第78話 キャンプ1

[まえがき]

2023年8月4日21時30分

74話で追い剥ぎの乗っていた3頭の馬を売却した価格を金貨250枚としていましたが、金貨300枚に変更しました。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 ターナー伯爵の王都邸で昼食後一休みしてからわたしは中庭に出て自主練を始めた。中庭のガーゴイル像の残骸は跡形もなく片付けられていた。石の台座のあった場所が四角く地面がへこんでいた。


 そろそろ剣術も弓術のレベルアップしそうなので、レベルアップするまで先に『胡蝶の舞』を舞うことにした。


 ムラサメ丸を構えてひらりひらりと舞っていたら、意外と早くシステム音が鳴った。


『剣術7の熟練度が規定値に達し、剣術7は剣術8にレベルアップしました』


 よーし。


 次は弓術だ。


 射の不射で烏殺をビヨンビヨンしていたら、こちらも早い段階でシステム音が鳴った。


『弓術7の熟練度が規定値に達し、弓術7は弓術8にレベルアップしました』


 よーし。今日はこれくらいで勘弁してやろう。




 夕食時、ゲランさんがわたしに、明日以降のことを話してくれた。


「明朝シズカさんを近衛兵団の訓練場に送ったら、わたしはその足でブレスカに戻ります。

 調査隊の調査が終わったあと調査隊が解散するのか、引き続き活動するのか分かりませんので、わたしは3カ月後にこの王都邸に戻っています。それより先に調査隊が解散しシズカさんが自由になった場合は、ここの者に申し付けておきますのでこの王都邸で待っていてください」


「了解しました」



 アイテムボックスについてはハーネス隊長に教えるつもりなので、訓練キャンプに行く前に何も準備することなくわたしは眠りについた。



 

 翌朝。


 王都邸からゲランさんと馬車に乗って訓練場に向かった。


 訓練場前に停まった馬車の中でゲランさんに、最後のあいさつをした。


「行ってきます」


「ご無事を祈っています」


 わたしを降ろした馬車はゲランさんを乗せて帰っていった。


 わたしは革鎧姿だけど手袋もヘルメットも被ってはいない。武器もアイテムボックスの中だ。


 門前には1台の幌馬車が停まり、ハーネス隊長が革鎧を着て立っていた。大きなハンマーを手にしていた。


「おはようございます」


「おはよう。馬車に乗ってくれ。

 うん? 荷物が見えないようだが?」


「馬車の中でお話しします」


 幌馬車に乗り込み、ハーネス隊長と向かい合って座った。すぐに幌馬車は動き出した。前回同様一番奥に木箱が何個か積んである。


「荷物なんですが、わたしはアイテムボックススキルを持っているのでその中に入れています」


「珍しいスキルを持っているんだな。

 商家などでは喉から手の出るようようなスキル。容量にもよると聞くが、羨ましい限りだ。

 しかし、よく教えてくれたな? そういったスキルがあると荷物持ちにさせられるとは思わなかったのか?」


「その可能性も考えましたが、余裕分くらいは協力してもいいかなって思ったもので」


「すまんな。シズカを荷物持ちにするようなことはしないから安心してくれ」


「そうですか」


「そういったスキルを当てにして調査隊を編制しているわけではないのでな」


「ありがとうございます。何かあったら言ってください」


「覚えておく。

 それじゃあ、今回の調査のスケジュールを教えておこう。

 ここから調査団が訓練しているフォルジの森のキャンプまで2時間かかる。

 キャンプに到着したら今日を含めてあと5日間訓練をする。

 訓練が終わった翌日、馬車でディナス港まで移動し、港から海軍のフリゲートに乗船する。向かう先はウニス・ウニグ島だ。大戦時魔族の一大拠点があった島だ」


 一度聞いたことのある話だし文字通り骨身にしみた島だ。


「ウニス・ウニグ島へはこの季節だとだいたい10日で到着する。フリゲートのボートで島の西海岸に上陸後、島の中央にある魔族の城跡を目指す。そこまで徒歩で10日を予定している。城跡の状況を確かめたらそこで引き返す。

 島内での移動中モンスターは当然だが、魔族と遭遇する可能性がある。可能なら生かしたまま魔族を捕獲したいが、まず無理だろうし無理をするつもりはない。

 海軍のフリゲートはわれわれが島に上陸して最長で30日間島の沖合に停泊してわれわれの帰還を待ってくれることになっている。島からディナス港までの帰りの船旅は20日と思ってくれ」


「はい」


「何か質問があるか?」


「ありません」



 2時間後、馬車はキャンプに到着した。


「ここがキャンプだ」


 もちろん前回と変わらず林の中に開かれた空き地の真ん中に天幕が一つ張られており、馬車はその前に止まった。空き地では兵士が2名ほどゆっくり歩いて警戒していた。簡易かまどもちゃんと何個かあった。


「荷物を降ろすのを手伝ってくれ」


 ハーネス隊長が一番大きな木箱の上にハンマーを置いてそのまま木箱を抱えて馬車を降り、わたしは残った木箱の内大きな方を持ち上げて馬車を降りた。最後の木箱は御者のおじさんが降ろした。


 ハーネス隊長が天幕の前に木箱を置き、わたしはその上に木箱を置いた。


「すまんな」


「いえ」


「この木箱の中身がシズカ用の装備になる。開けてみてくれ」


 ハーネス隊長が指さした御者のおじさんが運んだ一番小さな木箱の蓋を開けたら、前回と同じ野営道具が入っていた。箱の底には懐かしのリュックが入っていた。


「野営なのでその鍋とナイフで自炊だ。食料はパンだけだが天幕の中にある。

 リュックの中に箱の中身全部とシズカが持参した衣類を入れてそれを背負って森の中をめぐって食材などを集めることが訓練内容だが、アイテムボックスがあり容量に余裕があるなら敢えてリュックにこだわる必要はないからな」


「はい」


「シズカは野営とかこれまでしたことはあるのか?」


「はい。何度か」


「ほう。そうなるとこの訓練では物足りないかもしれないな。物足りなくとも5日間我慢してくれ。さっそくだが訓練開始してくれ。朝方点呼するのでその時だけはこの野営地にいてくれ。

 パンは朝方の点呼が終わったらテントの中の箱からその日用に3つ堅パンを持っていってくれ。

 今日はこの箱の中から2つ持っていってくれ」


 一番大きな箱の蓋をハーネス隊長が明けてくれたのでそこから堅パンを2つ取った。


 そのあとパンと一緒に荷物をリュックに詰めたわたしは、リュックごとアイテムボックスにしまった。


 それでは野営に行ってきますか。ヘルメットをかぶり手袋をはめたわたしは見た目手ぶらで林の中に向かって歩き出した。



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