第二十七回 露見

 林冲りんちゅう楊志ようしが向かう道すがら、梁山泊りょうざんぱくへと向かう伝令でんれいとすれ違う。呼び止めて話を聞くと、王倫おうりん危惧きぐした通り白勝はくしょうの家に官憲かんけんみ込んだとの事だった。


 白勝と妻はとらえられ、すで拷問ごうもんにかけられているらしい。どうやら白勝が酒樽さかだるかついで出かけた所を目撃もくげきしていた者もいたようだ。


「酒売りの男がそいつか!」


 楊志は屈辱くつじょくを思い出す。だが自分の怒りより目的を達成たっせいする事を優先する。


「必ず生辰網せいしんこう義兄あにきに渡す! 奴の仲間の情報をつかむのは俺達だ!」


 林冲と楊志それと手下達はすぐに二人がとらわれている場所には向かわず、夜を待って襲撃しゅうげきする計画を立てた。だが……


「何!? もう仲間の情報をいたのか!?」


 監視かんししている手下によると白勝は激しい拷問に耐えきれず、あっけなく仲間の情報をしゃべったらしい。それにより拷問は一旦いったん中止されているが白勝と妻は動く事が出来ず、拷問を受けた場所でしばられたままのようだ。


我等われら兄弟のきずなを見習えとまでは言わないがこうも簡単に喋るとは。……まぁ目の前で妻が拷問されたというのもそれがねらいだったのだろう」

「起きてしまった事は仕方ない。だが逆に考えればこれで二人の監視はゆるくなるな義兄あにき

「うむ。情報を引き出す目的は果たされた訳だから油断ゆだんしている可能性はある」


 二人はすぐさま白勝と妻を梁山泊へ連れて行く計画に修正しゅうせいを加える。同時に判明はんめいした情報を急いで王倫へと伝えさせた。



東渓村とうけいそん名主なぬし(長)、晁蓋ちょうがい? その男が生辰網強奪の首謀者しゅぼうしゃなのか」


 梁山泊では早速さっそく対応が協議きょうぎされる。東渓村は梁山泊からもそう遠くない。


「晁蓋とはどのような人物だ? 名主ならばそこまで金に困るような生活ではないと思うが」


 それには朱貴しゅきが答えた。


「私が放浪ほうろうしていた時にうわさを聞いた事があります。なんでも武術を好み義に厚い好人物で、困っている者には必ず手を差し伸べ、貧しい者にほどこし、天下の好漢こうかんたちとまじわり、頼ってくる者は屋敷やしきに泊め路銀ろぎんを出してやるなど世間に広く名が知れた人物だと」

「……なんだそれは。完璧かんぺきすぎて逆に胡散臭うさんくさく思えるぞ」

「ええ。私もそう思い梁山泊を選んだのです」

「それは……別の意味で失望しつぼうさせただろう」

「!? いえ! そういうつもりで言った訳ではありません! 今ではむしろほこりですから!」


 話が一時いちじ脱線だっせんしてしまったが、さらにその一味として挙げられた名前に王倫が最近聞いた名前がありおどろく。


阮小二げんしょうじ阮小五げんしょうご阮小七げんしょうしちだと? それは石碣村せっかそんの阮三兄弟か?」


 王倫が違和感いわかんを抱いたその三人はやはり生辰網強奪にからんでいたのだった。


「東渓村、石碣村に黄泥岡こうでいこう近くの村か」

「なるほど。どれもそう離れていませんね」

「よし、阮兄弟の動きをそのまま見張れ。東渓村にも監視の手下を向かわせるのだ。林冲と楊志が白勝とやらを連れて戻ったらこちらも次の手を打つ事にする」


 王倫はそう指示を出し、晁蓋達の動きを予想し始める。ちょうどその頃、くだんの晁蓋のもとへ一人の男が急いで向かっているのを王倫達はまだ知らない。

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