第46話 フリゲート『ペイルレディ』4、飛竜


 麦がゆ以外の料理も全般的に塩辛すぎてわたしの口には合わなかった。こんなのを毎日食べていたら成人病まっしぐらだ。前半の航海はとりあえずあと9日ここのか。我慢しよう。お腹がすいたら船室の中で3人で干し肉でもかじっていればしのげるだろう。


 朝から元気の出ないことこの上なかったけれど、これも経験。これから100年近くあるわたしの人生の中で貴重な思い出になることだろう。なんて、つゆとも思わない。何とかしてよ!


 食堂から船室に戻ったわたしたちは今日一日何をするか相談した。


 できれば船の中を探検したかったけれど、船員たちの仕事の邪魔になるのは確実だし、こういった男の世界にうら若き乙女たちがノコノコ出かけていけば遭難することは目に見えている。まかり間違えればこの船に乗った船員たちを皆殺しにしてしまい大海原を漂流する可能性もあるので船内見学は控えることになった。


「あと10日とか9日とか暇なのじゃー」


「あんまり出歩けない以上仕方ないよ」


「本でもあれば時間が潰れるけど、艦長さん持ってないかな」


「艦長に出会ったら聞いてみるのじゃ」


「出会うと言ってもこの部屋に艦長がやってくることなんかないから出会わないんじゃないかな?」


「艦長の部屋に忍び込んで本を失敬してしまうのはどうじゃ?」


「止めようよ。もし見つかったら大変だよ。最悪この船の乗組員全員と戦うことになっちゃうよ。負けちゃえばそれっきりだし、わたしたちが勝ってしまえばさっきの話と同じでこの船漂流だよ」


「難しいものじゃな」


 そういった話をしていたんだけど、ふとレーダーチャートが目に入った。赤い点がこの船に向かってきている。


「何かが来る!」


「「???」」


「空の上か、海の中をこの船に向かってやってきてる。モンスターと思う」


 鎧は間に合わない。


 キアリーちゃんはリュックに括り付けていた大盾と剣を手にして、わたしもリュックに括り付けていたムラサメ丸を手にした。


 3人で船室の扉を開けて部屋を出て、甲板に走り出た。甲板では乗組員たちが大声を出して走り回っていた。船員たちが見上げる方向に首の長いドラゴン?が翼をはためかせていた。襲ってくるでもなく船の周りを旋回しているように見える。


「飛竜じゃ」


「厄介だね」


 ナキアちゃんもキアリーちゃんもさほど驚いてはいなかった。


 海上自衛隊の護衛艦なら空に向かって攻撃できるミサイルもあれば大砲もあるんだろうけれど、あいにくこの船にそんなものはない。そもそも大砲を積んでいるのかも分からないし、積んでいたとしても普通の大砲では上を向いて撃てないだろう。よくて弓矢か大型のいしゆみだろうけど、大型の弩ならまだしも弓矢が通用するような相手じゃないことは一目瞭然だ。



「ナキアちゃん、飛竜が飛びにくくなる祈りってないかな?」


「あいにくそのように都合の良い祈りを思いつかんのじゃ」


「リュックを軽くする祈りがあったじゃない」


「あることはあるのじゃが、アレを使えばますます身が軽くなって飛び易くなるのではないか?」


「飛竜が船に向かって襲い掛かってきたら、アノ祈りをかけてみてよ。急に体が軽くなるとバランスが崩れたりすると思うんだ」


「なるほど。やってみるのじゃ」


 わたしたちが甲板で飛竜を見上げながら作戦を立てていたら、急に飛竜が船の斜め前方からこっちに向かって突っ込んできた。最近よくわたしの方に向かってモンスターがやってくるんだけど、まさかわたしを狙ってるってことはないよね。


 わたしは手にしたムラサメ丸を鞘から抜き放ち、鞘はアイテムボックスにしまっておいた。キアリーちゃんは剣を引き抜いた後の鞘をナキアちゃんに手渡した。


 飛竜が30メートルくらいまで近づいてきたところで急にバランスを失ったようで翼をばたつかせた。うまくナキアちゃんの祈りが効いたようだ。飛竜はバランスを崩したまま舷側に吊るしてあったボートをかすめてマストの帆桁ほげたを一本へし折りマストに掛かったロープと帆布を引きちぎってそれらに絡まりながらわたしたちに向かって突っ込んで、頭から甲板の上に落下した。


 わたしは甲板の上に頭から落下して甲板上の箱や樽を壊しながらあがいている飛竜に向かって一歩手前から真空切りを放った。真空切りの弱点と言うほど弱点じゃないけど、放ったわたし自身真空切りの軌跡なんて見えないので手ごたえが何もないのだ。


 それでも真空切りの何かが5メートルほど先であがいている飛竜の頭に命中したらしく、飛竜の頭はざっくり割れ、割れたところから血を流して甲板の上に大きな音を立てぶつかった。


 目の前まで近づいた飛竜は口を開けてわたしたちを威嚇する。その程度のことでひるむことなくわたしとキアリーちゃんで飛竜の顔面を滅多切りにしてやった。飛竜はたまらず頭を逸らしたところ、飛竜の長い首ががら空きになった。わたしはその首に向かって最後の止めとばかりにムラサメ丸を振り下ろしてやったらすっぽりと飛竜の首を落とすことができた。


 飛竜に止めを刺して安心したわけでもなかったけれど、切り口から盛大に噴き出す飛竜の血を頭から全身に浴びてしまった。そこだけは不覚だった。生暖かい血がわたしの髪からポタポタ甲板の上に垂れて小さな血だまりができた。これはクリンを何度もかけないといけないな。


 首を落とされた飛竜はしばらくしっぽを甲板に叩きつけたりしていたけれど、だんだん弱々しくなってそのうち動かなくなった。


 飛竜が動きを止めたと同時に頭の中にシステム音が響いた。


『経験値が規定値に達しました。レベル13になりました。SSポイントを1獲得しました。スピードが+1されました。巧みさが+1されました。体力が+1されました』


『経験値が規定値に達しました。レベル14になりました。SSポイントを1獲得しました。力が+1されました。精神力が+1されました。体力が+1されました』


『経験値が規定値に達しました。レベル15になりました。SSポイントを1獲得しました。知力が+1されました。精神力が+1されました。体力が+1されました』


 ステータスを確かめたところこんな感じになっていた。そろそろSSポイントを使った方がいいかも。ゲームでもエリクシールとか全然使わず取ってたものなー。


レベル15

SS=12

力:20

知力:15

精神力:14

スピード:24

巧みさ:28

体力:29


HP=290

MP=140

スタミナ=290


<パッシブスキル>

ナビゲーター

取得経験値2倍

レベルアップ必要経験値2分の1


マッピング2(54パーセント)

識別2(44パーセント)

言語理解2(74パーセント)

気配察知1(66パーセント)

スニーク1(38パーセント)

弓術3(12パーセント)

剣術5(88パーセント)


<アクティブスキル>

生活魔法1(17パーセント)

剣技『真空切り』



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