第90話 乗っ取り1


 わたしたち3人は仕入れたお土産を届けるためもう一度オルソン商会に戻っていった。


 オルソン商会の入り口には、先ほどと違いいかめしそうな警備員が扉の両側に一人ずつ立っていたけど、ナキアちゃんが「わらわたちを通すのじゃ」と言ったら、「「はい」」と返事をして直立した。


 わたしたちはその二人の間を抜けて、再びオルソン会長の部屋に向かった。


 オルソン会長の部屋の扉前には前回立っていたのとは違う警備員が二人立っていて、これもナキアちゃんが「そこをどくのじゃ」に、二人は素直に「はい」と言って扉の前から脇に移動して直立した。


 今回もわたしが部屋の扉を開けた。前回は扉の先には衝立があったけど今は横に動かしていて、部屋の奥でオルソン会長が机を前に椅子に座って、何かの書類を見ていた。


 部屋の扉が開いたことで顔を上げたオルソン会長がわたしたちを認めて驚いたようだ。刺客を20人も送った相手が元気に舞い戻ってくれば驚くのは当たり前だよね。


「お、お前たちは!?」


「わらわたちがピンピンしておって、驚いたようじゃな。

 良い物を道で拾ったので、おすそ分けにきてやったのじゃ。

 シズカちゃん。アレをそやつ机の真ん中に置いてほしいのじゃ」


了解りょうかーい!」


 わたしはオルソン会長の机の前まで歩いて行き、先ほど刈り取った傭兵?の頭を首を下にして会長の机の真ん中にデンと据えた。


 首は水平になるようちょん切ったんだけど、デンと据えたのが悪かったみたいで、首の部分でヘニョリと潰れてしまいゴロンと転がってしまった。時代劇とかの首実検シーンだとちゃんと首が立ってたけどあれって演出だったんだよね。首だけじゃ座りが悪いもの。首を乗っけてる台とか箱の底から釘が出ていてそれに首を差し込んでるのかも? どっちでもいいけど。


 転がった傭兵の頭は文字通り血の気が引いて蒼白くなった顔をオルソン会長に向け、ヘルメット越しに恨めしそうに会長の顔を見上げている。


 蒼白くはなっていたもののさっき切り取ったばかりの新鮮な生首なので、まだ血がだいぶ残っていたようだ。首の切り口から赤い血と赤黒い血がゆっくりと混ざりあいながら流れ出て机の上に小さな血だまりができた。会長はわたしたちが部屋に入る前まで何かの書類のようなものを見ていたようで机の上に紙が1枚乗っていたけれど、その紙まで血が流れていった。今さらだよね。


 オルソン会長はお土産を見て何も言わなかったけど、顔はお土産並に蒼白だ。この会長さん意外と修羅場慣れしていないのかな?


 ニヤリと笑ったナキアちゃんが口角を吊り上げたまま半分おびえてしまったオルソン会長に話し始めた。


「その男はわらわたちを襲ってきたので返り討ちにしてやったのじゃが、その男が死ぬ前にお主に命じられてわらわたちを襲ったと言っておったぞ。

 カディフの聖女の言葉はすべて真実ということになっておることは先ほども教えてやったが、さすがに忘れてはおるまい?

 お主は立派な人殺しなのじゃ。もうのがれられんのじゃよ。

 このまま官憲に引き渡しても、官憲もお主の息がかかっておるやもしれぬから、この場で成敗してやるのじゃ。わらわが悪人を成敗したところでどこからも文句は出ぬからの」


「ま、待ってくれ」


「わらわに向かって『待ってくれ』? お主、何か勘違いしておるのではないか?」


「待ってください」


「それで?」


「なんでも欲しいものを言ってください。何でも差し上げます」


「そうじゃなー。

 それでは、この商会をそっくり貰おうかの」


「それはさすがにできません」


「それほど欲しいわけでもないゆえ、できなければ、できなくても構わないのじゃ。

 シズカちゃん。この男は首が重くてつらいそうじゃ」


「じゃあ、すっぽり首を落としてあげる」


 わたしはそう言ってアイテムボックスから取り出した抜き身のムラサメ丸を右手に持ってオルソン会長の首筋に突きつけた。目測はあやまたず、会長の首筋からわずかに血が流れ出てきた。


 オルソン会長は顔をのけぞらせて、


「ま、待ってください。

 差し上げます。この商会を差し上げます」


「それでよいのじゃ。

 その辺にある紙にそのむねを書いてくれればよい。あて先はカディフの聖女、ナキアさまでな。お主の名まえでちゃんと署名するのじゃぞ」


「はい」


 オルソン会長は机の中から紙を一枚出して、ナキアちゃんの言う通りの証文・・を書き始めた。


 書き終えた証文はわたしが預かってアイテムボックスにしまった。


「お主は今までそこらの証文なんぞ知らぬ存ぜぬを通して何とでもしていたのじゃろうが、わらわがこの証文の証人になるゆえ今回に限っては知らぬ存ぜぬは通らぬよ」


 オルソン会長はがっくり肩を落とした。


「わらわたちはこれから王都の商業ギルドにいってこの証文を差し出してくる。

『悪あがきするでないぞ』」


「はい」


 最後にナキアちゃんが命令した。これでオルソン会長はもう何もできなくなったはずだ。


 しかし、この国一の商会というのが本当かどうか知らないけれど、それを乗っ取っちゃたんだよね。いいのだろうか?



 わたしたちはオルソン会長を部屋に残し、商会の建物から通りに出た。


「ナキアちゃん、すごかったね」


「あの男、わらわたちを甘く見過ぎたということじゃな」


「それにしてもスゴイよ」


「なーに、それほどでもないのじゃ。ヒャヒャヒャ」


「ところでナキアちゃんは当然商業ギルドがどこにあるか知らないよね?」


「もちろんじゃ」


「じゃあ、そこらの人に聞いてみる」


 親切な通りがかりの人に商業ギルドまでの道を聞いたので、今度はわたしが前に立って商業ギルドに向かった。


 オルソン商会も一等地にあったようで、同じく一等地らしいところに建っていた商業ギルドには5分ほどでたどり着いた。商業ギルドまでの道は商会から出た道をまっすぐ進んだけだったから、誰が先頭でもよかったんだけどね。


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