第161話 プリフディナス3、1カ月、2カ月


 わたしがこの世界にやってきて1カ月が経った。わが国の人口は約5000人。1日あたりのSPポイントは1050ポイント。逆に言えばSPポイントが1050なので人口を5000人と思っている。リリームに聞いたんだけど、わたしたちのいる島の名まえは魔族の間では単に島と呼ばれているけれど、人族からはウニス・ウニグ島と呼ばれているそうだ。


 西の方向に船で進めばそのうち人族の住む大きな島にたどり着くという話だった。いずれジゼロンをやって情報を集めなくちゃいけないけど、国がしっかりしてからだから随分先のことになると思う。




 都市計画なるものをジゼロンが建設技術者たちと作り上げてわたしに説明してくれた。


 まず。召喚魔法陣を囲むように宮殿を作り、宮殿の周囲、昔の城の外壁までを王宮庭園とする。


 都市自身は宮殿を中心とした半径1里の円形都市として周囲を外壁で囲む。


「陛下、この都市はこの国の都、王都になるわけですが、名はいかがします?」


「国の名まえ、プリフディナスでいいんじゃない」


「かしこまりました」




 王都プリフディナスからは東西南北に幹線道路をまっすぐに伸ばし幹線道路から直角に副幹線道路を伸ばすというものだった。


 道路間は農業用地とする予定で、要所にため池や運河を設けるそうだ。都市の建設は1期、2期それぞれ3年を見込んでいる。1期では、都市の上物うわものは最小限で済ませインフラを中心とした建設をすすめ、2期で都市の上物を本格的に作っていくという。


 そういった建設工事の前に必要となるのは正確な測量図面ということで、盆地内の測量を進めつつ工事が進められて行った。それで必要となったのが三角関数表。この世界にもあるのだろうが試しに関数電卓が召喚出来ないか試してみたらソーラー関数電卓が召喚出来た。召喚の仕様はいまだによく分からないんだけど、ありがたいことではある。ちなみに調子に乗ってノートパソコンを試したけどそれは召喚出来なかった。


 関数電卓の表示はもちろんアラビア数字とアルファベットなんだけど、研究所の研究者たちも技術者たちも、ジゼロン同様わたし由来の知識をある程度持っているようですぐに使いこなせるようになった。



 もう一つのトピックスとして、リリーム・ガイウスにアイテムボックスのスキルがあることが本人の申告で分かった。ジゼロンだけで必要資材を召喚するのは大変なので、試しにリリームにSPポイントを分けようとしたら、ちゃんとリリームが受け取ることができた。それで魔族こくみん関連の消費物資はリリームが召喚し、それ以外の建築資材や特殊な資材はジゼロンが召喚することになった。



 召喚魔法陣を囲む壁もでき上がり、その天井の上にわたしとリリームと侍女たちの居室として20メートル四方の平屋が建てられた。広さは400平米になる。いわば宮殿だね。召喚魔法陣の上の天井は直径50メートルほどの円形なので、平屋きゅうでんはかなり広いバルコニーに囲まれていることになる。もちろんバルコニーの周りは柵が巡らされている。バルコニーには花のプランターや鉢を置いて、侍女たちが世話をしている。


 平屋きゅうでんの位置は地上10メートルちょっとなんだけど、その高さからでも邪魔なものが何もない関係でかなり遠くまで見通せる。


 平屋きゅうでんの窓は強化ガラス製の2重サッシ窓。割る気になれば割れると思うけど、宮殿の周囲は兵士たちによって見回りされているから、賊が忍び込むことはないだろうし、そもそも賊なんてどこにもいない。外壁はレンガ調のタイルで屋根はスレート風のタイルき。ということだった。


 間取りは、わたしの執務室と寝室と居間と浴室、ジゼロンの部屋、リリームの執務室、リリームと侍女たちの居室、会議室、食堂(大)、食堂(小)、厨房、居間(休憩室)、転移室、浴室など。


 転移室というのは転移魔法陣というものをジゼロンが床にセットしていて、そこから別途設置した転移魔法陣に転移できるという非常に便利な装置。転移する前後、魔法陣内に星形の赤いマークが現れるのでちょっとカッコいい。


 残念なのは、魔法が全く使えないわたしでは操作できなくて侍女か誰かに行き先の転移魔法陣まで連れていってもらう必要があるってこと。でも侍女はいつもわたしの近くにいるので不便というほどではない。


 それまで使っていた地下の部屋は文字通り倉庫になったんだけど、今のところ空なのだそうだ。




 わたしがこの世界にやってきて2カ月が経った。現在の召喚ポイントは1060。わが国の人口は約6000人ということになる。


 王都プリフディナスの外壁工事と道路工事が始まった。最初に工事用道路を1本外周山脈のふもとまで伸ばしそこで石切り場を作っている。もちろん石材も召喚魔法陣で召喚できるけど自前で賄えるならそれに越したことはないという判断だ。


