第162話 プリフディナス4、半年
わたしがこの世界に来て半年が過ぎていた。プリフディナスの人口はすでに1万人を超えている。当初ほとんどの国民は簡素なバラックでの集団生活だったけど、今は半恒久的な建物の中で各人が個室を持った寮生活を送っている。
王都から東西南北に走る幹線道路は4本とも外周山脈のふもとまで完成しており、現在は副幹線道路を建設している。動力がどうなっているのか知らないけれどゴーレムは燃料補給することなく24時間働けるので重宝している。
実験農場での野菜類の栽培は思った以上に順調で収穫したものもかなりある。熱々の白いご飯にキュウリとナスの浅漬けの朝食がマイブーム。お米はまだ召喚ものなんだけどね。先日大根の種を撒いたそうだから楽しみだ。
プリフディナス政府の陣容はこれまでの宰相以下4名の大臣に科学技術大臣が加わって宰相以下5名となった。研究所の建屋は2カ月前にでき上がっていて、研究員の数も少しずつ増えている。
王都内の各所では、計画に沿って道路を建設し、合わせて下水道、上水道の整備を進めている。
今の季節は秋なので、秋撒きの小麦を本格的に栽培することにした。
招待したリリームの祖父と彼の引き連れてきた魔族数十人が見守る中、小型ゴーレムを使って小麦の種を1ヘクタールほどの農地に撒いた。農地は一週間前に肥料を混ぜ込んでいる。農業のデモは彼らにはほとんど参考にはならなかったようだけど、その後露天での野外パーティーで盛り上がったようだ。わたしはリリームの祖父たちからあいさつを受けただけで、良きにはからえ、ということでジゼロンとリリームに後を任せて退散している。
400平方メートルの宮殿では手狭になってきたため、将来プリフディナスのランドマークとなる予定の宮殿の第一期工事を始めることにした。
バベルの塔ってわけじゃないけど召喚魔法陣を中心にしてその上にスカイツリー並の塔を建てるよう設計を進めてもらった。具体的には召喚魔法陣のある基部は直径150歩、90メートルの円形で上に向かって緩やかに狭まっていく。宮殿塔の高さは地表から1050歩、630メートル。地上550メートルあたりから直径が急速に狭まり展望台とする地上600メートルで塔の直径は10メートルになる。工期は4年だそうだ。
新宮殿でのわたしの執務室と居室は地上550メートルあたりのワンフロアになる予定だ。550メートルでの塔の直径は60メートルあるので、相当広い。ジゼロンが、わたしの階層にプールを作りませんかと勧めてくれたんだけど、広めのお風呂があれば十分なので断った。
その下の階がリリームや侍女たちの居室が並ぶ階になる。
もちろん各階は階段で結ばれるわけだけど、各階に転移魔法陣を設置することにしている。何百メートルも階段で上り下りなんかとてもじゃないけどできないもんね。エレベーターは場所も取るしコントロールが大変なので最初から考慮していない。
第一期は基部部分で、地上50メートルまで作ってしまおうということになっていて、その中にプリフディナスの行政関係の組織は全て収容する予定だ。この部分の工期は半年。わたしがこの世界にやってきて丸一年で完成することになる。ある意味驚異的なスピードだ。
政府関係の施設を収容する宮殿の高さは630メートルだけど、それ以外の用途として300メートル級の塔を王都内に建てていくことにしている。摩天楼都市だ。プリフディナスは半径1里(6キロ)、約110平方キロの円形都市内に最終的には3000万人収容できるということだった。
建設大臣が中心になって宮殿の建設を進めるんだけど、少し気になったことがあったのでジゼロンに聞いてみた。
「ジゼロン。今度作る宮殿は鉄筋?鉄骨?コンクリート製じゃないんでしょ?」
「はい。構造部分はすべて石組で作り上げます」
「地震がきたりすれば危なそうだけど、そもそもそんなので600メートルを超える建物が建つの? 自分の重さで下の方が潰れるんじゃないの?」
「はい。ただの石を使えばそのようなことが起こるのでしょうが、超高層建造物を作るための特別な石材を使うのでそういった心配はありません」
「そんなにすごい石材なんだ」
「いろいろな強度がありますが簡単に強度というものがあるとして、この石材は鋼鉄を越える強度を持ちながら重さが水の2倍しかありません」
「フーン」
なんだかすごそうって事しか分からなかった。
「石材同士の接合面はお互いが組みあうようにデコボコが刻まれているので一度組んでしまえば緩むことはありません」
それってレ〇ブロックと同じ? なんとなーく安っぽいイメージがする。レ〇ブロックだと基本上下しかくっつかないけど、接合面と言えば左右もあるからレ〇ブロックよりすごいってことか。
「じょうぶな石どうしがそこまでしっかりくっついてしまうと、取り壊すとき逆に大変なんだよね」
「はい。ですが宮殿を取り壊すことは千年はないと思います」
確かに。少なくともわたしが生きているあいだに取り壊すことはなさそうだ。
「もし本当に壊す必要が生れたら、わたしがドラゴンの姿に戻って壊してもいいですけどね」
「それじゃあ周りまで壊れちゃうじゃない」
「そこはうまくやりますから安心してください」
「とにかく素人のわたしが思いつくような問題はないみたいね。
他に何かある?」
「建築ではなく産業についてですが、
春になったら、穀物や野菜、果樹は当然ですが、他に綿花と蚕用の桑を栽培しませんか?」
「それはいいわね。でも綿花や繭から繊維を取り出して糸をつむぐ機械とか機織り機が必要なんじゃない?」
「はい。研究所の方で試作しているそうです。今のところまだまだのようですが、来年、綿花が手に入るころには改良を進めモノにすると意気込んでるようです」
今はジゼロンが召喚した綿花とか繭で試行錯誤したり試験してるのか。研究に意気込みを感じながら取り組んでくれてると聞くと不思議と嬉しくなる。
自動機織り機は近代化の象徴だものちゃんとしたものができれば機械製作に弾みがつきそうよね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます