第二十九回 忍び寄る影

 王倫おうりんが夢を見た翌日。再びみなが集まって方針ほうしんを決めようとしていた。


義兄上あにうえ、考えは決まりましたか?」


 林冲りんちゅうがたずねる。


「うむ……」


 王倫は夢の内容が気になりどう伝えたものか悩む。


(あれは予知夢だと思うのだが、なぜあんな場面を見たのか。今の状況からどうつながるのか……)


義兄あにき!」

首領しゅりょう!」


 楊志ようし朱貴しゅき達もうながしてくる。


「おそらくだが戦いになるであろう」


 王倫の言葉に皆驚く。……よりも不思議がる。


「戦い?」

「誰と戦うというのですか?」


 楊志は違う受け取り方をした。


晁蓋ちょうがい一味いちみ急襲きゅうしゅうするんだな? 是非ぜひ俺にやらせてくれ!」

「なるほど!」


 王倫はあわてて否定する。夢の内容はそんな小規模しょうきぼではなかったからだ。


「違うのだ。もっと大きな規模なのだ」

「? どういう事なのです?」

「相手は官軍だと思うのだが……」

「官軍!? なぜ我々われわれが官軍と!?」

「それが本当なら急いで備えねば!」


 皆がざわつくが肝心かんじんの原因が王倫にもまだわからない。そこへ


「ご報告! ご報告!」


 王倫の命を受けて任についていた手下が戻ってきた。


「なんだ。どうしたのだ?」

「晁蓋達ですがすでに東渓村とうけいそんにはおりません!」

「なんだと? 最初からいなかったのか?」

「いえ、あわただしくやしきを出たような形跡けいせきはありました」

「義兄!」

「うむ。捜査そうさの手がびた事に感づいたのだろう。役人達は?」

「自分が確認した時にはまだ来てはおりませんでした」

「義兄上。これでは後手ごてに回ってしまいますぞ?」


 王倫は腕を組む。


「示し合わせた逃亡なら石碣村せっかそんの方からも何か報告があるはずだ。それがないという事はげん兄弟はまだ村にいるという事になる」

「情報が露呈ろていしたというのにそのまま村にとどまりますか?」

「ないだろう。なのに動く様子がないというのは……!!」


 王倫の中ですべてがつながった。


「そうか。晁蓋達はここに逃げ込む気なのだ!」

「!!」

「石碣村で阮兄弟が舟を用意し、そこに晁蓋達が合流、水路すいろでこの梁山泊りょうざんぱくにくるつもりなのだろう」

(だとすれば……)


「晁蓋達を追ってくる官軍がこの付近に現れる事になる」

「どうしますか首領!」

生辰網せいしんこうを狙うなら晁蓋達を追い返す訳にいかず、じゃあ官軍と仲良く出来るかと言えばそれは最初から無理な話だ」


 王倫は林冲と楊志の顔を見る。


「どうやらそれを見越してここに逃亡する事を選んだのだ。晁蓋自身なのか協力者の知恵なのかは分からぬが」

めた真似まねをしてくれる!」

「どうしますか義兄上?」

「……役人は晁蓋達を捕らえるつもりで追跡ついせきしている訳だ。捕物とりもの想定そうていしているだろうがいくさは予想外だろう。なのでこれは『数を見せれば』撤退てったいするに違いない」


 王倫はその後副頭目達に指示を出した。


 林冲と楊志はそれぞれ二百の手下を率い、追っ手が来たら威嚇いかくして撤退させる。目的達成後は急ぎ戻り王倫と合流。


 杜遷とせん、朱貴、宋万そうまんは酒場の旅人達を避難ひなんさせ、晁蓋達が現れたら統制とうせいのとれたさいの様子を見せつけながら王倫のもとへと案内する。


 晁蓋達の真意しんいを全員で確認したのち、本格的に攻め寄せてくるであろう官軍に対抗たいこうすると決めた。

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