第二十回 義兄弟の誓い

 梁山泊りょうざんぱくでは最近さいきん酒場さかばからの売り上げが増えた。朱貴しゅき杜遷とせん宋万そうまん担当たんとうする酒場に純粋じゅんすいに旅人が増えたのだ。酒場は情報を集める目的もある為山寨を囲む湖の反対側の岸に、西側(開封府かいほうふ方面ほうめん)、北側(滄州そうしゅう方面)、南側(蔡州さいしゅう揚州ようしゅう方面)と配置はいちしてあった。


 だがどの酒場も旅人がほぼ均一きんいつに増えるという怪現象かいげんしょうが起き王倫おうりんも調査に乗り出す。


 原因は難しいものではなかった。ここをおとずれた旅人が『わざわざ』すべての酒場に立ち寄っているのだ。


「梁山泊にある酒場は各々おのおの独自どくじの料理があり、そのどれもが美味うまい」

「梁山泊はぞく根城ねじろと言われているが実際じっさい下手へたな街より治安ちあんが良い」


 旅人同士の情報交換により『旅の途中に寄る場所』から『旅の目的地』になっていたのである。そのせいか『無法者むほうもの』がこの地を目指す事も増え、手下の数も現在では千を超える勢力せいりょくになっていた。


「これは間違いなく杜遷、朱貴、宋万の切磋琢磨せっさたくました結果の功績こうせきであろう」


 王倫が店にねぎらい目的で行くと、旅人同士がどこの店が一番美味いかで口論こうろんになっており、それを朱貴(又は杜遷、宋万)がなだめる。というような現場に遭遇そうぐうしたりもした。


「治安に関しては間違いなく林冲りんちゅう殿と楊志ようし殿の功績こうせきでしょう。首領しゅりょう(頭目とうもく、おかしら)はあの二人を離反りはんさせないようにしてくださいよ?」


 と三人に言われた王倫。店をりする中で成長をげていた三人を彼はうれしく思った。


「「「料理や給仕きゅうじに向いてる手下は優先的にうちの酒場に!」」」


 ……息もぴったりのようだ。


 何事なにごともなく過ごしていたある日、王倫は夢を見た。……ただの夢だと思っていたのでそれを林冲と楊志に話す事に何の疑問もいだかない。


「私は誰かと義兄弟ぎきょうだいになる夢を見た。相手の顔は覚えていないが、言うなれば三国志さんごくし演義えんぎ劉備りゅうびみたいな感じだったな」


 林冲はそれをきいて、


奇遇きぐうですね。私も相手を覚えていませんが、義兄弟になる夢を見ましたよ」


 と言い、楊志も驚く。


「なんで二人が昨夜さくや見た私の夢の内容を知ってるのか? ってくらい同じで恐怖きょうふすら感じます」


 三人は顔を見合わせる。


 ……それは偶然ぐうぜんではない。きっと天意てんいだと杜遷、朱貴、宋万も三人が義兄弟になる事をすすめた。


 これは三人から王倫への恩返おんがえしの意味もふくまれている。林冲や楊志に実力でおとる三人はその席次せきじを二人にうばわれても文句もんくが言えなかったかも知れない。

 しかし王倫が二人を助ける為、間に自分達を入れてくれた事で林冲と楊志に恩を抱かせる事になった。その結果、林冲も楊志も末席まっせきで構わないと波風なみかぜも立たずに丸くおさまったのである。


 林冲と楊志が梁山泊へあつい信頼を向ければそれは確実に良い方向に働く。その王倫の意図いとに気付く位には三人は成長していた。さらに自分達の席次よりさい発展はってんが重要だという意識の変化も起きていた。


 なので王倫、林冲、楊志の三人は良い日を選んで義兄弟のちぎりをわした。年齢で言えば年長ねんちょうは林冲だったが、山寨の首領である三十一の王倫を長兄ちょうけいとし、次男が林冲、三男が楊志となる。しくも王倫と楊志は同い年であった。

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