生きてくだけで特になにもしなくていいと神さまに言われたので、そのつもりで異世界を満喫します

山口遊子

第1話 始まり

[まえがき]

よろしくお願いします。安定のテンプレスタート。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 目が覚めると、真っ白い部屋の中。壁もなければ天井もないので正確には部屋ではないのだろう。便宜上部屋というけれど、その部屋の真っ白い床の上に仰向けにわたしは横たわっていた。目の前に広がっているのは白い空間だけだ。特に体が痛いわけでもないが妙にだるく体を動かそうと思っても動かすことはできなかった。それどころか体に関する感覚が何もなかった。


 少しぼーとしていると頭の中で柔らかい女性の声がした。


『気が付きましたね。あなたにお願いがあり、あなたの意識だけこの空間にお呼びしました』


「あなたは?」


『申し遅れました。わたしは、ガーディアという名の世界の管理をしている者です。名前は、そうですね、安直ですがアドミナとでも呼んでください。

 あなた方のいう神に近い存在ですが全能というわけではありません。できないことも数多くあります』


 言っていることはアレだが、丁寧な言葉遣いから、アブナイ人ではなさそうだ。全能ではないということは、多神教の神さまのようなものと考えればいいのかな?

 それはそうとガーディアという名の世界? 地球では聞いたことのない名前だ。つまりは異世界?


 ざっと考えを巡らせたわたしは、アドミナと名乗る神?の最初の言葉に戻り、


「お願いとはなんですか?」と、尋ねてみた。


『ガーディアで生活して頂きたいのです』


「生活するだけで良いのですか?」


『はい、それだけです』


「理由をうかがってもよろしいですか?」


『もちろんです。ガーディアは、いわゆる『剣と魔法のファンタジー』世界なのですが、ここ数百年の間、魔力の循環が滞り、非常に不安定な状態になっています。おそらく、ガーディアは100年後には星として崩壊するでしょう』


 剣と魔法の世界。それに加えて世界の崩壊か。世界の崩壊が何を意味するのか分からないけれど、少なくとも人間は住めなくなるのだろうと想像できる。なんか言葉が出ないな。


『生命体の中で生まれた魔力が生命活動の中で消費され、余った魔力が魔物の中で魔石などに固定化されることで、世界全体の魔力量が一定の水準に保たれている状態が望ましいのですが、この数百年間、魔力量が大きく基準値を上回り、過剰となった魔力がガーディアの現在だけでなく因果にまで干渉することで、世界を不安定にしているのです。

 600年前、人族と魔族の間で行われた人魔大戦と呼ばれる戦いで人族の勝利後、魔物の絶対数が減ったことが魔力量の過剰の主因ですが、それに派生して魔物の被害も減少したことで魔物を討伐する機会も減少し、大きな戦乱もなかったことで魔術師の技能が伸びず人族の魔力の消費が徐々に減少していることも要因の一つになっています』


 わたしはアドミナと名乗る神の言葉を聞いてはいたが、ほとんど理解できなかった。


『魔力の循環を元通りにするために、あなたの存在が重要な役割をはたすのです。どういうことかと言いますと、魔力の存在しない世界の生命体はこちらの世界では魔力に対する特異点となります。その特異点における不連続性を利用し、魔力を無に還元することが可能なのです。

 これは一種の触媒反応なので触媒たるあなたには一切影響ありませんし意識する必要もありません。ただ、量が量ですので、この還元には百年単位の時間が必要と考えています』


「これから先、100年もわたしは生きてないと思いますが」


『だいじょうぶです。その点は心配ありません』


「そうですか。……」。神さまが言うんだったらそうなのか。


「お願いということは、お断りすることもできるんですよね?」


『可能です。無理強いは致しません』


「お断りした場合どうなりますか?」


『あなたを元の世界の元の時刻、元の場所にお戻しすることになります。

 そこでのあなたの肉体は回復不能な状態まで損傷していますので正直お勧めしません。

 あなたを返し、あなたの肉体を回復できれば良いのですが。因果の混乱を利用してあなたの精神だけをここにお連れしただけなので、これ以上の干渉はできないようです。申し訳ありません』


 そういえば、わたし、親友の堀口明日香の葬式に向かう途中トラックに轢かれたんだった。すっかり忘れてた。南無、……。断る選択肢はありませんでした。


『ガーディアそのものについては、このまま崩壊させるわけにはいけませんので、すべての生命体を消去し、これ以上の余剰魔力の増加を止め、数万年をかけて魔力の拡散を待ちます』


 全ての生命体の消去……。なにそれ、普通に怖い。


「お話了解しました。そちらの世界、ガーディアでぜひ生活させてください」


『ありがとうございます。では、あなたとあなたの世界との接続を解放します。……。解放しました』


 これでほんとうに戻れなくなったのか。まあ、戻ったとしても、その瞬間死んじゃうようだけど。


 前向きにいこう。


『お礼というわけではありませんが、ガーディアで生きていくうえで役に立ちそうなスキルやアイテムを用意していますのでご利用ください』


 スキルキター!! アイテムキター!!


『まずはスターターパック』


「ずいぶん準備が良いですね」


『はい。二つの世界が最接近するこの瞬間を200年も待っていましたので、その間準備してました。

 で、スターターパックですが、

 スキル:ナビゲーター

 スキル:マッピング1

 スキル:識別1

 スキル:生活魔法1

 スキル:言語理解1

 アイテム:アイテムボックス(巾着(金貨5枚、銀貨20枚、銅貨20枚入り)、ナイフ、ロープ、万能ポーション20、携帯食20日分、水袋2、毛布、下着類、革鎧上下、鎧下よろいした上下、革のブーツ、革の手袋、マント、ベルト、調理セット一式、塩・コショウ、料理油、酢、日用品一式(タオル、布、食器類、ハサミ、針、糸、その他)、小型スコップ、小型斧、その他)

 がセットになっています。ガーディアであなたが実体化したときにアイテムも同時に実体化しスキルも同時に発現します。アイテムやスキルの説明や使用法、その他こまごましたことはナビゲーターが案内しますので安心してください』


「分かりました」


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