第168話 プリフディナス10、7年目
わたしがこの世界にやってきて丸6年が過ぎ、7年目に入った。
昨年度ボーキサイトが見つかり、アルミ精錬を含めた各金属の電気精錬法も研究所の技術者が編み出した。
これに伴って水力発電の増強工事に取り掛かった。近い将来火力発電所の建設も考える必要がありそうだ。
ホーリー商会を拠点とした情報活動は順調ということだった。順調という意味は各国のいわゆる政府の中に浸透できたらしい。情報内容では、各国とも際だった動きはなくいたって平和で緊張からは程遠い状態ということだった。
人族の技術は緩やかに進歩しているらしいけど、人を選ぶ魔法の方は停滞もしくは衰退しているのではないか。というのが情報局の見立てだ。
「そろそろ積極的に人族の国が緊張するように仕掛けようと思うんだけど。どういう方法がいいと思う?」
いつもの朝会でジゼロンとリリームに聞いてみた。
「モンスターに人族の都市を襲わせてはどうですか?」
「そんなことすれば人死にが出るんじゃないの?」
「それぐらいでないと、効果があまりないと思います。とはいっても犠牲を出させることが目的ではありませんから比較的低位のモンスターを使いましょう」
「低位というと?」
「最高でオーガクラスでいいのでは?」
「オーガがどの程度のモンスターなのか分からないけど」
「情報局では、人族の軍の練度から言ってオーガ1体を倒すため10人から20人の兵士が必要だろうと推定しています」
「それって、ずいぶんじゃない」
「そうなんですが、オーガクラス、ないしはそれ以上のモンスターには脅威度の高い者に対して攻撃を仕掛けていくという習性があるため、ある程度の軍が常駐している都市に対してモンスターを放とうと思っています。ですので一般人の被害は限定的だろうと予想しています。
われわれ魔族に対する人族の緊張を高めるには、オーガ1体に20から30匹のゴブリンを付けて街を襲わせるのが最も効果的だろうと予想しています」
「情報局でもいろんな研究してるんだ」
「いちおう軍の下に置いた組織ですので」
「ある程度の人族の犠牲は許容する。ということでその線で行きましょう。
それで、ことを始めるのはいいとして作戦の終了は何を目安にする?」
「このプリフディナスに人族が到着したことをもって、人族の魔法能力が上がったと判断できるのではないでしょうか? モンスターの不自然な跳梁から、このプリフディナスにかつてあった魔族の一大拠点の復活を連想し、調査チームをここに送り込むだろうというのが情報局の見立てです」
「ふーん。
それで、ここにやってくるだけでいいの?」
「人族がこのプリフディナスに到着するためにはまず船でウニス・ウニグ島まで航海し、上陸後島の半分、約80里を踏破する必要があります。
その間モンスターで待ち受け、それらを人族がどういった形であれ排除できれば立派な能力の証明となるでしょう。しかし、今の人族の実力ですと何年かかるか分かりません。それまでは定期的にモンスターを放つことになると思います」
「なるほど。それで調査チームを待ち受けるモンスターは手加減なし?」
「はい。手心を加えれば証明になりませんから」
「モンスターはジゼロンが召喚するのよね?」
「はい。先日、召喚魔法陣を刻んだ石板を召喚できないものかと試したところ、下の召喚魔法陣のようになんでも召喚できる召喚魔法陣を刻んだ石板は召喚出来ませんでしたが、モンスターを召喚する程度の召喚魔法陣を刻んだ石板を召喚することはできました」
「そうなんだ。
わたし、モンスターって見たことないんだけど、実際のところ猛獣なんかとどこが違うの?」
「基本的には、体内に魔石と言って魔力を吸収して硬くなった玉のようなものを持っているのがモンスターの特徴です。もっともゴブリンには魔石はないので、モンスターとは言い切れないんですが、ゴブリンが進化すると魔石を持つようになると言われています」
「進化ってあるんだ」
「モンスターがモンスターを含めて生き物を殺し続けるとより強力なモンスターに進化するようです。わたしの場合は生まれた時から最強種ですから進化しませんが、飛竜などから進化してドラゴンに進化するものもいます」
「ふーん。分かった。
それで魔石って何かの役に立つの?」
「はい。モンスター用の召喚魔法陣を使う場合SPポイントは使えません。その代りが魔石となります。魔石の魔力がなくなるまでモンスターを召喚出来ます。また、下の召喚魔法陣でSPを使えば魔石を召喚することもできますし、魔石を送還することもできます。魔石を送還すればその分のSPが戻ってきます」
「ふーん。そうなんだ。
いいわ。あとはジゼロンに任せるから始めてちょうだい」
「かしこまりました」
その日から人族の都市周辺で目立たぬ場所に小型の召喚魔法陣をジゼロンが置いていった。全部で6カ所ほど召喚魔法陣を設置したところで一回目のモンスター召喚を行なった。召喚したモンスターはゴブリンとゴブリンの変異種とかいうちょっとだけレベルの高いゴブリン。そしてホブゴブリンとかいうゴブリンの進化種を召喚したそうだ。
召喚されたモンスターたちは自分を召喚した召喚魔法陣に近い人族の住処に向けて移動していくのだそうだ。結構エグイ作戦だし、わたしだったら相手に対して絶対報復すると思う。
あっ! それで人族がここプリフディナスにやってくるわけか。ちょっと納得した。当分先になるだろうけど、やってきたら今後モンスターを放たないと約束した上わが方のすばらしさを理解させて送り帰してやれば、いきなり報復戦争ということはないだろう。今まで集めた情報から、もしそんなことになってもプリフディナスが人族を圧倒することは目に見えているのであまり心配することもないしね。
ジゼロンは召喚魔法陣を増やしながらゴブリンを中心としたモンスターを放って2カ月ほど経った。放ったモンスターはことごとく討ち取られている。人族の被害は限定的だったようだけど、ホーリー商会の本店のある国でモンスター対策としての動きがあることが分かった。いわく、精鋭を集めてここウニス・ウニグ島の魔族の拠点跡を調査しようというものだった。
「ジゼロン。情報局の予想通りになってきたじゃない」
「はい。もう一押ししてみます」
「どういうこと?」
「今まで放ったモンスターはゴブリンを中心としたものでしたが、次はそのゴブリンにオーガを付けてみようと思います。
それと、その精鋭というのに私も応募してみようと思います。そうすれば調査隊のスケジュールなども判明するので、待ち受けることが容易になります」
「よその国の調査隊なんかに簡単に応募できるの?」
「はい。ドライグ王国の王宮内におりますわが方の工作員がその辺りを調整できる立場にいますので問題なく応募できます。選抜試験のようなものがあるようですが問題ないでしょう」
「ジゼロンなら試験の方は楽勝でしょうけどね」
「これで試験に落ちたら目も当てられませんが、まあ何とかなるでしょう」
[あとがき]
次話『第169話 プリフディナス11、7年、再会、そして……。』で明日香編も完結し『生きてくだけで~』完結します。最後までよろしくお願いします。
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