第74話 追い剥ぎイベント2
前方の馬車まで距離は50メートルほど。
追い剥ぎは片手に抜き身の剣を持ちゆっくりと馬を歩かせて壊れた馬車に向かっている。先頭の追い剥ぎまでの距離は60メートル。
わたしは烏殺を取り出して市販矢をつがえ先頭の追い剥ぎの胸に狙いをつけて矢を放った。その矢が空中にある間に二人目に狙いをつけて第2射。一人目が第一射を受けて馬から転げ落ちたところで第3射を放った。
それほど動作が速くなったとは感じなかったけど、あっという間に3人の追い剥ぎを射殺してしまった。
前回も追い剥ぎ退治に苦労したわけでもなく、今回に至っては全くと言っていいほど楽勝だった。
わたしは射殺した追い剥ぎの首を刈るため烏殺をアイテムボックスにしまって鞘に入ったムラサメ丸を取り出し、鞘をベルトのフックに固定して歩いていった。
追い剥ぎの首を刈る前に、剣を抜いて身構えてわたしのことをじっと見ているおじさんに味方アピールするのが先だけどね。
「だいじょうぶでしたか?」
「は、はい。3人とも急に落馬したものでびっくりしていたんですが、あなたが追い剥ぎたちを?」
「はい。弓で」
弓はもうアイテムボックスにしまっているのでトンチンカンな答えだったかも。それでもわたしが追い剥ぎたちを退治したことは認めてくれて奥さんと一緒に感謝してくれた。
「助けていただいてありがとうございます」「ありがとうございます」
「追い剥ぎ退治は国民の義務ですから」
何だかわからないことを口走ってしまった。まあいいや。
「あの連中はおそらく賞金首ですから、これから首を刈ってしまいます。見ていて気持ちのいいものじゃありませんから」
いちおう作業内容を申告しておいた。首チョッパを見て気持ち悪くなられても困るからね。
わたしは地面に転がった追い剥ぎのところまで歩いていき、一人ずつ髪の毛を掴んで頭を持ち上げ無造作に首を刈っていった。ふとおじさんたちの方を見たら、奥さんはわたしの方をじっと見ていた。その代りおじさんは顔を背けていた。
剣術のスキルも前回に比べれば格段に上がっていたし、オーガの魔石を取るためにオーガの肋骨なんかも切り取っていたせいか前回以上に簡単に首を刈ることができた。もうスパスパだよ。
小学生に聞いて将来なりたい職業の500位にも入らないと思うけど鬼包丁ムラサメ丸で首切り役人が務まりそうだ。
刈った首はアイテムボックスに直行させ、だらりと血の流れ出ている追い剥ぎの体は足を持って街道の脇まで引きずっていき最後に放り投げた。死体の懐を探ってもどうせ小銭しか入っていないはずなので放っておいた。次の街に行ったら死体を処分するよう役場の人に言っておくので、わずかだけど死体掃除人夫たちの臨時収入になるだろう。
首狩り作業が終わったところで、おじさんがわたしのところにやってきた。
「馬車が壊れたうえ、御者も逃げ出してしまいました。
図々しいお願いで恐縮ですが、次の宿場まで馬車に同乗させていただけませんか?」
「わたしの一存では決めかねますが、きっとだいじょうぶです。
ちょっと待ってください」
そのころにはわたしたちの馬車は、壊れた馬車の近くまで来て止まっていて、御者のおじさんが御者台から降りて壊れた馬車を見ていた。ゲランさんも馬車から降りていたのでわたしはゲランさんのところまで戻って今のことを話したところ、もちろん了承された。
わたしは、ベネットさんに同乗が許されたと教えたんだけど、車輪の外れた馬車を見ていた御者のおじさんが「この馬車は車輪が外れただけなので、車輪をはめる間馬車を持ち上げられれば簡単に直せます」と言ってくれた。
前回は軸受けが壊れていて本職じゃないと修理できないということだったけれど、微妙にシナリオが変化している。まあ、前回亡くなった人が今回はピンピンしているんだからシナリオは相当変わってると言った方がいいか。
そのころには馬車の中から姉弟が出ていてお母さんと手を繋いでいた。二人は見知らぬわたしたちのことを眺めていた。
普通なら人手がかなりないと傾いた馬車を持ち上げることなんて難しいんだろうけど、おそらくわたし一人で持ち上がると思う。
「おじさん、わたしが持ち上げておくから車輪をはめちゃって」
「一人でだいじょうぶですか?」
「わたしも手伝います」とベネットさん。
隣でおじさんが立っているとかえって持ちづらくなるので「一人でだいじょうぶです」と言って手伝いを断った。
わたしは傾いて下がった馬車の下あたりに手を突っ込んで持ち上げたところ、簡単に持ち上がった。まさに怪力女だ。
「準備しますからいったん下ろしてもらっていいです」
御者のおじさんは外れて転がっていた車輪を転がしてきて、そのあといったん自分の馬車に戻り御者台の下から車輪を留めるピン?と木槌を持ちだしてきた。
「馬車を水平より少し上まで上げてしばらくそのままでいてください」
わたしが馬車を持って上に上げところでおじさんが車輪を車軸にはめた。そのあとすぐにピンを車軸と車輪の間の溝に突っ込んで木槌で叩き込んで車輪を固定した。
「できました。馬車を下ろしてもだいじょうぶです」
ものの2分で車輪の取り付け修理は終わった。
ベネットさんはすごく驚いていた。馬車の修理があっという間だったことを驚いたのかわたしの怪力に驚いたのかは定かではない。
それはそうと、馬車の修理は終わったけれど御者がいない。
「馬車はわたしが扱えますからだいじょうぶです」と、ベネットさん。
あっという間に一件落着してしまった。
「自己紹介が遅れましたが、わたしはブレスカで商会を営むベネットと申します
みなさんはどちらまで行かれるんですか?」
「わたしたちは王都まで」
「お礼をしなくてはならないのですが今手元にはわずかしか持ち合わせがありません」
「それは気にしないで結構です。わたしたちがこの街道をベネットさんたちより先に進んでいたらどうせ追い剥ぎたちを退治していたわけですから」
「わたしたちも王都に向かっていますのでよかったらご一緒させてください。王都にはわたしの母が住んで手広く商会を営んでいます。そこでお礼させていただけないでしょうか?」
そういうことで、わたしたちはベネット家族と王都まで一緒に旅をすることになり、追い剥ぎたちの馬3頭はわたしたちの馬車の後ろに繋いで、2台の馬車は次の駅舎のある宿場町に向かって街道を北上していった。
次の宿場町で追い剥ぎたちの馬を売り払い金貨300枚、役場に行って追い剥ぎの生首を見せて賞金金貨150枚を頂いた。合計金貨450枚はわたしが全部頂いた。オーガの魔石が金貨70枚ほどだったことを考えると3人で金貨150枚の賞金首ということは相当な悪党だったようだ。
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