第157話 堀口明日香4、諸々の召喚2


 LEDランタンの光を絞ってベッドに入ったものの、零時まで数時間寝ていた関係でさすがにすぐには眠れなかった。


 うつらうつらして眠ったかなと思ってたら夜が明けたようで、出入り口が少しだけ明るくなっていた。すぐにランタンに手を伸ばして明るさを最大にした。


 そういえばシャワーにも入っていないし、下着も着替えていなかった。女神さまがアイテムバッグの中に下着類も用意してくれていたので着替えようと思っていたら、いきなりジゼロンが目の前に現れた。


「ジゼロン。おはよう。

 いきなり現れたらびっくりするから今度からは出入り口から入ってきてよ」


「陛下。おはようございます。

 気付かず申し訳ありませんでした」


「怒ってるわけじゃないから」


「ありがとうございます。

 陛下。お着替えなどはお持ちでしょうか?」


「持ってるから着替えようと思っていたところにあなたが現れたの」


「それは失礼しました。

 入浴の設備も洗濯の設備も揃っていませんから、わたしが陛下のお体と衣服に洗浄の魔法をおかけしましょうか?」


「そんなのがあるんだ。それって裸にならなくちゃいけないの?」


「裸になられてもいいですが、衣服を着たままでも洗浄できます。汚れがホコリになって出てくるのでパタパタと衣服の上から体をはたけば十分でしょう」


「そうなの。それならお願いするわ」


「それでは、クリン!」


 何だか体がスーッとした。気持ちいー。


 そのあと服の上から体をパタパタはたいたら確かにホコリが出た。そのうちお風呂に入らないといけないな。


「ありがとう。

 召喚の方はどんな具合」


「いただいたSPポイントは使い果たしました。

 まだまだですが、少し格好がついたかもしれません」


「食事の前に見てきた方がいいわね」


 今度はわたしが先に立って部屋を出て、階段を上って地上に出た。



 地上ではバラックのようなものが何個か建っていた。兵士が2人組で巡回しているほか目立った動きはなかった。


「兵士を10名増やし20名としています。その他、土木技術者1名、建築技術者1名、石工、大工といった職人10名。作業員20名を召喚しました。兵士は3ポイント、技術者は5ポイント、職人は3ポイント、作業員は2ポイントでしたので、3×10+5×2+3×10+2×20=110ポイント。

 10人用のバラックを7つ召喚して、5×7=35ポイント。

 30人用バラックを1つ召喚して、10ポイント。これは厨房兼食堂として使います。

 食料、厨房用品などを召喚して3ポイント。

 その他資材で2ポイント。

 ここまでで、160ポイント。

 今日は前庭の整備と城壁の修復。井戸と地下排水路が見つかりましたので、給排水設備を整備します。今日の夕方には陛下のお部屋に水道とお風呂の用意ができると思います」


「水道は分かるけど、お風呂のお湯はどうするの?」


「当面は地上にお湯用のタンクを設置して、そこから配管して自由に使えるようにします。お湯はわたしが魔法で沸かします」


「あなたからすれば大したことじゃないかもしれないけど、他の方法はないの?」


「いずれ魔法ではなく何らかの方法で沸かせるように改善します。

 あとは、これからの作業で必要な資材を技術者たちが設計書にまとめますのでそれを見てどんどん資材を召喚していきます」


「ジゼロン。任せたわ。わたしの持ってるSPポイントは今500なんだけど、全部使ってちょうだい」


 そう言ってジゼロンに500ポイント譲渡するよう頭の中で考えたらSPポイントがゼロになった。


「受け取りました」


「うん。それじゃあわたしは部屋に戻って食事してくる」


「はい」



 朝食はアイテムバックの中からサンドイッチを食事用テーブルの上に取り出した。ポテトサラダサンドとハムレタスサンドと玉子サンドが透明のペラペラプラスチックの包みに入っていた。飲み物はボトル型の缶コーヒーにした。女神さまは地球のコンビニに詳しいみたいだ。



 妙においしいサンドイッチを完食して缶コーヒーを飲み終えたわたしは、ゴミ箱を用意するのをわすれたのでサンドイッチの包みと空き缶をテーブルの上に置いたまま部屋を出た。


 ゴミ箱があったとして、ゴミの回収車が来るわけでもないので最終的にはジゼロンが処分するんだろうな。なんにしても分別しなくていいはずだから、そこはありがたい。


 部屋を出たら部屋の出入り口の左右に一人ずつ兵士が立っていた。わたしって女王さまなんだからそれくらい当たり前だと思って「ごくろう」と鷹揚に一言言って通路に出たら、二人がわたしについてきた。どうもわたしの護衛だったみたい。ジゼロンが教えてくれていなかったので分からなかった。



 通路の天井にはランプが灯されていた。少しずつ生活環境が向上してきた。

 


 階段を上って地表にでたら大勢の作業員が忙しそうに立ち働いていた。ジゼロンは召喚魔法陣の前に立っていて、召喚魔法陣の上にはおそらく石畳用の石材が積まれていた。その石材を作業員が2輪の台車に乗っけて運んでいた。まさに工事現場だ。バラックの数も何気に増えていたので作業員の数も増えているのだろう。


「ジゼロン。ご苦労さま」


「陛下、順調に作業が進んでいます」


「それは良かった」


「資材の召還は午前中で一応目途が立ちますので、午後から、周辺の魔族をここに集めて陛下に恭順させようと思いますがよろしいでしょうか?」


「それは構わないけど、簡単にわたしに恭順するものなの?」


「そのための秘策があります」


「なに?」


「魔族は角の大きさで社会的地位が決まります。

 陛下に立派な角をおつくりしますからその角を被っていれば簡単に魔族は陛下に恭順します」


「被るって帽子なの?」


「はい。角など生活上邪魔なだけですから、通常は外して、式典や儀式などの時だけ被れば十分です」


「あなたがそういうならそれでいいわ」


「いちおう考えております陛下用の角ですが絶対魔法防御、絶対物理防御を付加しようと思います。そうすれば、陛下の安全が一段と高まります」


「そんなものまで召喚できるんだ」


「はい。ポイント的に少々値が張ると思いますがあれば必ず役立つものですから」


「任せるわ」


「それでは石材が片付いたら召喚します」


 そう話している間にも石材がどんどん運ばれて行き、召喚魔法陣の上に何もなくなった。


「いきます」


 今まで以上に明るく召喚魔法陣が青く輝いたあと、魔法陣の真ん中にヘアーバンドに2本の立派な角が付いた被り物が現れた。


 ジゼロンが魔法陣の中に入ってそれを手にしてわたしに渡してくれた。手に持ったところ結構重たかった。試しに頭にかぶったら、意外なほど頭にフィットして違和感はなかった。


 その事をジゼロンに言ったら、


「見た目はそこまで大した物に見えませんが、これでもアーティファクトですから」と、答えが返ってきた。


「これでいくらしたの?」


「150ポイントでした」


「高いと言えば高いのかもしれないけど、絶対魔法防御、絶対物理防御が付いているんなら高くないんじゃないの」


「はい。

 試してみませんか?」


「どうやって?」


「まずはわたしが陛下の手を軽く叩いてみます」


「軽くしてよ」


「もちろんです。それじゃあいきますよ。右手を出してください。手首を軽くたたきますからね」


 ジゼロンが左手でわたしの右手首をはたいたんだけど、音もしなかったし痛くも何ともなかった。


「全然痛くなかったから、もう少し強くはたいてもいいわよ」


「それじゃあもう少し強くたたいてみます」


 再度ジゼロンが左手でわたしの右手首をはたいたんだけど、今度はジゼロンの手から音がしたけどわたしの方からは音がしなかったような。もちろん全く痛くなかった。


「今回も同じ。全然痛くなかった」


「今のは普通の人間が受けたら手首がちぎれる程度だったんですが、絶対物理防御は働いているみたいですね」


「ジゼロン、そんなに強くたたいたの!?」


「いえ、まあ。手首程度ならわたしが魔法で繋げることもできますし」


 結果オーライだからこれ以上言ってもね。


「次は魔法ですね。

 陛下に向けてファイヤーアローを撃ちます。服が焦げるくらいのかなり弱いものです」


 服が焦げるって十分強そうだけど、そうでもないのかしら。とか考えていたらいきなり橙色の光がわたしのお腹辺りに命中して弾けるように消えてしまった。何も感じなかったし服も焦げてはいない。


「今のファイヤアローは普通の人間が受けたら腹を貫通して貫通跡は炭になる程度の威力だったんですが、絶対魔法防御もちゃんと機能しているようですね」


 ジゼロンはきっと楽しんでる。だからと言ってどうするわけじゃないけど、ちょっと癪に障るな。



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