第158話 堀口明日香5、魔族


 角の被り物の実験が無事終了した。


「陛下、角はうまくいきましたから次は玉座を召喚します。あった方がいいですからね」


 ジゼロンはそう言って、召喚魔法陣に向かった。すぐに召喚魔法陣が青く輝いて後ろの背もたれがやけに大きな椅子が現れた。玉座用の椅子なんだろうけど座り心地は悪そうだ。出来ればゲームチェアかOAチェアが欲しかった。


「天子は南面すると言いますから、召喚魔法陣の北側を玉座ということにしましょう」


 よくそんなことを知ってるな。その辺りは本当に謎だ。ジゼロンって実は地球産だったのだろうか?


 ジゼロンが召喚魔法陣の北側にその椅子を置いた。


「陛下。どうぞ」


 そう言われたので、わたしは座り心地を試そうと、その椅子の前まで行き作りをよく見てみた。背もたれや肘掛けにはかなり凝ったレリーフが施されている。レリーフのモチーフは森とドラゴンだ。ジゼロンが召喚した椅子だからドラゴンなんだよね。



 座ってみたら予想通り座り心地は悪かった。行事の時以外座る必要もないだろうから我慢すれば何とかなると思おう。


「それではわたしは魔族の代表を見つけてここに連れてきます。陛下はこのままその椅子に座っていてください」


 そう言ってジゼロンはドラゴンの姿になって翼をはためかせて飛んで行ってしまった。翼をはためかせた割に風は起こっていなかった。謎生物だものね。


 それはそうと、わたしここに座ってないといけないのかしらん?


 硬い椅子の上に我慢して座っていたら、わたしの左右に兵隊たちが集まってきた。一人でポツンと大きな椅子に座ってたらばかなりイタイものね。


 それはそうと魔族の代表とかがここにやって来たら、わたし何言えばいいんだろ? ジゼロンに丸投げで、苦しゅうない。だか、よきにはからえ。でいいんだろうか?


 座り心地の良くない椅子に座って、肘掛けに腕を置いていたら、凝ったレリーフのおかげで腕にあとがついてしまった。


 肘掛けから腕を引っぺがして、膝の上に手を置いた。


 日差しの中、作業員たちの仕事ぶりをぼんやり眺めていたら、30分ほどしてジゼロンが人の姿で転移して戻ってきた。


「陛下、1時間ほどで、魔族の代表がここに参ります」


 あと1時間もここで待ってなきゃいけないの? 日焼けが心配だし、だんだん頭の上のアレが重くなってきてるんだけど。


 文句を言っても何も変わらないことは分かっているので、これも女王稼業のうちと考えて耐えることにした。


 とは言ってもねー。


「ジゼロン。結局魔族は何人くらいいたの?」


「もちろん推定ですが、多くて1000と言ったところでしょうか」


「多いのか少ないのか全然分からないけど」


「ここは標高2000メートルから3000メートルの山並みに囲まれた盆地の中心に位置しています。盆地の半径は50キロを超えています」


「そんなに広い盆地なんだ。じゃあ、ここってどこかの大陸に位置するの?」


「先ほど、上空から観察したところ、島のようで、端から端まで見渡せました。南北、東西、南北の方が少し長いようでしたが、どちらも1000キロはありそうでした」


「ずいぶん大きな島なのね」


「そのようです」


「将来的にはちゃんと測量した方がいいから、その事を覚えておいて」


「はい」


「それで、盆地の外に魔族はいないみたい?」


「そこは確認していませんので何とも」


「いたら、ここが魔族の国だと教えないといけないよね」


「そうですね」



 そういった話をしていたら、みすぼらしい格好をした一団が兵士に付き添われてわたしの前にやってきた。その一団の人数は7人で、大きなかごがぶら下がった棒を2人ずつで担いでいた。


 一人だけ荷物を担がず先頭を歩いていた老人がわたしの前にやってきた。この辺りに住む魔族の代表なのだろう。頭の上にちょこんと角を生やしていた。それが造り物かなまなのかは分からなかった。


魔族われらの王が立たれたと聞き、こうして貢物を持って参上いたしました」


 貢物を貰うとか考えてもいなかった。何かお返ししなくちゃいけないはずだけど、今用意してないから後日だな。


「うん。ご苦労」


 答礼については仕方ないので何も言わず、鷹揚にうなずいておいた。


「ジゼロン」後は任せた。


「はい」


 あとはジゼロンに丸投げでいいでしょ。その方が貫禄あるように見えるもの。


「そのほうの名を陛下の前で」


「ガイウスと申しますじゃ」


「この地には名があると思うが、何という名だ?」


「この城一体のことをわれわれはプリフディナスと呼んでおりますじゃ。プリフディナスとは都の意味ですじゃ」


「なるほど。

 この地にどれほどの魔族が住んでいるか分かるかな?」


「正確には分かりませぬが多くて2000といったところと思いますじゃ」


「この地以外の魔族のことは分からぬか?」


「600年前の人魔大戦の最後、この城が破壊されて以来魔族は散りじりになっておると聞いておりますじゃ。われらはプリフディナスに住み続けておりますが、ほかの魔族たちの消息は皆目分かりましぇん」


「分かった。

 見ての通り、ここは新たな城を建てている最中で皆を饗応することもできないありさまだ。

 申し訳ない」


「いえ、滅相もありませんのじゃ」


「貢物は受け取ったので、答礼としてこれを持ち帰ってもらいたい」


 一瞬召喚魔法陣が青く光り、木箱が3つ現れた。木箱にはロープの付いた網がかかっていて、魔族たちが担いできた棒を通せば担げるようになっているようだ。さすがはジゼロン、痒いところにも手が届いている。


「少し重いだろうがこの箱を持ち帰って欲しい。箱の中に入っているのは、塩、砂糖、コショウなどだ。

 砂糖とコショウは分かるかな?」


「はい。見たことはありましぇんが、分かりますじゃ」


「それは良かった。

 城ができれば、次は道を開き運河を通すことになる。そうすれば、畑も作れるようになる。

 こうやって貢物を持って陛下の前に参上した以上、みなは既に陛下の下でわが国の国民である。そのときはもちろん種も農具もこちらで用意する。

 それでは気を付けて帰ってくれ」


「ありがとうございますじゃ。ありがとうございますじゃ。

 ところで、陛下のお名前は?」


「陛下、どうぞ」


 明日香では何となくわかりづらそうそだから、それっぽい名まえにしてみた。


「アースカ。わが名はアースカ」


「アースカ陛下、万歳!」と、ガイウス老人がいきなり大声で叫んだ。


 びっくりしたら、今度はガイウス老人が連れてきた6人も大きな声で「アースカ陛下、万歳!」と叫んだ。


 そしたら、わたしの左右に立っていた兵隊たちが持っていた槍を床に打ちつけて「アースカ陛下、万歳!」と叫び、それが作業を続けているみんなに広がっていった。


 わたし女王さまなんだって実感した。


 万歳が収まったあと、ガイウス老人が引き連れてきた6人がそれぞれ棒を木箱から出ているロープに掛けて木箱を担いだ。


 ガイウス老人が振り向きながら頭を何度も下げて魔族の一団は帰っていった。


「今のところは何の役にも立ちませんが、これでかれらもわたしたちの仲間です」


「ジゼロン。いい仕事をしてくれて、ありがとう」


「お褒めにあずかり、恐れ入ります」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る