 力仕事はジゼロンが召喚したゴーレムが担っている。ゴーレムは大中小の3種あり、汎用土木機械として非常に優秀だ。1カ月で人口は千人しか増えなかったのは大量のゴーレムを召喚したためらしい。


 人口が6000というと日本でいれば町とか村に相当する。ということなので、そろそろ行政のため専門の組織を作ることにした。プリフディナス政府だ。


 ジゼロンはわたしの代理のようなものなので、政府から一歩外すことにして政府の最高者をリリーム・ガイウスとして宰相を名乗らせることにした。リリームの下には軍務大臣、建設大臣、産業大臣の3名をアサインした。軍務大臣は兵士の中から、建設大臣、産業大臣は技術者の中から選んでいる。外壁で囲んだ旧城跡部分を王宮と称し、宮殿を含め王宮全般についてはジゼロンの担当としている。


 予算は当然SPポイントなので、わたしとジゼロンとリリーム以下の大臣が出席して会議で決めていくことにした。


 まず軍務大臣が発言した。


「外周山脈部にモンスターが出没しているとの情報がはいっています。陸軍の兵員は現在200名。王宮を中心とした警備に二交代制で40名、計80名が張り付き、残りの者は日中王都内の警備をしています。

 モンスターを討伐するため100名の人員増をお願いします」


「いいんじゃないの」と、わたし。


「では100名の兵士を召喚します」と、ジゼロン。


「ありがとうございます」


 その後産業大臣。


「昨日陛下からお話のあった研究所について、どういった分野について研究を進めていくべきか大まかにまとめてみました」


 そう言って産業大臣がみんなの前に紙を配った。


「その紙に書いてあるように、国の基幹となる農業技術、鉱山技術、冶金技術、化学技術についての研究。やや優先度は下がりますが基礎研究として数学、物理学、天文学、化学、生物学の研究などです」


「ジゼロンと相談してどんどん進めてくれるかな。

 ジゼロンそういうことだから」


「「了解しました」」


 そして建設大臣。


「先ほどの産業大臣の話と関連して研究所の建物について詰めていきます」


「頼んだわよ」


「お任せください。

 王都外周の外壁工事、道路工事いずれも順調です。資材の集積も順調です」


 目に見えるのは建設、建築工事だものね。


「農地の方はどうなってる?」


「実験用の農地については整備を終え、ジゼロンさまに野菜の種を召喚魔法陣で仕入れていただきました。

 栽培を予定している野菜は、トマト、ミニトマト、カボチャ、サツマイモ、インゲン、オクラ、セロリ、キュウリ、ゴーヤ、トウガラシ、ゴボウ、大豆、トウモロコシ、サツマイモ、里イモ、ナス等々です。

 研究所所属の作業員を召喚していただき栽培に当たらせます」


「栽培方法はだいじょうぶなの?」


「この世界にない野菜も多く含まれているため、失敗もあるかもしれません」


 実験農場だもの仕方ないか。


「実験だから、気にする必要はないから」


「はい。ありがとうございます」


「本物の農地の方はどうなってる?」


「王都周辺について予定通り合算1里四方の田畑用地盤改良工事と用水路工事、ため池建設を進めています。用水路とため池は間もなく完成します。田畑用地については地盤が落ち着くまでもう少々時間がかかりますが順調です」


 1里は6キロだから1里四方は36平方キロ。3600ヘクタール。野菜と穀物を1対2くらいでちょうどいいかしら。今は不足があれば召喚魔法陣で何とでもなるから実験的な農業でもいいでしょう。科学技術が発展すれば肥料や農薬も召喚魔法陣を頼らず作れるようになるはずだしね。



 最後は宰相のリリーム。


「国民への物品の配給はこれまで通りで問題はありません。

 陛下、嗜好品として酒類の召還を考えていますがいかがでしょうか?」


「楽しみがあってもいいんじゃないかな。あなたのお爺さんのところにもちゃんと配ってあげてよ」


「ご配慮ありがとうございます。みんな喜ぶと思います」


「それと、まだ無理だけど、そのうち農業が軌道に乗ったら醸造所もあった方がいいわよね」


「はい。覚えておきます」


「お酒に限らず、嗜好品も少しずつ増やしていきましょう」


「了解しました」


 これでこの日の会議は終わった。このあと、宰相以下4人が残って細部を詰めるんだけど、わたしとジゼロンは退席することにしている。



 会議室を出たところでジゼロンに思いついたことを話しておいた。


「ジゼロン、農業用の手引き書みたいな農業書を召喚出来ないかな?」


「この世界で一般的な農法についての農業書なら手に入ると思いますが、陛下の世界の手引書は無理と思います」


「この世界の手引書でいいから手に入れた方が農業の研究にも役立つんじゃない?」


「そうですね。あとで試してみてうまく召喚されたら研究所が完成したらおいておきます」


「農業に限らずこの世界の技術の本はあった方がいいだろうから、研究所に揃えておいてよ」


「了解しました」

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