第114話 転移術2。送別会
お風呂の中で転移術のことを考えながらニヘラ笑いをしていた時ふと思いついたんだけど、湯舟の中に座って足を延ばした状態で転移したら、やっぱり同じ姿勢で転移するのだろうか? 立ったまま部屋から脱衣場へ転移した時は立ったままで、姿勢が変わったとは思えなかったし、顔の向きも同じ方向を向いていた。
試してみればいいだけなので、湯舟の中から脱衣場に転移したところ、思った通り湯船に入っていた時と同じ姿勢でそのままの方向だった。今のわたしを傍から見ればすごくおかしな人だ。でも、傍から見る人は一人もいないのでセーフ。
姿勢はそのままの方がいいと思うけど、方向は変わった方がいいような気がする。例えば敵と相対した時、敵の背後に跳んだら背中合わせではしまらないからね。
そう思ってどうにかして転移中に方向が変わらないか何度かマッパで湯船に浸かった姿勢のまま、部屋の中で転移を繰り返してしていたら、思った方向に体を向けられるようになった。床の上に二つ並んだお尻の跡が沢山ついてたのはご愛敬だ。
それでまたニヘラと笑っていたら、部屋の扉が激しくノックされ『だいじょうぶですか?』と声が聞こえた。聞いたことのない声だ。
「ちょっと待って!」
わたしは急いで脱衣場に戻ってクリンを2、3回かけてローブをまとい部屋の扉まで急いでいって扉を開けた。
そこには革鎧を着て背丈ほどの槍を持った兵士が4人ほど立っていた。
「何かあったんですか?」
「シズカさまのお部屋から未登録の転移反応が連続的に発生していたので、駆け付けました」
「ごめんなさい。わたしが転移を何度か試していました」
「シズカさまは転移が使えたのですね。失礼しました」
「こちらこそ。ここで転移してはいけなかったんですか?」
「いえ、転移反応が未登録だったため警告が出ましたが、警備室でシズカさまの転移反応を登録しますからもうだいじょうぶです」
そう言って兵士たちは帰っていった。転移には個人を特定できるような特徴があるのか。
いずれにせよセキュリティーもしっかりしてるんだ。確かに転移できる賊が侵入したらかなり危ないものね。さすがは明日香が造った宮殿だ。
素っ裸の上にローブを羽織っただけのわたしは扉を閉めて風呂に入り直した。
体も髪の毛も洗ってスッキリ。
風呂から上がったわたしは新しい下着をつけて、今日の会食用に今日着ていた服を上から着ておいた。さっきまで着けていた下着はいつもクリンをかけているので汚れているというわけではないけど脱いだときもう一度クリンをかけてアイテムボックスにしまっている。
時刻はまだ4時。『転移術』で遊ぶ時間はだいぶある。
一度に遠くまで跳んで帰ってこられないと大変なので、わたしは今朝最初に行った宮殿の最上階、展望室に跳んでいくことにした。
展望室を頭の中に思い描いて『転移』
ちゃんと展望室の窓際で窓の外を眺める向きに立っていた。これで自信が付いた。これならブレスカまで帰ることも可能だ。というか『転移術』の効能のようで、どこそこに転移したいと思うだけで転移可能だとなんとなくわかる。
よーし、今度はブレスカの小鹿亭に跳んでニーナちゃんを驚かせてやろう。
ブレスカの小鹿亭の玄関前を意識して『転移』
視界が一瞬のうちに切り替わり、わたしは懐かしの小鹿亭の前に立っていた。スゴイ!
ちょっと感動しちゃった。
小鹿亭の扉を開けて中に入ったら、ちゃんとニーナちゃんが店番していた。
「えっ! シズカさん、帰ってきたんだ!」
「帰ってきたわけじゃないんだけど、ちょっとだけニーナちゃんの顔が見たくなって顔を出したの。用事があってすぐ帰らなきゃいけないんだよ」
「そうなんだ。でも来てくれてうれしい。
それはそうとシズカさんの今日着ている服、なんだかカッコいいしステキな生地。どこでそんな服買ったの?」
「買ったんじゃなくて貰いものなの」
「なんだ。でもカッコいいなー」
「そう。わかった。この大きさでよかったら今度来た時上げる」
「ホントに?」
「ホント。わたしとニーナちゃんの体格はそこまで違わないから直さなくても着られると思うよ」
「うれしー。でも悪いから無理しないでいいよ」
「無理じゃないから期待してて」
「シズカさん、ありがとう。じゃあ期待して待ってる」
「じゃあ、そろそろ行くね」
「うん。さよなら」
「ニーナちゃん、またね」
「うん」
小鹿亭を出たわたしはすぐに宮殿の部屋に跳んで戻った。
部屋に戻ったわたしは椅子に座って一息ついた。転移術最高だよ。気付いたらまたニヘラ笑いしていた。気を付けなくちゃ。
ニーナちゃんとの約束を思いだしたのでクローゼットの中に吊るしてあったパンツスーツを一揃いアイテムボックスの中にしまっておいた。侍女から自由に使ってくれと言われているけど、さすがに勝手に持って行ってはマズいので今日の会食時明日香にことわっておこう。
そして送別会を兼ねた晩餐会。
昨日と同じ食堂に案内された。
出席者は、こちら側は5人、対面にジゼロンおじさんと明日香の2名。
食事が始まる前、明日香が話し始めた。
「今日、わが国を見学されていかがでしたか?」
「ただただ驚きました」と、ハーネス隊長。
「それだけ?」
「正直に話しますと、人族がこの国に対して軍事的な動きをすることは無謀であると認識出来ました」
「それは良かった。わたしたちも、人族の領域に対して領土的野心は持っていませんから安心してください。将来的には
昨日言った通り、こちらからモンスターを放つことはありませんので安心ください。今後人族領域に現れるモンスターはわれわれ魔族由来のモンスターではありません」
「了解しました」
その辺りで、侍女たちによって料理が運び込まれ、飲み物も配られて行った。
「それではみなさんの無事の帰還を祈って、乾杯」
「「乾杯!」」
「ありがとうございます」
「そうそう、みなさんの部屋の中にある衣装や靴などは皆さんに合わせて作ったものなのでご自由にお持ちください」と、わたしがそのことを言う前にジゼロンおじさんが言ってくれた。わたしの行動が読まれてたかな?
その日の晩餐は最初から日本食だった。わたしには箸が付けられていたけど、他の4人は大小のフォークとスプーンで日本食を食べていた。フォークとスプーンだと美味しさも半減すると思うけれど、みんなおいしそうに食べていた。最初の乾杯のビールの後配られたお酒は透明だった。飲んでみたらやっぱり日本酒だった。
そのうち焼酎も出され、ナキアちゃんとキアリーちゃんはロックで、ハーネス隊長はストレートで、カルヒは焼酎には手を付けず日本酒を飲んでいた。わたしも日本酒で通した。
料理の方は、フグの煮凝り、揚げ出し豆腐、キンキの煮つけ。ウナギのかば焼き(注1)もありましたよ。山椒の粉を振りかければサンマのかば焼きもウナギっぽくなるんだけどね。そして海老で出汁をとった味噌汁に握りずし。もうお腹いっぱい。
注1:ウナギのかば焼き
ここを書いてるのは土用の丑から2日遅れの2023年8月1日でした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます