第92話 買い物


 わたしたちにとって商会の乗っ取りが実質的に完了してしまった。ベネットさんの話だとオルソン商会の売却が終われば金貨200万枚にはなるという。


 ナキアちゃんが気前よく、3人で山分けにしてくれたので、一人頭金貨70万枚近くになる。これだけあれば、これから100年遊んで暮らせる。ウハウハだ。とはいえあの島でのバッドエンドだけは回避してしまわないと、余生も何もない。


 そろそろお腹も空いてきたし喉も乾いてきた。商業ギルドを出たわたしたちは、食堂を探して辺りをうろうろしたところ本物のレストランぽい店はあったけど、エールをジョッキでカパカパ飲めるような店がなかなか見つからなかった。


 それでも、なんとかそれラシイ店が見つかったので3人してその店に入り空いていた4人席に座ってまずはエールを注文した。


 エールはすぐに運ばれてきたので代金は出納係のわたしが払った。


 その3つのジョッキに入ったエールにナキアちゃんが祈ってエールは半分シャーベットになった。


「「か・ん・ぱーい!」」


「ヒャヒャヒャ。

 うまい! これはうますぎるのじゃ」


「ホントだ! おいしいー」


「温かいふところに冷たいエール。もう最高!」


「もっと早くに気づいておればよかったのじゃが、気付かなかったらおおごとだったのじゃ。

 シズカちゃん、さまさまなのじゃ」


 そこから先は、前回同様。閉店まで飲み食いしてしまった。



 店を出たわたしたちは元気に訓練場の兵舎に戻り、鎧下姿のままベッドに入って眠ってしまった。



 翌朝。少し遅くまで寝ていたわたしたちは、朝食を食べ終えてそのまま街に繰り出した。


 もちろんその時間では飲食店は開いていないので酒屋がないか商店街に行ってみることにした。懐が暖かいので酒を樽買いしようという作戦だ。今現在のアイテムボックスの容量は900キロなので、樽の2、3個は余裕だ。水はウォーターでいくらでも用意できるのでできるだけ濃い酒が欲しい。


 商店街では人が沢山出ていて店の人が盛んに呼び込みしていた。


 今まで買い忘れていたんだけど、今回は生ハムの原木を見つけてしまった。売っていた3本全部買おうとしたら1本はおいてくれと頼まれたので2本しか買えなかった。


 そしたらチーズもあればありがたいと思って探したら、さすがは王都の商店街。10キロはありそうな大きな丸いチーズを売っていた。2つは多いかなと思ったけれど、腐る物でもないので買っておいた。


 次はフルーツだ。今までフルーツと言えば乾燥フルーツだったけど、アイテムボックスに入れておけば傷まないし、ナキアちゃんに頼めば冷たくしてもらえるので、みずみずしいフルーツを追加で買うことにした。


 リンゴとオレンジ、そしてメロンとブドウをそれなりの量八百屋で購入した。残念だけどイチゴは売っていなかった。もちろん品種改良が進んでない世界の果物だからそれほど味は期待できないけどフルーツはみずみずしいだけでもでも価値がある。


「あとは酒じゃな」


 酒屋もすぐに見つかった。


「おじさん、なるべく濃い酒が欲しいんだけど」


「となると蒸留酒だな。

 これなんかどうだ?」


「これは?」


「ブドウ酒を蒸留したブランデーだ」


「味見できる?」


「ああ」


 おじさんが瓶から小さなコップに少しだけブランデーを注いでくれたので、代表してナキアちゃんが試してみた。


「ナキアちゃん。どうだった?」


「このまま飲むには良いが、薄めて飲むとなるともう少し濃い方が良いような気がするのじゃ」


「おじさん、もう少し濃いのは売ってないの?」


「そうなると少し値が張るが、それでもいいのかい?」


「値段はあまり気にしてないから」


「そりゃまた豪勢だな。

 となると、これだな。

 こいつはうちで扱ってる一番濃い酒だ」


 おじさんが別の瓶から小さなコップに少しだけ注いでくれたので今度はわたしが代表して試してみた。無色透明でアルコールの匂いがちゃんとする。これは有望だ。


「味はあんまりないけど、かなり濃い。果汁を入れて水で薄めたらおいしそう」


「それで決まりじゃな」


「楽しみだね」


「おじさん、今のお酒樽で売ってくれる?」


「樽で仕入れたもんじゃないから、そりゃ無理だ」


「じゃあ、あるだけ頂戴」


「10本ほどある。1本あたり銀貨10枚、10本だと金貨2枚になるがだいじょうぶなのか?」


 小銭入れから金貨2枚を取り出して「はい、金貨2枚」


「あんたたち恐れ入ったな。鎧下で出歩いているからよっぽど変な連中かと思ったが、今の若い連中の流行はやりなのかい?」


「いろいろあって着替えが無くて着ているだけだから」


「そ、そうなのかい。まあ、いいけどな。

 ちょっと待っててくれ。奥に行って瓶を取ってくる」


 おじさんが奥に入って酒瓶を左右の手で2本ずつ持って出てきた。それを5回繰り返して10本揃ったところでアイテムボックスの中にしまっておいた。


「アイテムボックスも持ってるのか。ホントにあんたたちただものじゃないな」


「まあね。

 あと樽で買える濃い酒ってある?」


「樽だと、さっきのブランデーしかない」


「どうする?」


「量があるならのままで飲めばよいから、良いのではないか?」


「だよね」


「おじさん、樽ってどれくらい入ってるの?」


「見せてやるからこっちに来てくれ」


 おじさんについて店の奥の倉庫のようなところに入っていった。


「これがブランデーの樽だ」


 他にも樽が何個も並んでいたけれど、他の樽よりは小さかった。それでも、4、50リットルは入りそう。同じ樽がもう一つあったので、


「こっちもブランデー?」


「ああ、同じものだ」


「じゃあ、この2つお願い」


「2つで金貨1枚だ」


 おじさんに金貨1枚を渡して、樽を2つアイテムボックスにしまっておいた。


「あの樽が2つも入るアイテムボックスか。うーん」


 一番大きな樽はエールのだと思うけど、400リットルは入りそうな大きな樽だったのでそれは断念した。



 目的も達成できたわたしたちは酒屋を後にした。


「さっきのお酒に入れる果汁として、オレンジは半分に切って絞ればいいけど、ほかのフルーツはどうしようか?」


「リンゴだとすりつおろして布で絞るんじゃろうな」


「あとのフルーツはちょっと難しいかも」


「だよね」


 リンゴもすりおろして布で絞るとなると面倒だからきっとオレンジだけになるな。まあそれでも十分だけどね。レモンを売ってなかったんだよね。あっ! そういえばライムはあったカモ?


 二人を連れて八百屋に戻り壊血病予防にはライムジュースだという航海ゲームのことを思い出したのでライムをどっさり買ってしまった。



 買い物を終えたころには食堂が開き始めていたので、さっそく突撃して飲み食いを始めた。



 飲みながら、


「こうなってくると船旅が待ち遠しいのじゃ」


「だね」


 待ち受けるバトルに不安はあったけど、わたしも何となく船旅が待ち遠しくなってきた。


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