前のエピソード――第六回変化の兆し

　王倫（おうりん）から夢の話を聞かされた老（ろう）氏と若（じゃく）氏。二人の意見は十中八九（じゅっちゅうはっく）予知夢（よちむ）であるという判断（はんだん）で一致（いっち）した。

「では私はいずれ殺されて人生を終える…… と？」

　王倫は力なくその場にへたりこんだ。

「先生方の話を聞いて折角（せっかく）目指すべきものが掴（つか）めそうだと思った矢先（やさき）に……」

「とはいえ、じゃ。それが未来の事を示しているのであれば、やりようによって変えられる方法もあろう」

　若氏も同意する。

「そうですね。さすればその夢の出来事を回避（かいひ）できるかもしれません」

　二人のその言葉に縋（すが）り付く思いで立ち上がる王倫。

「ほ、本当にそんな事が出来るのでしょうか」

「夢からそうなる原因（げんいん）を特定（とくてい）さえしてそれを排除（はいじょ）すればあるいは、じゃがな。もし変えられぬものがあるならそれは天が定めた寿命（じゅみょう）位（くらい）のものじゃろう」

「原因の特定とは言っても全く知らぬ男の何を特定すれば良いのか……」

「夢での会話などは覚（おぼ）えておられないのですか？」

「！そう言えば話す内容（ないよう）を聞いた覚えがありません」

　夢の特徴（とくちょう）のひとつに今更（いまさら）気がつく。

「と、すればまだすぐという話ではないのかも知れんな。まぁ猶予（ゆうよ）もあまりないのは確かじゃろうが」

「間接的（かんせつてき）な恨（うら）みが引き起こすのかも知れませんね」

「間接的……？それはどういう事でございましょう？」

　若氏の発言が気になり質問する。

「あー、気分を害（がい）さないでいただきたいのですが……」

「だ、大丈夫です」

　念（ねん）を押されて王倫はごくりと唾（つば）を飲んだ。

「王倫殿の手下の皆様は所謂（いわゆる）山賊（さんぞく）。その行為（こうい）に晒（さら）され泣いている人もいるのではないか、と思いまして」

「！！」

　つまり山賊にされた行為の復讐（ふくしゅう）をその頭目（とうもく）に向けた可能性という話である。

「例（たと）え王倫殿が関わっておらずとも相手がそれを信じるかどうかまでは……」

「被害（ひがい）を受けた者にとっては関係ない話かもしれぬしのぅ」

　王倫は真（ま）っ青（さお）になった。確かに自分はここの所そういった指示（しじ）も出していないし考えてもいない。だが恨みを買っていないかといえば心当たりは山程ありすぎたのだ。

「い、いかん！こうしてはおられん。せ、先生方、私は今日はこれで失礼させていただきます」

　しかし踵（きびす）を返す王倫を老氏が呼び止める。

「ああ、王倫殿お待ちを。明日は我らはいつもと違う時間に来ようと思っていましてな」

「違う時間…… ですか？」

「はい。よければ是非（ぜひ）その時間にここに来ていただきたいのです。必ず他人（ひと）には見られぬようお願いしますぞ？」

　王倫は不思議に思ったが、この二人が自分に妙（みょう）な事をするとは思わなかったのでそれを承諾（しょうだく）して寨（さい）に戻った。

　戻った王倫はすぐに副頭目の三人を呼び今後の方針（ほうしん）を語って聞かせ、さらに細かく説明する。

　朱貴（しゅき）、杜遷（とせん）、宋万（そうまん）の三人は王倫のまるで人が変わったかの様な指示に驚（おどろ）いた。実際（じっさい）今までの王倫はする事もないのかただ酒を飲み、気分（きぶん）次第（しだい）で周囲（しゅうい）にあたりちらす日々（ひび）の繰り返し。故（ゆえ）に梁山泊の者達は彼の顔色を伺（うかが）って生活している背景（はいけい）事情（じじょう）があった。