第21話 南門防衛戦


 南門に向かって駆けていくこと30分。ほとんど息も切れず南門の手前の広場に到着した。さすが体力20越えだ。



 南門の2枚の扉は内側に向かって外れていた。貫抜かんぬきらしい横木が真っ二つに折れて、外れた扉にくっ付いたままになっていた。あのオーガが外壁を越えて侵入したとき内側から壊したって伯爵が言っていたけど、腕力だけで貫抜を引きちぎったと思うととんでもないバケモノだったんだ。


 手前の広場ではそろいの鎧を着た警備隊の兵士たちとまちまちの防具を着けた冒険者たちがゴブリンと戦っていた。ゴブリンたちの持つ武器はほとんどが身の丈に不釣り合いな棍棒だが、槍や剣を持つゴブリンも何匹か混じっていた。さらに人よりも体格のいいゴブリンも何匹か混じっていた。


『体格のいいゴブリンは、ゴブリンの進化種であるホブゴブリンです』と、ナビちゃん。


 さっきのオーガに比べれば、全然迫力ないけれど、ただのゴブリンよりも攻守ともにハイスペックなのだろう。



 肌の色が他のゴブリンとは少し違うゴブリンが魔法らしき火の玉を放った。


『ゴブリンメイジです』


 ゴブリンメイジの放った火の玉は何かに当たると小爆発を起こす。ファイヤーボールとかいう魔法だろう。威力は盾や鎧に当たれば数人を巻き込んで後ろに吹き飛ばすくらいで吹き飛んだ者はすぐに起き上がることができる。もちろん数人でも吹き飛ばされればそこに空白ができるので、その空白に向かってゴブリンが群がって街の中に侵入しようとする。


 わたしの位置からでは全体の数を把握するのは難しいけど、ゴブリンの総数は4、50匹はいる。


 対する防衛側は盾と剣を持った兵士が30名ほど、まちまちの武器を持った冒険者が10名ほどで最前列で戦っており、その後ろに兵士10名ほどと冒険者が20名ほど控えている。うしろの控えは最前列で負傷した味方を後ろに下げたり、その穴埋めをしたり、突破しようとするゴブリンに対応していた。


 ゴブリンは徐々にたおされるのだが、数が減っているようには見えない。門の外から補充されている?


 ここらで大魔法を撃ってゴブリンを一網打尽にしたいところだけどそんなに都合よく魔法が撃てるわけでもない。わたしがSSポイントを使って魔法スキルを得たとしても、いきなり本番というわけにもいかないだろう。


 門の外に出ることができれば、門に入ってこようとするゴブリンを一匹ずつ仕留めることができるはずだけど。


 そう思って外壁を見ると、外壁に沿うような形で階段があった。外壁の上に上がればそこから矢を撃ち放題だ。でも矢の数は20本しかない。それにせこいけど大事なボーナス矢を失いたくはない。外壁の上に上って、向う側に跳び降りてそこで剣で戦おう。4メートルくらいの高さから跳び下りたことなんて一度もないけど今のわたしなら簡単にできるはず。できるよね?



 わたしは階段に駆け上って、城壁の上に立ち戦いの真っ最中の広場を眺めた。


 街側の防衛線も少しずつゴブリンに押されて後ろに移動している。応援がやってこないとマズそうだ。


 それから街の外に目をやった。ゴブリンがパラパラと門に向かって走ってきている。いずれも群れではなく一匹ずつだ。これなら簡単に剣でたおせる。


 4メートルと言えば2階の高さだ。そこまで高いわけではないけれど跳び下りるとなると躊躇する高さだ。それでもわたしは意を決して跳び下りた。


 エイッ!


 着地と同時に腰を落としたら、ほとんど衝撃を感じることもなく着地できた。わたしって体操の素質があったのかも。などと一瞬思ってしまった。


 自己満足はそれくらいにして、すぐに立ち上がったわたしは腰に下げた鞘から剣を引き抜いた。外壁から跳び下りたわたしに気づいた一匹のゴブリンが棍棒を振り上げてこっちに向かってきた。


 わたしはそのゴブリンに駆け寄って剣の一振りで首を切り飛ばしてやった。わたしの剣術レベルが2になったことが影響しているのかもしれないけれど、ゴブリンの振り上げた棍棒を脅威と感じさえしなかった。


 そこからのわたしは桃太〇侍になったつもりで目に付いたゴブリンをなで斬りにしていった。


 もう、バッタバッタだ。


 気が付けば、わたしはニヤニヤ笑ってた。トリガーハッピーって言葉を聞いたことがあるけど、剣で首チョッパして多幸感を味わうってトリガーハッピーどころか完全にサイコパスじゃん。


 でも何だか爽快なんだよね。


 一度だけ明日香とバッティングセンターに行ってバットを振ったことがあるんだけど、ジャストミートっていうの? バットの芯にボールが当たると反動もあまりないくせに面白いようにボールが飛ぶのよね。あんな感じ。



 数は数えていなかったから正確には分からないけれど50匹くらいゴブリンを叩き切ったら、街に近づいていたゴブリンたちが回れ右して逃げ始めた。門の方を振り返ると補充のなくなったゴブリンもあらかた片付いているようだ。防衛戦はわれわれの勝利で終わったようだ。


 わたしは愛剣ムラサメ丸を血振りして鞘に納め、ゆっくりと門のほうに歩いていった。首チョッパしてる時急に剣の名まえを思いついたんだよね。それと、弓術スキル取得時のボーナス弓は烏殺うさつにきめた。烏殺うさつ(注1)はどこかで読んだweb小説に出てきた弓の名まえをたまたま思い出したんだ。ここは日本じゃないから著作権なんてないもんねー。


 わたしが門をくぐって街の中に入っていくと、喚声が起こった。あらら。ちょっと派手に頑張り過ぎちゃったみたい。





 それから後のことはよく覚えていないけれど、お酒をたくさん飲んだ記憶だけ残っている。今までのわたしだったら完全に急性アルコール中毒でぶっ倒れてたと思うけど、そういう意味では何ともなかった。



 翌日小鹿亭の部屋で寝ていたら、ノックで目が覚めた。


『シズカさん、市庁舎から迎えの人が来てます』


 ニーナの声だ。


「はい。着替えてすぐに下りてく」


 市庁舎って? 考えるのはあと。


 鎧は脱いでいたけど、鎧下のままベッドに寝ていたわたしは慌てて鎧下を脱いで一つしかない普段着に着替え一階に下りていった。



注1:烏殺うさつ

『闇の眷属、俺。~』https://kakuyomu.jp/works/1177354054896322020 で主人公の眷属トルシェが持っていた短弓の名まえ。

名称:烏殺うさつ

種別:短弓

特性:命中率大幅アップ、装備者の巧みさアップ、クリティカル率アップ、特に頭を狙った場合のクリティカル率は大幅アップする。命を奪うことにより強化される。自己修復。

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