第96話 初日から2日目


 わたしたちに向かってきたオーガ3匹を不射の射で簡単に討ち取った。


 ハーネス隊長に言って少し待ってもらいオーガの魔石を全部回収した。


 これで魔石は飛竜の魔石が2つとオーガの魔石が17個。オーガの魔石17個のうち5個はみんなで見つけたものなので、わたし個人のものではない。お金についてはナキアちゃんのあの商会を商業ギルドに売却したおかげで、いつ夢のアーリーリタイアメントをしてもいい。などとその時のわたしはルンルン気分で魔石を回収していた。なんちゃって。


「お待たせしました」


「それでは、行こうか」



 わたしたちは、東に向かってモクモクと進んでいった。わたしだけはちょろちょろと最後尾で採集などをしていた。



 初日の今日は合計で5時間ほど歩き、野営地として良さそうな場所をみつけたところで移動を終えて野営となった。


 まずわたしは野営地に生えている草を刈るためムラサメ丸をアイテムボックスから取り出した。


「真空切りでそこら一体の草を薙ぎ払います」


 一言断ってから水平真空切りを放った。3回ほど真空切りを放ったら、良い具合に空き地がすっきりした。


 残りの4人がわたしの方を見てる。あっ、すっかり忘れてた。


 今回初めてみんなの前で真空切りを披露したんだ。


 そこで真空切りのことを簡単に説明しておいた。


「シズカはそんなこともできたのか。不射の射といい、シズカのことが王都に聞こえていなかったのは不思議だ」


「サイタマという国から一月半ぐらい前にこの国に流れてきたものですから」


「サイタマという国のことも初めて聞いた。世界は広いということだな」


 わたしたちは野営の準備としてかまどづくりと薪集めが必要だ。わたしはナキアちゃんとキアリーちゃんと3人で一緒に野営する約束を船の中でしていて、かまどの準備は二人がしてわたしは狩に行く役割分担していた。


「ハーネス隊長、暗くなるまでこの近くで狩をしていいですか?」


「当てはあるのか?」


「はい」


 現に今レーダーマップ上に黄色い点が何個か映っている。動いているものもあればじっとしているものもある。視認出来て射線が通るようなら烏殺で簡単に狩れると思う。


「シズカちゃん大物を頼むのじゃ」


「頼んだよ」


「任せて」


 ホントは全員で一緒に食事する方がいいと思うけれど、今日はこれでいいだろう。明日の夕食はみんなで一緒に食べようと提案しよう。


「うん。じゃあ行ってくる」



 最初の獲物はニワトリのようなそうでないような鳥だった。キジなのかな?


 見た目はそんな感じだけどキジの実物なんて子どものころ動物園で見たかもしれない程度の記憶しかないので何とも言えない。最近出番の少ないナビちゃんに聞いてみた。


『ナビちゃん、あの鳥なんていう鳥?』


『厳密には違うのでしょうが、ホロホロ鳥です。毒などの心配はありません』


 小さい上に動きが早い頭部を狙うのは無理そうだったので、烏殺を構えて市販矢をつがえたわたしはホロホロ鳥の胴体を狙った。


 そっと矢と放つと、市販矢はほぼ直進してホロホロチョウの胴体を射貫いた。


 ホロホロチョウはそれだけでは死ななかったけれど逃げることもできずその場でじたばたしていた。


 頭をナイフで切り落とし、2本の足に紐を括り付けて近くの枝に吊るして血抜きしながら羽をむしっていった。頭を落とした後の重さは2キロもなかったので内臓を捨ててしまえばあまり食べではなさそうだ。矢は引っこ抜けたのでクリンをかけて回収した。


 羽をむしり終えた後、ナビちゃんの指示通り解体していき、クリンを使いながら最終的にはレバーとハツと2枚の半身にしてアイテムボックスにしまっておいた。骨の部分はだし用にアイテムボックスに取っておいた。残ったいらない部位は穴を掘って埋めた。


 5人なのでもう2、3羽欲しいところだ。


 次の獲物は大物のイノシシだ。


 ちょうどこちら側を向いて地面を掘り返していたので、市販矢を眉間に命中させ即死させた。


 矢は抜けなかったので矢の付いたまま首を切り落として、後ろ足をロープで括って木の枝にぶら下げ血抜きしながら解体していった。


 40分ほどかけて解体を終え、イノシシもいらない部位は穴を掘って埋め野営地に引き返した。モンスターの死骸はいままで放っているのに解体した動物の不要部位は埋める必要があるのか少し疑問だったけど、これまでそうしていたからそうしてるとしか言えなかった。


