど進んだところで、道に面して適当な広場が見つかった。馬用の水場はなかったし宿場町から近いから駅馬車用の休憩所ではなく徒歩旅行者用の休憩所なのだろう。


 広場の中にキアリーちゃんが馬車を入れて、すぐにシルバーとウーマを馬車から外して楽にしてやり、わたしが桶に水を入れて飲ませた。その後キアリーちゃんが2頭に塩を舐めさせたので、わたしはリンゴを一つずつやった。


「後は軽くブラッシングしてまぐさをやっておけばいいでしょ」


 キアリーちゃんとナキアちゃんで2頭をブラッシングしてやり、その間わたしがまぐさを別の桶に用意しておいてブラッシングが終わってから2頭にやった。


 2頭の世話が終わったところで、今度はかまどを作りを始めた。旅人用の休憩所だったらかまど跡くらいありそうなものと思ったけど、町からさほど離れていないこんな場所で野営するくらいならふつう町まで足を伸ばすのでかまどなんか作らないのだろう。


 そういった場所だったけど、構わず大きな穴を掘って立派なかまどを作ってやった。


 わたしがかまどを作っているあいだにナキアちゃんとキアリーちゃんで枯れ枝を集めてきてくれたので、すぐに火を熾して夕食を作り始めた。


 ペイルレディ号から抜け出して王都で仕入れた牛肉や鶏肉、それに玉ねぎを始めとした根菜類もたくさんあるうえ、ナスビやピーマンまである。


 イノシシ肉はまだあるけど少し飽きてきたこともあり、今日は牛肉とナスビとピーマンを使った炒め物とスープを作ることにした。


 まずはスープだ。スープは簡単に干し魚と根菜のスープ。鍋の中に一緒にいれて水を加え、ナキアちゃんに熱くしてもらって根菜に火が通れば出来上がり。


 スープができ上がる間に炒め物。王都で買った大型のフライパンの上に適当な大きさにカットした牛肉を入れて火を通し、ある程度火が通ったところでざっくり切ったナスビと千切りにしたピーマンを入れて塩とコショウで味付けして出来上がり。何か化学調味料とかクッ○ドゥがあればいいんだけどないものは仕方がない。


 わたしが器用にフライパンを片手でヘコヘコ動かして中身を混ぜているところを見てナキアちゃんたちは驚いていた。わたしも初めてだったんだけど試してみたら意外とうまくフライパンをヘコヘコ動かすだけでかき混ぜることができたのには自分でも驚いた。





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