第4話 レベル2、ゴブリン
ウサギの解体を終え、草の上に座って少し休んでいたら木立の葉っぱの間から太陽がのぞいた。
『太陽を確認しました』
『現在時刻を新暦1255年4月18日午前9時00分と仮設定します。太陽が南中した時点で、時刻を新暦1255年4月18日午後0時00分と再仮設定します』
ナビゲーターが南中と言っていたから、ここは、北半球なのかな。
『現在位置を原点とした広域マップを作成します。マッピングレベルが不足しているため広域マップは参照できません』
今わたしが立っている位置がわたしにとっての全ての基準になるってことかしらん?
とか思っていると、レーダーマップの端の方に赤い点がまとまって3つ点滅しはじめた。敵性生物だ。距離的には、だいたい100メートル。
中腰になって音を立てないようゆっくり移動し、その敵性生物が50メートルまで近づいたところで木立と草の隙間から視認できた。
背丈は120センチから140センチほど、肌は緑がかった褐色の人型。
3匹とも体に似合わないほど大きな棍棒を担いでいる。視界にダブって『ゴブリン』と名前が表示された。
『ゴブリンです。
ゴブリンは魔力の影響で奇形化した妖精が固定化したものです。モンスターの一種ですが、体内で魔力を固定化して魔石を作ることはできません。ゴブリンは他のモンスター同様経験などにより進化します。次の進化先はホブゴブリンです。ゴブリンの最終進化形はゴブリン・キングと言われていますが、これまで確認されたことはありません』
ゴブリンか。人型をしているけど殲滅あるのみで本当にいいんだろうか?
『ゴブリンは害獣です。魔力の固定化もできないので生かしておく必要はありません。可能な限りたおしてください』
ナビゲーターさん、容赦ないなー。無駄な殺生はしたくないけど、そこまで言われれば嫌も応もない。わたしの経験値となってください。
向こうの方からすえたような臭いがわずかに漂ってきているので、わたしの位置は連中から見て風下のようだ。これなら気取られにくいだろう。
3匹は周りを警戒しながら音を立てないように、わたしから見て右手に向かってゆっくり歩いている。黄色い点が連中のさらに右手に見えるから、狩りをしているようだ。
『左側から音をたてないよう慎重に回り込んで、ゴブリンの背後から弓矢で攻撃しましょう』
わたしは中腰のまま、ゴブリンたちに近づいていく。
ゴブリンとの距離は40メートル。弓をアイテムボックスから取り出して矢をつがえ、縦ではなく横に弓を構えて、さらに接近していく。
35メートル。わたしから見て一番手前のゴブリンに狙いを定める。照準の丸い輪っかからそのゴブリンの体がはみ出したところで第1射。
わたしの放った矢は狙ったゴブリンの背中の真ん中に命中した。
そのゴブリンは「ギャッ」と、一声叫んで前のめりに倒れこんだ。
先を歩く2匹が何事かと振り向き大きな声を上げた。わたしをを見つけたようだ。さらに先では、連中の狩ろうとしていた鹿?が驚いて、逃げていった。
2匹のゴブリンが大声を上げながら棍棒を振り上げて迫ってくるなか、立ち上がったわたしは次の矢をつがえ、弓の弦が革鎧に擦れないようやや斜めに弓を構えて狙いを定める。手前のゴブリンまであと25メートル、第2射。
矢は狙いを付けたゴブリンの右胸に命中し、そいつは棍棒を取り落としうずくまった。残った1匹が棍棒を振りながら迫ってくる。
最後のゴブリンとの距離は約15メートル。わたしは弓を収納し、長剣を引き抜いて両手で中段に構え、ゴブリンを迎え撃つため駆けだした。
ゴブリンが両腕で身の丈に合わない棍棒を振り上げようとしたところに、わたしは長剣を振り上げながら思いっきり踏み込んで、袈裟懸けに切りつけてやった。
身長差があるため、わたしの剣とゴブリンの持つ棍棒では間合いの差がずいぶんあり、たやすく切りつけることができた。わたしの剣先は一気にゴブリンの左肩口から胸の中ほどまで切り裂いたけど、そこで止まってしまった。
棍棒を取り落としたゴブリンから赤黒い血が噴き出してきた。
そのゴブリンは脱力し、崩れ落ちながら濁った眼でわたしを一瞬だけ見上げた。右足でゴブリンを蹴るように支え、ゴブリンの体に埋まってしまった剣を引きぬいた。
生理的に受け付けないようなすえた臭いが鼻をつく。振り抜けず途中で剣が止まってしまったのは、革で巻いた剣の握りに力を込めすぎて、動きが硬くなったためだと思う。血振りをしたわたしは、右胸に矢を当てたゴブリンに向かっていった。
ゴブリンは矢を胸に突き立てたまま、立ち上がって逃げだそうとしていたが、所詮は手負いの小兵。すかさず駆け寄り、後ろから片手で横なぎに薙いでやったら、簡単に首を刈ることができた。ゴブリンの頭が地面にゴロンと転がって、顔を下にして止まった。
ふー。
緊張した。以前のわたしだったら首チョッパなんてしたら吐いていたと思うけど、何ともなかった。
そこで、またナビゲーターの声とは違う機械音のような声が頭の中に響いた。
『経験値が規定値に達しました。レベル2になりました。SSポイントを1獲得しました。力が+1されました。巧みさが+1されました。体力が+1されました』
意外とレベルアップが早い。
取得経験値2倍とレベルアップ必要経験値2分の1で実質4倍の速さでレベルアップできるとしても簡単にレベルアップしてしまった。
『『ステータス』と念じてください。現在のステータスがわかります』
『ステータス』
視界に半透明な板のようなものが浮かんだ。
<ステータス>
レベル2(次のレベルアップまで97EP)
SS=1
力:11
知力:10
精神力:10
スピード:10
巧みさ:11
体力:21
幸運度:60
HP=210
MP=100
スタミナ=210
<パッシブスキル>
ナビゲーター
取得経験値2倍
レベルアップ必要経験値2分の1
マッピング1(12パーセント)
識別1(8パーセント)
言語理解1(1パーセント)
気配察知1(4パーセント)
スニーク1(16パーセント)
弓術1(24パーセント)
剣術1(16パーセント)
<アクティブスキル>
生活魔法1(2パーセント)
『スキルの横に表示されているパーセントは、スキルの成長度です。100パーセントでスキルがレベルアップします。
SSポイントを使用できます』
とりあえず、SSポイントはとっておこう。
手にした剣を点検したところ、血糊も脂もほとんどついてなく、刃こぼれもなかった。これは名剣なのかと思っていると識別が発動した。
『剣術スキル取得時のボーナス剣』。なんとも安直な名前の剣だった。
剣を一振りしたあとベルトに挟んでいた布で軽く拭いたところで、剣を持ってクリンの魔法をかければ剣もきれいになるのではと思い付き、試してみたら剣はピカピカになった。
第1射で倒したゴブリンは、とどめを刺すまでもなく絶命していて、マップ上では灰色の点になっていた。
回収した矢は剣と同じようにクリンの魔法できれいにして矢筒に戻し一息ついた。あとで確認したところ予想通り弓の名前は『弓術スキル取得時のボーナス弓』、矢の名前は『弓術スキル取得時のボーナス矢』だった。革鎧はスターターパックの革鎧だった。名まえを付けるってそれなりに大変だものね。
3匹のゴブリンをいとも簡単にたおしてしまったわたしって、もしかしてすごく強い?
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