「イノシシ1匹と鳥を1羽仕留めました」と、ハーネス隊長に報告した。


「1時間ちょっとでその成果か。シズカはハンターだな」


 前回同様ハーネス隊長とカルヒは二人でかまどを作っていたので、鳥の半身とイノシシの前足を渡しておいた。



 ナキアちゃんとキアリーちゃんもかまどを完成させて薪もかまどの中に組まれて準備万端だった。かまどの前には玉ねぎと里イモも何個か置かれていた。


「鳥肉はそんなに量がないから、そっちは鍋にして、イノシシ肉を焼こうか」


「楽しみなのじゃ」


 まな板を取り出して玉ねぎと里イモをざっくり切っていったん深皿に移し、その後ホロホロ鳥の半身から肉を削ぎ落としていき適当な大きさにして鍋に入れ、金網を渡したかまどの上に置き、薪に火を点けた。


 ファイヤーも強力ファイヤーなのですぐに薪に火が回った。


 鍋の方はナキアちゃんとキアリーちゃんに任せて、わたしはイノシシの腿からもも肉を削ぎ落してスライスしていった。どうせ明日も焼肉のつもりなのでかなり多めだ。


 金網の空いたところに塩コショウしたイノシシ肉のスライスを乗せていき焼いていった。


 鍋の方は肉に火が通ったところで水を入れて煮立ってきたらアクを取らないといけないので、わたしが今度は鍋の係りとなってナキアちゃんとキアリーちゃんには焼き肉係になってもらった。そっちの方が安心だし。



 鍋ができ上がるより肉の方が断然早く焼けるので、焼き上がったイノシシ肉をナキアちゃんが小皿に取り分けて配ってくれた。パンも出してナキアちゃんに柔らかくしてもらいったので、わたしは肉とパンを交互に食べながら鍋の様子を見ていた。


 煮立って20分ほどでイモにも火が通ったようなので、深皿にとって配った。


「隊長たち肉はまだ焼けてないみたいだしで水を飲んでるだけだから、スープを配ってあげない?」


「良いのではないか?

 食べるものを食べずに肝心な時に力がでないでは足手まといになるだけじゃし」


 深皿にスープをよそって、スプーンと一緒にハーネス隊長とカルヒに渡した。アイテムボックス経由なのでこぼれたりはしない。


「シズカ、すまんな」


「ありがと」


 カルヒもちゃんと礼が言えた。



 わたしたちが食べ終わって片付けが終わった辺りでハーネス隊長たちの肉が焼けたようだ。スープはもう飲み終わったようだ。パンもなくなっているのでおなかが相当空いてたのかも?




 翌日。なにごともないまま夜明け前に目が覚めた。起き上がって周りを見たところちゃんとハーネス隊長は毛布の上で寝息を立ててぐっすり眠っていた。


 わたしが起き上がったせいか、ナキアちゃんとキアリーちゃんも目を覚まし、ハーネス隊長たちも目を覚ましたようだ。さすがは精鋭と言ったところか。



「あと2時間ほどで出発するからそれまでに支度して腹ごしらえしてくれ」



 かまどに薪を入れて火を点け、昨日の鍋を上に置き、水と塩を加えて増量してやった。ナキアちゃんがパクチーもどきの束を差し出したので、まな板を取り出してナイフでざっくり切っておいた。ナイフの切れ味が良かったせいか妙な臭いはしなかった。人は進化するのである。


「シズカちゃん、わらわがスープを温めたほうが速いのではなかったか?」


 人はそれほど進化しなかったようだ。


 ナキアちゃんにスープを温めてもらい、パクチーもどきを鍋の中に投入した。蓋をしてしばらく待ったから深皿によそって朝食を始めた。パンは当然柔らかパンだ。


 ハーネス隊長たちは昨日の肉の残りと堅パンを水と一緒に食べていた。



 朝食を食べ終わり後片付けも終え、リュックの中に各自の荷物をしまい終えたわたしたち3人は、ヘルメットと手袋を着けて出発準備を済ませた。


 ハーネス隊長たちも準備が終わったようだ。


 ハーネス隊長がベルトの物入れからコンパスを取り出して方向を確かめ出発を告げた。


「みんな準備ができたようだからそろそろ出発しよう」


 今日もハーネス隊長を先頭に昨日と同じ隊列でわたしたちは東進を再開した。



 その日の移動ではモンスターの襲撃はなかった。キアリーちゃんは偶然赤いキノコを見つけたらしく、その後ちょろちょろ列から外れて赤いキノコだけを熱心に集めていた。



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