第94話 飛竜イベント


 朝食では予想通り麦がゆが出てきた。食べないわけにもいかないし、食べたくはない。人目がないわけではないのでアイテムボックスの中にナイナイすることもできない。仕方ないのでのど越しだけで我慢しようと口の中に掻き込んで水で洗い流した。


 船室に戻ったわたしたちは、瓶入りの濃い目の酒をコップに4分の1、オレンジの果汁を4分の1、氷をひとかけらにコップのふちのわずか下まで水を足して軽くかき混ぜたカクテルっぽい何かを3人で飲みながらだべっていた。わたし自身は飛竜を警戒してレーダーマップに注意しながら鍋の氷をカチ割りつつだ。飛竜のことは説明しづらいし、信じてもらえるようなことでもないので防具などの用意は当然していない。


「これはうまい!

 麦がゆのおかげで半分死んでおったわらわの舌と喉がこれを飲んで生き返ったのじゃ。

 こういった飲み方に慣れてしまうと、もうただの果汁は飲めなくなるのじゃ」


「そうだね。ほんとにこれおいしいよねー」


「行きだけでも10日もあると、手持無沙汰でおかしくなるのではと心配しておったのじゃが、シズカちゃんのおかげで、快適な船旅じゃ」


 前回は暇すぎて、船長室に忍び込もうとかナキアちゃんは言ってたけど、酒の力は偉大だ。


「だよねー」


 この系統の酒の肴としては肉系統やチーズはちょっと合わないと思い、クルミとピスタチオをつまみにした。


 次はオレンジの代わりにライムで作ってみた。


「これもおいしいのじゃ!」


 各自2杯ずつほどお代わりして、瓶が半分になったころ、レーダーマップに赤い点が映った。レーダーマップも範囲が広がっている。とは言っても今回に限れば相手は空からなので時間的余裕にそんなに差はない。


「空からモンスターが来る!」


 二人に警告を発してわたしはいち早く部屋から飛び出し、上甲板に躍り出た。ちゃんと飛竜が前回同様船の周りを旋回していた。


 甲板に出て空を見上げているわたしに向かって飛竜が降下しながら突っ込んできた。明らかにわたしを狙っている。わたしは飛竜に向かい不射の射の構えをとり、その大口に狙いをつけて不可視の矢を放った。


 ドン!


 矢は放った瞬間飛竜の顔面に命中し、飛竜の頭はザクロのように割れた。頭を吹き飛ばされた飛竜は赤茶けた体液をまき散らせながらペイルレディのロープや帆布を巻き込んでに甲板の上に突っ込んだ。


 わたしはムラサメ丸をアイテムボックスから抜き出し、飛竜に駆け寄ったけど、飛竜はピクリとも動かず、レーダーマップ上でも灰色の点になっていた。不射の射の一撃で即死したようだ。


 そこで頭の中にシステム音が響いた。


『経験値が規定値に達しました。レベル32になりました。SSポイントを1獲得しました。力が+1されました。スピードが+1されました。巧みさが+1されました』


レベル32

SS=23

力:33

知力:30

精神力:30

スピード:43

巧みさ:39

体力:36


HP=360

MP=600

スタミナ=360


<パッシブスキル>

ナビゲーター

取得経験値2倍

レベルアップ必要経験値2分の1


マッピング2(76パーセント)

識別2(63パーセント)

言語理解2(90パーセント)

気配察知1(88パーセント)

スニーク1(45パーセント)

弓術8(25パーセント)

剣術8(6パーセント)

威風(10パーセント)

即死


<アクティブスキル>

生活魔法1(30パーセント)

剣技『真空切り』

アドレナリン・ラッシュ

威圧

弓技『不射の射』



 前回はナキアちゃんとキアリーちゃんに手伝ってもらったけれど、今回は楽勝だった。甲板上の船員たちもあっけにとられてわたしを見ている。


 ちょうどナキアちゃんと剣と盾を持ったキアリーちゃんが甲板に出てきてわたしのところにやってきた。


「シズカちゃんが、仕留めたのじゃな」


「うん。不射の射で一撃でたおせた」


「不射の射というとオーガのとき見つけた魔法陣の刻まれた石の台を破壊したアレだよね」


「そう。あれ」


「アレをまともに頭で受けたとなれば吹き飛ぶのも納得じゃ」


「これどうする?」


「ハーネス隊長にことわってから、魔石を回収して、飛竜そのものはこの船のみんなに渡せばいいんじゃないかな」


 そうこうしていたら、ハーネス隊長とカルヒが甲板に出てきた。カルヒはいちどわたしたちの方を見てそのまま戻っていった。


 ハーネス隊長がこっちにやってきて、「これはきみたちがたおしたのか?」


「わたしの方に向かってきたので討ち取りました」


「シズカ一人でたおしたのか?」


「オーガの石の台を壊した時使ったスキルでたおしました」


「アレをはなったのか。どおりで」


「ハーネス隊長、飛竜の魔石を採ってもいいですよね?」


「ここは海軍の縄張りだが、多分だいじょうぶだろう。そのかわり、この飛竜の肉は船の連中に譲ってやるんだな」



 船員たちがわたしたちを遠巻きに見守る中、両手に手袋をはめたわたしはムラサメ丸を包丁代わりにして、だいたいの見当をつけて飛竜の背中を切り裂いた。その切り口に右手を腕の付け根近くまで突っ込んでまさぐり20センチほどの飛竜の魔石を取り出した。


 ウォーターで水洗いしつつクリンをかけて黒光りする魔石をナキアちゃんとキアリーちゃんに見せた。


 その後わたしはわたしたちを見守る船員たちに向かって「飛竜はみなさんで自由にしてください」と、大きな声で言ったら、わーー! と、歓声が沸き起こった


 今回もヒロインになってしまった。



 前回同様その日の夕食は船長食堂に招かれた。




 翌朝。


 前回は船内見学しようとしてあまりの臭さに断念したんだけれど、今回はそんな気を起こすことなくわたしたちは朝食を食べ終えて船室に戻ったら麦がゆの口直しに酒盛りを始めた。


「シズカちゃん。わらわは大変なことに気づいたのじゃ」


「何に気づいたの?」


「瓶に入った濃い酒じゃが、この調子でいくと行きだけで飲み終わってしまうのではないじゃろか?」


 確かに。今のところ帰りがどうなるのか不明だけど、予定では帰りは20日間の航海だ。


「ナキアちゃん、それも大変なことだけど、上陸してからも20日間もあるよ。上陸中はさすがにお酒は飲めないんじゃない?」


「それもあったのじゃ。

 わらわは酒のない生活が怖いのじゃ」


 とうとうアルコール依存症患者のような発言が飛び出してしまった。もちろんナキアちゃんの祈りがある以上いくらお酒を飲んでも体調不良にはならないだろうし、ましてや依存症にはならないハズ。


 とはいえ、確かにアルコールのない生活は考えたくない。これって立派な依存症じゃ?

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